手ごわい相手
コンコン
週に3度は訪れる義妹のために 俺は彼女がいる時間帯はヘッドホンをつけないことにしている。
「入ってきていいよ。」
ガチャ
「お邪魔します。」
入ってくる時は 行儀よくしている美幸だが
「これ やったことある?」
「え~~ ない 見たことないよ。わぁ~~ ここに刺すの? こう?」
「ああ カセット式のなんて 初めてだろう? 中古で売ってたのを昔買ってやってたんだ。」
十字キーとわずかなボタンしかない単純な有線のコントローラーに 美幸はすぐに夢中になった。
BGMも どこかポップで気に入ったようだ。
「あ~~ 結構単純だけど 難しいね。」
ボタンを押すと同時に 身体も動く。
ショートパンツから すんなりと伸びる白い足に 桃色の指先。
「義兄さん。」
「え?」
慌てて 俺は 視線をTV画面に戻す。
「義兄さん ねえ ここ どうしても攻略できない。」
「ああ ここは先にコイツをやっつけておかなきゃ 進めないんだ・・・」
俺はコントローラーを受け取って 攻略方法を伝授する。
「そうかぁ~ さすが義兄さん。」
尊敬の眼差しいっぱいで 見上げる美幸の視線が 眩しい・・・
(ごめんよ 変態の義兄で・・・)
-私 兄さん大好きだよ。-
昼間 美幸は そう言った・・・
ボーイフレンドの前で
彼に少しヤキモチを妬かせたかったのか
それとも 事実そう思っているのか・・・
どちらにしても すごく嬉しかった。
「ねえ 義兄さん・・・」
俺の手元をじっと見ながら美幸が声をかけてくる。
「何? もう一度やって見せた方がいいかい?」
「ううん そうじゃないの・・・」
ゲームは第一ステージのボスのところまで来ていた。
「ほら やってみろ 美幸。」
ゲームを代わってほしくて 言ってるのだろうと思った俺は コントローラーを美幸に手渡した。
「えええ こ こんなの無理だよ。」
ごついボスキャラにビビる 美幸に
「大丈夫 こいつはたいしたことないから。
3回 しっぽを剣で刺したら 倒せるよ。」
「に 義兄さん やってみて・・・お願い。」
たかがゲームでも 女の子には 怖いらしい。
「よし 見てろよ。」
「うん・・・」
ごくりと 美幸は喉を鳴らして 画面を見入る。
俺はボスキャラ相手に うまく廻りこんで しっぽを踏み 一刺しした。
ドオオオン!
ボスキャラは派手に転んでのた打ち回る。
「すごい すごい!」
美幸が俺の腕を掴んで 興奮する。
「簡単だろ? ほらまた起き上がった・・・ 今度は少し早くなるぞ・・・」
「義兄さん・・・ねえ 昼間 私が言ったこと 覚えてる?」
「昼間 言ったこと?」
俺はこの時 ボスキャラ攻略に夢中で 美幸がすごく緊張していることに気がつかなかった。
「よしっ」
ニ刺し目を決めてガッツポーズを作る俺。
BGMと画面の雰囲気が変わって ボスキャラも変貌を遂げる。
「こ こわい・・・」
俺の背中にまわって肩越しに 画面を覗き始めた美幸
なんとも可愛らしい・・・
「こうなると ちょっと 手ごわくなってくる・・・」
俺は コントローラーを激しく連打して うまく逃げ回りながら 攻撃するスキを伺う。
「私 義兄さんのこと 大好きって 言ったでしょ? あれ どう思った?」
「え・・・」
グチャ!
あわれ ハートが一つ消えて キャラが一瞬半透明となった。
あとハートは1つ半しかない。
だが もうそんなのどうでも良かった。
「ど どうって・・・ 嬉しかったよ。」
コントローラーを置こうとした俺を
「いいから 続けて 恥ずかしいから ゲームしながら答えて・・・」
それはわかる。
まともに向かい合っていたら 到底聞けない質問だっただろう。
「あ・・・うん。」
再び コントローラーを持った俺は ぎこちなく スタートボタンを押して静止を解除した。
「角谷くんね・・・ 俺の彼女になってくれって テスト前に言ってきて
私 ちょっと 困っちゃったの・・・
だから 私 好きな人がいるから 友達でいようって つい言っちゃったんだ。」
「そうか・・・ それで あんな風に言ったんだね。」
(なるほど・・・ そういう時にも 女の子は 大好きを使うんだ・・・)
浮かれていた自分をあざ笑うように冷静になった 俺は 簡単にボスキャラを倒す。
「でもね・・・
言ってみて 気づいたんだけど・・・
私 義兄さんに 大好きって 言った後 なんだか ホッとしたの・・・」
「ホッとした?」
「うん ふふっ」
俺の肩に頬を載せた美幸の息が 首をくすぐる。
「だって 義兄さんのこと本当に大好きだもん。 今日 ちゃんと伝えられる機会があって 良かった~と思った。」
キュッと美幸の手が俺を抱きしめる。
「あ ありがとう・・・ 俺も 美幸のこと・・・だ 大好きだよ。」
義妹が 昼間すんなり言ってくれた時より 数倍情けない告白だ・・・
「本当?」
両手を回して 身を乗り出す美幸。
(おい・・・ 胸が当たってるだろ?)
固まって 声が出ない・・・
「ねえ もう一回言って・・・ 義兄さんは 美幸のこと どう思ってる?」
ちゃんとはっきり言うまで 許してはくれないだろう・・・
俺は腹を括って 大きく息を吸い いっきに言った。
「俺も 美幸が 大好きだ。」
「義兄さん・・・」
温かい涙が 俺の肩を濡らしていき
熱い吐息が背中を温めた。
「美幸・・・どうした?」
「ご ごめんね 義兄さん・・・
私 ママも義兄さんも すごく優しくしてくれるけど やっぱりまだ 慣れなくて
私の事 本当は疎ましく思ってるんじゃないかって 時々 不安になって・・・
私 義兄さんのこと どんどん好きになっていくのに
大人の義兄さんは 辛抱しているだけなのかなとか・・・
いつも 考えちゃうの・・・」
しゃくりあげる義妹
まだ 子供なのだ・・・
本当に血の繋がっている父親は めったに帰らない忙しい人で
娘を持つことに有頂天になっている空気の読めない義母と
女子中学生自体の免疫がない歳の離れた義兄
転校してきたばかりの学校
気の休まる場所がなかったんだ・・・
「美幸・・・」
俺はティッシュを箱ごと取って 美幸を隣に座らせると
「ほら 可愛い顔が台無しだ・・・」
「ふ ふぐ・・・ヂン!」
ティッシュを鼻に当てて 子供らしく盛大に鼻を噛む。
「俺 お前が来て すごく 毎日が新鮮で 楽しいよ。
お前に大好きって 言われて 馬鹿みたいに舞い上がってるし
こうやって 素直な気持ちを伝えてくれると ジンとしてくる・・・
大好きだよ お前が・・・」
スラスラと こんな風に 話せたのは 今にして思えば奇跡と言えるかもしれない・・・
「義兄さん・・・」
やっと 輝く笑顔を取り戻した美幸は
なんなくボスキャラを3ステージまで攻略して 上機嫌で俺の部屋を後にした。
「はぁ・・・」
まだ 甘い美幸の香りが残る この部屋で ゴロンとベッドに横たわる。
(俺 ちゃんと 義兄として 大好きだって 言えただろうか・・・・・)
今夜は きっと
眠れそうにない・・・