別れの予感
おひさしぶりです。
年末年始忙しくて さぼってました・・・すみません。
「私・・・ 部屋に戻る。」
ピクッ
「あ ああ わかった・・・」
すっかり 美幸に軽蔑されたんだろう。
美幸は起き上がると 俺に背を向けたまま パジャマのボタンをかけると
枕を持って ベッドを降りた。
もう・・・元の俺たちには戻れない?
そう 思うと 泣けてきそうになる。
だが 美幸は 振り向いて
「おやすみ 兄さん・・・」
と 声を掛けてくれた。
「・・・おやすみ 美幸。ごめんな。」
どうしても 消え入りそうな声にしかならなかった・・・ 情けない。
まだ シーツに残っていた 妹の温もりの上に手を伸ばして 目を閉じる。
(俺って・・・最低。)
自己嫌悪で 打ちのめされそうになる。
チチチ チチチ・・・
ほとんど 寝付けないままに 朝が来て
「おはよう・・・」
「あ 兄さん 早いね もう 起きてたの?」
「ああ 今 朝ごはんの用意しているから 君は学校に行く準備をしていればいいよ。」
「え・・・?」
驚いた美幸は 台所を覗きにくる。
「何作ってるの?」
「ああ 片手でも できる 目玉焼きと 握れば絞れるオレンジジュース トーストだ。
それから お弁当は ごめん ジャムを塗っただけのサンドイッチなんだけど・・・」
と 不恰好なサンドイッチの包みを手渡す。
「・・・ありがとう。
でも どうしたの? 」
困惑している美幸。
「いや いつまでも 君に甘えてちゃいけないって 思っただけだよ。
ごめん いつも 綺麗な弁当持っていってるのに それじゃあ なんの罰ゲームだ?って感じだよな。」
「ううん すごく 嬉しいよ。」
と言って やっと笑ってくれた。
「俺も 今日から 会社に行く。
晩御飯は 会社で食べるからいらないよ。 君は先に寝ていていいから。」
「・・・その身体で急に 大丈夫?」
心配そうに 美幸が俺の顔を覗き込む。
「かすり傷はほとんど 傷みないし 瘡蓋になってきてるだろ?
この腕だって ヒビ入っているだけなんだから 固定してあるから 心配ないよ。
さあ できた・・・ 食べようか?」
「うん 美味しそう・・・」
まあ 料理とは言えない 素材の味なんだから 新鮮な物を使っていれば 美味しいだろう。
「目玉焼き 上手だね ちゃんと半熟になってる。」
思わず 照れてしまった俺は
「何にも出来ないと思ってただろ?」
なんて 言い方しか 出来なかった。
「私 兄さんのところに来て 何でもしてあげたいって 思ってたから
実際にこうやって
傍にいられて 私の作ったご飯を 美味しいって 言ってもらえたりして
すごく 幸せだったよ・・・」
「ああ 俺も 嬉しかったよ。」
トーストを持つ手が 震えてしまう
「昨日・・・
お母さんが戻って来ない?って 言ってくれたことすごく 嬉しかったんだ。
なんとなく パパとお母さんが再婚して
最初はまだ 兄さんが居たからいいけど
就職した兄さんがいなくなっちゃった後
私 ひとり あの家に残って
新婚のパパとお母さんの 邪魔してる気がしていたから・・・」
「そうか・・・」
「兄さんと また一緒にゲームしたり おしゃべりしたりしたいって・・・
それだけの理由で こっちの高校受けて
優しい兄さんは 義妹の私のこと 受け入れてくれて すごく嬉しかった。
だけど・・・
ここには 兄さんの生活があって
兄さんの付き合いがあって
私の存在が 邪魔に なったのだったら・・・
戻るよ。」
「・・・ 美幸の好きにしていいよ。
俺は一人でも 大丈夫だし
もしかしたら アメリカにしばらく行かなきゃならないと 思うから。」
「・・・そうなの?」
「ああ だから 昨夜は 帰っちゃ駄目みたいなこと 言っちゃったけど
美幸の思うとおりにして いいからね。」
「うん・・・わかった。」
グイッと 甘酸っぱいオレンジジュースを飲み干して 泣きそうな自分をごまかした。
「ごちそうさま 美味しかったよ 兄さん。」
「ああ 簡単なもので ごめんな。」
「ううん お弁当もありがとう。」
俺はそれから すぐに支度をして 会社に行く時間になった。
(もう 美幸と過ごす時間もあまり取れないまま 離れ離れになるんだな・・・)
寂しさに溜息をつきそうになるのを ぐっと堪えた。
「もう 行くの?」
玄関に まだ制服のリボンを結びかけた 美幸が顔を出す。
「ああ 早いけど あんまりラッシュの時に行かない方がいいかと思って・・・」
と靴を履いた。
「それも そうだね。」
すこし寂しそうに笑うと 美幸
「じゃあ 行ってきます。」
と 背中を向けドアに手をかけると
「兄さん・・・」
「ん?」
振り向くと ポロリと涙を流している 美幸が立っていた。
「どうした?」
心臓が小刻みに震えてくる。
「もう いってきますの キスもしてくれないの・・・?」
「・・・そんな こと・・・」
かっと 頭に血が昇ってくるのを 感じながら 俺は
美幸の リボンを引き寄せて 少し乱暴に 口付けた。
「ん・・・兄さん・・・ 好きなの 男性として すごく好きになっちゃったの・・・ ここに いたいよ・・・」
「美幸・・・だって 俺 お前が傍にいると・・・ どうしても・・・」
唇を重ねながら 涙を味わう・・・
「だって 兄さん まだ 腕も治ってないのに 私 しがみついちゃいそうで・・・怖かったんだもの・・・」
「・・・それじゃあ 俺の 身体を心配して?」
「うん・・・ やっとそういう対象で見てくれるようになったんだって 嬉しかったんだ。」
「美幸・・・」
昨日までのモヤモヤがいっきに晴れて
逆に堪えていた 涙が出てしまった。
「やっぱり 離さない・・・ もし 遠くに転勤することになっても 離したくない・・・」
「そうなったら 私 また そっちに転校でも留学でもするから大丈夫だよ。」
「クスッ そうなったら もう ちゃんと 父さんと母さんに正直に言わないとだめだよな?」
「うん 昨日 本当は言ってくれるかと思ってたの・・・」
「そうか ごめん。おっと もう こんな時間 早い電車に乗れなくなっちまう
じゃあ 行って来るよ。」
「行ってらっしゃい。」
いつもよりは若干空いているけれども やっぱり 混雑している通勤電車も
今朝は 全然気にならない。
ついにやけそうになって はたと思い出した。
(そうか あの時も つい ニヤニヤしてて 逆恨みを買ったんだよな・・・)
今 自分は幸せの絶頂にあると言ってもいいくらいだが
もし 美幸との間が ギクシャクしたままだとしたら
今の自分の様に にやついている奴を見たら ちょっと腹が立つかもしれない。
恋人同士を見たら 妬ましく思ってしまうかもしれない。