気配
なんとか 気持ちを静めて
美幸に毛布をかけてから
「じゃあ・・・おやすみ。」
と言って 彼女に背を向け 目を閉じた。
本当は もうちょっとで 彼女の胸の膨らみにまで手を出しかけていたのだが
寸でのところで 思いとどまることが出来たと思う・・・
彼女が目に入らなければ 大丈夫 俺は きっと平気でいられる
そう 自分に言い聞かせて 背後にいる彼女の気配を消し去ろうとさえした。
「私 嫌がっているように ・・・見えますか?」
「・・・」
キシッ
背後で 美幸が上半身を起こした気配を感じた。
「!」
ピトッ
なんと俺の背中に寄り添うように 美幸はくっついてきた。
「兄さん・・・ もっと 理性がどこかに行っちゃってるところ見せてほしいな。」
「ばか 言うな・・・ そんな くっついてたら暑いだろ? もっと離れろ。」
つい つっけんどんに言ってしまうが
「やだ・・・」
ギュッ
妹は尚更 俺の背中だきついてくる。
「うっ・・・」
俺の呻き声に
「あ ごめんなさい。 兄さん 大丈夫?」
あわてて 身体を離す美幸。
「うぅ・・・ 痛い・・・ また 折れた のかな。」
背中を丸めて 呻いていると
「兄さんっ 大丈夫!? 本当にごめんなさい・・・ 私ったら なんてこと・・・」
泣き出さんばかりに 心配している美幸に さすがに気が咎めた俺は
「・・・嘘。」
「え・・・ 嘘?」
「ああ ピンピンとまでは行かないけど あれくらいで 骨折したりしないよ。」
と白状した。
「・・・ひどい。
私 すごく ここに来るのだって 緊張してたのに・・・
そんな風にからかうなんて・・・ ひどいよ。」
うぅ・・・えっ えっ
本当に泣かせてしまった俺。
「ごめん・・・だけど
俺と君は やっぱり兄妹と言うのは変わらないだろ?
ここで 僕が君に対して 深く踏み込んでしまったら ・・・もう後には戻れない。」
両手で顔を覆って泣く妹に 触れるのが怖かった・・・
きっと 今彼女に触れたら
そのとたんに 俺は 全てのブレーキが壊れて
どこまでも 突き進んでいく気がして しかたがなかったら・・・
それほど広くないベッドで 俺たちは なるべく離れる様にしていた。
俺の気持ちをくんでくれたのか あれから 美幸は俺を戸惑わせるようなことは言わない。
でも 彼女の気配は濃く 強く俺に迫ってきて
ちょっと寝返りを打っただけで 実際飛び上がりそうな程 反応してしまう。
あちこち やっぱり体の痛い俺も
寝返りを打ったり それを打つたび少し 洩れてしまう呻き声にたいしても
美幸が意識しているような気もして
だが そんな状態を楽しんでもいる俺が居た。
今 俺たちは 恋という 素敵にスリリングな 絶叫マシーンに乗り合わせていて
心をもみくちゃにされながら 同じ時間を共有しているのだ。
やがて 何度目かの寝返りを打った時 二人の動きがクロスして
おそらく ほんのちょっとだけ 指先が触れ合ったのかもしれない・・・
それを合図に 俺達は再び抱きしめあった。
きっと お互い そうするきっかけを ずっと待ってて
ほんのちょっと触れ合うだけで わかってしまったのだと思う。
言葉はなくとも
抱き寄せ合って 唇は重なる
それがきっかけで もう無理に離れるようなことはせず
気づけば キスをしたり 手を握り返したり
気持ちを開放させて 眠りにつくことができた。
目覚めると 俺の平気な腕に 美幸の柔らかい頬が 乗っていて
ふんわりと柔らかい髪に俺は顔を埋めるようにして 横たわっていた。
体はまだやっぱり痛いけど 昨夜よりはまだましな気がした。
ピンポーン
ピクッ
俺の腕の中で美幸が体を震わせる。
「ああ 大丈夫 寝ておいで 俺が出る。」
「え・・・でも。」
「こんな 朝早く・・・ なんだろう?」
結局 俺達は パジャマのままではあったが二人で玄関に向かった。
インターホンを見ると昨日の刑事だったからだ。
「はい・・・」
ドアをあけると
刑事は 少し眠そうな顔をしながらも 笑って
「先ほど逮捕しましたよ。まだ 自白はしてませんが 駅で居合わせた人々の目撃証言がかなり得る事ができていましたし
昨夜の情報などからも有力な手がかりを掴んでましたから 意外とあっさり 犯人を特定することができました。」
「本当ですか!? 良かった・・・ これで安心できます。
ありがとう ございます。」
「こんな朝早くから 失礼かとは思ったんですが きっと恐い思いをまだなさってると思いましたので お報せさせていただいたんです。」
「いや 助かりました。本当にありがとう。」
刑事の気遣いに俺は心から感謝した。
「良かった・・・」
心底ほっとして ソファに座り込む。
「これで 安心して 学校に行けるな。」
「・・・もう 兄さんったら 意地悪ね。
今日くらいは 私 兄さんの側に いたいよ・・・ いいでしょ?」
「・・・イイよ。
そうだ 犯人は 捕まったようだけど まだ 自白したわけじゃないから
真犯人が まだどこかにひそんでいないとは限らないから・・・って こんな理由どう?」
「いいと 思う クスッ。」
「ふふふっ だね。」
その日 俺たちは 切ないほど 甘い一日を 送り
お互いの気持ちを確かめ合うように 何度も 気が付くと 頬に触れたり
指を絡ませたり
とにかく どこかで 触れ合っていたかったのかもしれない