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僕のいもうと  作者: AI
21/32

大抜擢

「兄さん おはよう。」


「あ ああ おはよう。」


普段どおりの美幸に 一瞬戸惑う。


なんだか 一晩中 気になって あまり寝付かれなかった年上の自分が情けなくなる。


「兄さん 卵と納豆 どちらにする?」


「ああ じゃあ 卵。」


もしかしたら 昨日の出来事は 俺の夢だったのかもしれない。


美幸は カシャカシャと卵をかき混ぜて


「はい。」


と俺に小鉢を手渡す。


「サンキュ。」


つい 小さく溜息をもらしながら ご飯をかっ込んだ。


普段どおり 靴を履き


「じゃ いってきます。」


とドアに手をかけた。



「あ 兄さん・・・」


「なに?」


「え と あの 雨降りそうだから 傘持っていった方が いいと思う。」


「そうか わかった。」


美幸が出してくれた 折り畳み傘を受け取ろうとした その瞬間


ギュッ


引き止めるように美幸の手が俺の手を握る


「兄さん・・・」


玄関で靴を履いた俺と 上り框に立つ 美幸の目線の高さが同じで


「その・・・ 早く帰って来てね・・・」


顔を真っ赤にして 俯く美幸を 間近で 覗き見る。


「美幸。」


「はい?」


ふいに視線を上げた瞬間をとらえ


軽く チュッとキスをした俺は


「クスッ・・・どこにも 寄り道しないで 帰ってくるよ。」


と愛しさに 美幸の頭を よしよしと撫でる。



「うん。いってらっしゃい・・・」


一瞬 驚いたように目を丸くしていた美幸は すぐに零れるような 笑顔になった。


(可愛い・・・ ああ 大好きだ 美幸・・・)


はあ・・・ 


さっきとは別な意味で深いため息が漏れる。


昨夜の事は 夢でもなんでもなく


言葉にしてしまったことで より深く 美幸を意識し 想いが濃くなった気がする。


「坂本くんってば おはよう!」


いきなり 真正面に千秋が現れ 驚いた。


「え ああ ごめん おはよう。」


「もう 朝からボーっとしちゃって 大丈夫?」


交差点を並んで歩きながら 苦笑される。


「ちょっと 考え事してただけだよ。」


「なんか いやらしいこと考えてたんでしょう?」


千秋の言葉に 俺はつい立ち止まり


「な なんだよ な わけ無いだろ!」


と わめくように 言い返していた。


「冗談だって クスッ だって 変に にやけているからさ。」


「・・・」


(に にやけてたか・・・? たしかに そうかもしれない


抑えようと思っても 俺って・・・ 昔から嘘つくの下手だから・・・)


そんなわけで その日は ついあがってしまう口角を


無理に下げようと口を尖らしたり への字にしたりと 苦労した。


(早く帰ってきてね・・・)


-美幸・・・-


「おい坂本 どうした 今朝からずっと 百面相しっぱなしで 面白すぎるぞ。」


「はい!? ひゃ 百面相してました? おれ・・・」


黒田先輩の指摘に さすがに 羞恥で赤くなる。


「変な奴だな・・・クスクス


あのな 先月お前がプレゼンした企画ね 評判を聞いたA社の親会社からも発注があったみたいなんだよ。」


「え ほ 本当ですか?」


思わず 俺は立ち上がった。



A社の親会社といえば アメリカに本社がある世界的なシェアをもつ大企業だからだ。


「ああ すげえだろ 俺も信じられなくて 何度も聞き返したくらいだよ。


でな 急なんだが 再度 本社向けの企画も立てて 来月プレゼンすることになったんだよ。」


「え それって 俺が・・・?」


「馬鹿 決まってるだろ? もともと お前の上げた企画じゃないか。


これが 成功したら・・・ あ~~ 武者震いが起きないか!?」


先輩が 言うまでもなく 俺は ブルンと身の内が震えるのが感じられるほど 全身熱く気持ちが昂ってくる。


「しばらく 残業覚悟だぞ。それから 来月は俺とお前と他数名のスタッフチームを結成して アメリカのA本社に殴りこみだぁ!!」


「よおおしっ やりますよ 俺っ!」


元々 俺と先輩は大学で 同じ経済学部を出ており 英検も準1級と 1級をそれぞれもっている。(実は俺 1級合格者なのだ。)


学部に留学生が多かったことと 3ヶ月ほど アメリカでヒッチハイクしながら この黒田先輩と 旅した経験もこれで生きてくるだろう。)


能力のあるものは 年齢 経験関係無しに 昇進させるうちの会社にあってしても


驚きの大抜擢だと思う。


昼になって 弁当を拡げてから 美幸を思い出した。


「あ・・・」


(早く帰ってきてね・・・)


はにかみながら そう言った顔を思い出し


携帯を取り出した


-ごめん 帰り遅くなる-


それだけ 打ち込んで 送信


「おい さっそく午後から会議があるぞ さっさと食べて資料用意しよう。」


昼にやってきた千秋も


「ええ すごいっ 坂本くんはうちら同期のエースだね。」


と一緒に喜んでくれた。


「まだ どうなるかわからないから 喜ぶのは早すぎる。」


「大丈夫だって 応援するからね。」


それからの仕事が嬉しい緊張感を伴い 疲れなどまったく気にならないくらい 充実していた。



気がつくともう22時を回っており


「お こんな時間か 来月のプレゼンまで しばらくこんな調子だろうから 今日はそろそろ帰ろうぜ。」


「そうですね。」


「お疲れ様です。」


新たなスタッフで結成されたチームは ニューヨーク出身のアメリカ人も含めて優秀な人材ばかりで 俺も負けていられないと発奮してしまう。


「よおし 新しいチームの結成を記念して焼肉でも行こうかっ。」


と黒田先輩が声をあげたが


「あ・・・すみません 今日は 俺 帰ります。」


美幸にも直接報告したかったのだ それに 少しでも早く帰ってやりたかった。


「なんだよ~ お前が来なきゃ意味ねえだろ? しょうがねえな~。」


苦笑しながらも 先輩は俺を解放してくれて


「すみません 次回は 参加します。」


と何度も チームの皆に頭を下げて 会社を出た。


途中 シャッターを半分下ろして店を閉めようとしている花屋から 美幸のイメージにぴったりのピンクの薔薇の花を見かけ


らしくもなく花束を作ってもらう。


「ただいま・・・」


花束を後ろでに隠して 帰ると


「兄さん・・・! おかえりなさい。」


玄関で靴を脱ぎかけた状態で 美幸に抱きつかれる。


「ごめん 遅くなって・・・」


ふんわりとやわらかい体を抱きしめて頬擦りをした。


ガサッ


「・・・何を持っているの?」


「なんだと思う? ふふっ 当てたら 君にあげる。」


額をコツンと美幸に当てて 戸惑う表情を楽しむ。


「え~? なぁに・・・でも なんだか いい香り・・・ まさか お花?」


「なんで まさかなんだよ。」


「だって・・・わぁっ すごい かわいい!」


差し出した花束に 驚きと喜びの声が上がる。


「美幸にぴったりだと思って・・・」


「ありがとう・・・ 嬉しい。」


ガサッ 


花束を挟むように 抱き寄せて キスをした。


「・・・なにか 嬉しいことがあったの?」


「ああ 昨夜も美幸に告られて 眠れないほど嬉しかったけど・・・ 今日もすごいことがあったんだ。」


そう言って ちらりと 美幸を覗きこむと また 美幸はポッと頬を赤らめた。


「すごいことって・・・ なあに?」


俺は それから 美幸と一緒に晩御飯を食べながら(なんと 食べずに待っててくれたのだ・・・)


今日あった出来事を話した。


「すごい さすが兄さん おめでとう。」


「まだ なんにも 進んじゃいないんだよ・・・ でも しばらくは 遅くなる ご飯も 先に食べてていいからね。」


そう言うと 一瞬 美幸は寂しそうに顔を曇らせたが すぐに


「じゃあ お弁当 もっと栄養のあるもの入れなきゃ  無理だけはくれぐれもしないでね。」


「ああ ありがとう。」




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