病院食
いくらか 寝てしまったのだろうか・・・
物音がして 目を覚ますと 美味そうな匂いがしてくる。
カチャ・・・
「あ 兄さん 目が覚めたのね? 夕食が来たわよ。」
いつ戻ってきたのだろう 美幸は私服に着替えて 夕食を載せたお盆を持って 入ってきた。
「身体起こせる?」
「ああ 大丈夫だ。ありがとう・・・」
とは 言ったものの 打ち身があちこちにあるのだろう
ギシギシときしむ痛みを堪えながら 何とか頭を持ち上げた。
「痛むのね・・・」
すっと 差し入れられる美幸の手
「ん・・・」
「ごめん・・・ くぅっ」
小柄な美幸に俺の身体を起こすのは 大変だろう
だが俺も 痛みでなかなか起きあがることができない。
コンコン
「失礼しま~す。坂本さん 大丈夫ですか? あら まあ まあ。」
大柄な看護士が入ってきて 俺たちの悪戦苦闘しているベッドにずんずんと近づいてくる。
(おお この人なら・・・)
とホッとしていると
「このベッド 電動なんですよ。 ほら このボタン押すと 起き上がれますから。」
ウィィィ・・・ン
よく見ると 毛布の影にリモコンがあり 看護士がボタンを押してみせてくれた。
「あ・・・本当だ。美幸 ごめん。」
「ううん 良かったね 起き上がれて。」
うっすら汗を滲ませている美幸
そりゃあそうだ 美幸はおそらく体重42~3キロほどしかないだろうが
俺は身長がある分 体重も74~5キロはある・・・
「かわいい彼女ね 坂本さん。」
と 看護士がニヤニヤして見ている。
「あの この子は 妹で・・・」
「またまた~~ 雰囲気でわかっちゃうからっ!」
ポン!
「痛っ・・・」
意外と強く肩を叩かれ 思わず目を瞑る。
「あら あら ごめんなさいね。 じゃあ 面会時間は8時まではありますから ごゆっくり。」
と看護士はそそくさと病室を出て行く。
「クスッ 大丈夫? 兄さん。」
「ああ ごめんな 気がつかなかったヨ。」
ウィィン ウィ ウィイ・・・ン
調節して 丁度いい高さを探した。
「兄さんのお箸 家から持ってきたよ。
でも 左手 まだ動かせないだろうし 私 食べさせてあげる。」
何故か 美幸は嬉しそう・・・
「大丈夫だよ 飯くらい 自分で食えるさ。」
幸い 利き手が残っているし
だが
「あ・・・ こぼれた。」
「う~・・・」
やはり 片手だと 上手く箸で挟まないと 落としてしまう。
顔を茶碗の近くに持っていこうと思っても 体中が痛くて ベッドの背もたれに 預けたままだ。
「ほら やっぱり慣れるまでは 難しいよ。」
美幸は俺の手から箸をとると
「明日は スプーン持ってきてあげるね。」
結局 美幸に食べさせてもらってしまった・・・
「美味しい?」
「ん モグモグ・・・ まあまあかな? 美幸の作った料理の方がずっと美味しい。」
「兄さんったら ふふふ でも 嬉しい。」
実際 美幸の料理の方が上手いと思った。
(早く 退院したいな・・・)
「美幸は 食べたのか?」
「うん ちゃんと私は家で食べてきたんだから 心配しないで。」