表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕のいもうと  作者: AI
5/32

高校進学

「坂本 何だよ 一次会で帰るのか?」


大学サークルの先輩である黒田さんが 俺を呼び止める。


「すみません 今日は妹が来てるんで・・・ 早めに帰ってやりたいんです。」


「ああ そうか。 妹さん こっちの高校に進学決めたんだもんな~


しかし お前も偉いね。


きままな一人暮らしに 突然妹が雪崩れ込まれたら いろいろ不便だろ?」


気の毒そうに 黒田先輩は俺の肩を叩く。


「いえ・・・ 美幸は 気配りできる子なんで そうでもないです。」


俺は零れそうな笑みを必死に堪えた。


「それじゃあ 失礼します。」


なるべく 急ぎ足にならないように 俺は駅の階段を降り


平静を装って 電車に乗り込んだ。


だが・・・


************************


「義兄さん 3年間 よろしくお願いします。


私 家事全般 頑張ります。」


昨日 俺の部屋に ボストンバック一つ持った義妹は そう言って 小さな頭をペコンと下げた。


「クスッ そんな 畏まらなくていいよ。


俺も一人暮らし2年間やってるから 料理はだめでも 掃除とか洗濯くらいなら出来るから。」


「せ 洗濯は 私が全部しますから・・・」


「あ ああ そうだよね。・・・でも あんまり頑張りすぎなくて いいからね。」


「はい。」


そう言って 美幸はふんわりと微笑んだ。


************************

昨夜のことを思い出して ひとりにやけてしまい・・・


隣に立っていた OLが気味悪がって つり革を一つ遠ざけた。


この時間の電車は割合空いていて 普段の帰宅時間より よほど寛いで乗っていられる。


「来た早々 新入社員の歓迎会で ひとりにさせちゃったな・・・」


俺は帰りに抹茶ババロアを買って マンションに向かった。


ドアの前に立ち 鍵を差そうとして 手を止め インターホンを押した。


ガチャ!


押したとたんにドアが開き


「お帰りなさい!」


と満面の笑顔の義妹が迎えてくれた。


「ただいま・・・」


俺は先ほどまでのにやけ顔を極力隠して 居間に入る。


グルルルルル・・・


「良かった 義兄さん まだ 食べれそうね。 


今日 歓迎会あるから 食べてきちゃうかと 思ったけど 念のために 残しておいたの。」


家に居た頃から 義妹の作るご飯が大好きだった俺は 部屋の中に漂う 懐かしい美幸の作った酢豚の香りに 盛大にお腹が鳴ってしまった。


「ああ なんだか あまり食べるもん無くてな・・・ありがとう。」


普段なら 靴を脱いだ側から ネクタイやワイシャツを脱いでいくのだが 


さすがに 義妹がいるから そんなわけにはいかない。


古い賃貸マンションで 駅から少し遠いが 狭いながらも2DKなので 4畳半の一間を義妹のために提供することにした。


「すまないな・・・圭吾 どうしてもY高校に通いたいって きかなくてね。


一人暮らしは心配なんだ。


我儘言ったら ちゃんと叱ってくれよ。」


義父に頼まれたのは 合格発表があった 翌週のことだった。


優秀な妹は第一志望も滑り止めも すべて合格しており 


その第一志望のY高校が 俺のマンションの極近くにあるのである。


(もしかして・・・ 俺の側にいたくて・・・?)


とふと考えたが Y高校はT大・K大の合格率がかなり高い進学校である。


義兄に逢いたいという位の動機で 入れる学校とは違う。


だが こんな進学校に進めるほどの頭脳を持つ 義妹がよく俺の部屋に勉強を聞きにきていたことが気にかかる・・・


とにかく 今俺は最高に幸せな状態だったのだが 義妹が引かない程度に喜びを抑えている。


「明日から 学校だね。 もう準備は整ったのかい?」


「はい。自転車 ありがとうございました。」


近いとは言っても 通学に歩かせるのは 防犯上もあまりよくないので せめてもと 自転車を買い与えた。


就職をして 家を出てから 2年あまり 


新入社員の俺は研修が多くて 正月とお盆くらいしか 家には帰らず 


家族にすこし寂しい思いをさせていた。


恋人を作る暇もなく 一年目を終え 


新しい部署に配属されて 黒田先輩の下に入ってからも 仕事を覚えることで毎日が忙殺された。


せっかく 打ち解けてきていた義妹とも このまま疎遠になっていくのかと思っていたが


こうして また一つ屋根の下に暮らすこととなったのである。


家に来た頃のように また丁寧な言葉使いに戻ってしまったが すこしずつ慣れてくれることだろうと思う。


「美味い。 懐かしいな・・・この味。」


なんだか ホロッとさせてしまう味だった。


「ふふっ 良かった。 義兄さんはいつも私の作った料理 そうやって喜んでくれてましたよね。」


顔をほころばせて 美幸は懐かしむ。


「本当に美味しいんだから 当然だよ。」


「パパはあんまり 美味しいって 言ってくれたことないんです。


だから あの家に行って 最初に義兄さんが 美味しいって言ってくれた時 嬉しくて泣きそうになったのを覚えてます。」


俺は気さくな義父を思い出して


「そうなんだ・・・ でも いつもお前の料理残さず食べていたじゃないか。 きっと俺と同じ気持ちだと思うよ。」


ふと 口をつぐんで義妹はしばし黙り込む。


「美幸?」


俯いたままの義妹が 気になり 思わず箸が止まる。


「義兄さんが 居なくなって すごく寂しかったんです。


私 また義兄さんと一緒に暮らしたくって 勉強頑張ったの。」


「み・・・グフッ ゴホッゴホッ!」


「だ 大丈夫ですか? 義兄さん! お水飲んで。」


よく冷やした水を美幸から受け取り 俺はなんとか咳を鎮める。


「ふふっ おかわりありますよ。」


「た 食べようかな・・・」


(な 何だろう・・・ 落ち着け・・・ 俺。 


さびしがり屋の 美幸は俺を義兄として 慕っているにすぎない・・・


第一 俺がいる間 ずっと あの翔って目つきの悪いガキが遊びに来ていたじゃないか・・・)


美幸と角谷 翔は なんだかんだ言ったって ずっと付き合っていたはずだ。 


土日はもちろん 平日も学校帰りに あのガキは美幸の部屋に上がりこんで 共通の趣味であるTVゲームをやっていっていた。


「そういえば・・・翔君は どこの高校いったのかな?」


さりげない風を装って 俺は 昨日から聞きたかったことを美幸に尋ねた。


「翔くん? ああ 地元の高校に進学しましたよ。彼の家は酒屋だから 普段からよくお手伝いをしてるんです。


だから 元々 他所の高校に進学ってことは考えてなかったみたい。」


「へえ・・・そうだったんだ・・・」


冬でも浅黒く焼けた翔を思い出し 俺は意外な一面を見たような気がした。


「美幸がこっちに行く事 淋しがっていたんじゃないのかい?」


「そうだね。 でも 同じクラスの友達は みんな結構 バラバラになっちゃったから・・・」


(友達と一緒レベルじゃないだろ・・・? 翔とはあれだけ いつも一緒にいたんだから・・・)


だが それ以上 訊くこともできずに 俺は3杯ほど おかわりをして 夕食を終えた。


有名進学校の新学期を迎える義妹は


「私もう少し 勉強しています。 義兄さん おやすみなさい。」


ダイニングテーブルでそのまま少し勉強をするつもりのようだった。


「ああ おやすみ。」


美幸におやすみと言える ただそれだけでも 俺の心は喜びに満ちて もうこのまま世界が終わってもいいとさえ感じた。


真夜中 ふと目が覚めると 居間の明かりがまだ漏れていることに気がついた。


(そんなに頑張らなくてもいいのに・・・)


俺は ベッドから降りて ドアを開けると 義妹の丸まった背中が見える。


(なんだ・・・疲れて寝てしまったんだ・・・クスッ)


パジャマ姿のままで 春のこの時期は風邪を引かせてしまう畏れもあるため もう寝かせてやる必要があった。


「美幸・・・ 起きなさい。風邪引くぞ・・・」


そっと 声を掛けてみたのだが いっこうに起きる気配はない。


手に触れるとかなり冷え切ってしまっており そのままベッドに連れて行くことにした。


「・・・あいかわらず 軽いな・・・」


小柄な美幸は 高校生になっても155センチあまりしかなく おそらくクラスに入っても小さい方だろう。


40キロそこそこしかないと思われる小さな身体は 苦もなく部屋に連れて行くことが出来た。


そして 起こさないように そっと 毛布をかけてやる。


スースースー


規則正しい寝息が 部屋を支配して


俺はその場に釘付けになったようにまだ動けない。


可愛い寝顔を もう少し見ていたくて そっと顔を近づけた。


息がかからないように止めて 長い睫毛を 小さな鼻を そして 艶やかな唇に魅入る。


キスしてしまいそうな 気持ちを極力抑えるために


頬にかかった 髪の毛を避けると 



そこには 一筋の線が頬に残っていた・・・


「クスッ」


(教科書の痕かな・・・? えらく またくっきりと・・・) 


と 俺は思わず吹き出してしまった。


パチッ


「義兄さん・・・ どうして笑ってるの?」


いきなり義妹の目が開き 俺は笑った顔のまま固まった。


「いや ・・・ごめん 起こしちゃったな・・・」


10センチほどしか 離れていない この状況をどう説明すればいいのか・・・


慌てて 身を引こうと身体を起こしかけたのだが


クイッ


「ねえ どうして笑ってたの?」


義妹に両手で頭を挟まれてしまった。


以前から ちゃんと答えを出さないと気が済まないのは知っていた俺は観念して


「テーブルにつっぷして寝てたから 教科書の痕がくっきり残ってるからでした。わかったか?」


俺はそう言って 間近に見詰め合っている照れくささを隠すように義妹の 頬を軽く抓る。


(・・・キスしてくれるかと思って 待ってたのに・・・)


聞こえるか聞こえないかの呟き いや 唇の動きをそう解釈しただけだろうか・・・


「え?」


と聞き返したとたんに


ゴツン!


おでこに衝撃が走り 俺の身体ははじかれたようにベッドの脇でしりもちをついた。


「おやすみ!」


義妹は 毛布を頭から被って 背中を丸め


しばらく呆然としていた 俺は 


「おやすみ」と 電気を消して とりあえず 自室に戻った。


(俺のキスを待ってた?


ま まさかな・・・


きっと 自分の都合の良い様に 


解釈しちまったんだろう・・・ うん 


じゃなきゃ あんな頭突き喰らうはずがない・・・)


俺は もやもやした気持ちを振り払うようにして 義妹と同じように毛布を被って 目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ