告白
「美幸 俺たちは・・・」
星が瞬くように輝きながら 俺を見上げる 美幸の瞳
なんと 言葉を返してやればいいのか
話し始めたところで 固まってしまう。
(デートって・・・ 美幸 お前 俺のことを そんな風に?)
ゴクッ
知らない内に 緊張が最高潮まで高まってしまった俺は 妹の両肩をがっしり 掴んでいたようで
「肩・・・痛い。」
「あ ごめん。」
あわてて 手を離し 一歩退こうとしたが
「兄さん・・・ 私じゃ駄目? ・・・やっぱり千秋さんが 好きなの?」
胸に飛び込んできた美幸は 俺に負けないくらい 体が熱くなっていた。
カツカツ・・・
背後で足音を聞いた俺は 同じマンションの住人かもしれないと 慌てて 俺の胸から美幸の体を引き剥がした。
「も もう 部屋に入ろう・・・」
エレベーターの中 俺達は
とくに何を話すでもなく 10センチほど 離れた場所で
お互いの呼吸音だけを聞いていた。
だが 降りる際に そっと 美幸が俺の手に触れ
無意識に俺も その細く小さな手を握り返していた。
ガチャ ガチッ
いつもより だいぶてこずったドアの鍵
だが 玄関のドアを開け 中に入ったとたんに 俺は美幸を抱きしめていた。
「ハァ・・・」
溜息のように俺の耳元を通り過ぎる 美幸の息遣い
温かくて 柔らかくて 細くて
壊してしまいそうだった・・・
美幸を抱きしめている間中 俺の心は 甘酸っぱい 切なさで満たされ
禁忌を犯しているという 後ろめたさよりも
美幸に対する 愛しさが勝り
きつく抱きしめたまま 手放すことができずにいた。
「えっ えっ・・・ 好きなの・・・」
泣き出した彼女の肩が震えだし
ここ数日の俺が 美幸を苦しめていたことを知った。
「美幸・・・
俺と千秋は 友達なだけだ。
それ以上になるつもりはない・・・
俺が 側にいてほしいのは
お前だけだよ。」
宥めるように髪を撫で 頬に口付ける。
「でも・・・ 千秋さんは そう思ってないわ。
優しい兄さんは 千秋さんに頼まれれば 真夜中だって 飛んでいくでしょ?」
キュッと俺の背中でシャツの裾を握り締める 美幸
「同僚として・・・友達として ほっとけないからさ。」
「本当に それだけ?」
「ああ 本当だよ。」
ホッとしたように美幸は ぴったりと俺に寄り添うように頬を肩に押し当てる。
「じゃあ・・・ 私の事 どう思ってますか?」
お互いの鼓動がぶつかり合う様に 高まる。
(俺は・・・)
「好きだよ・・・ 愛してる。」
その言葉が 口から放たれたとたん
泣きそうになる。
きっと 俺自身 長い間 自分自身に対しても 押し込めていた気持ちだったからだ。
「ウレシイ・・・ ずっと 待ってたの。 その言葉を・・・」
うわずった声で 美幸も泣いているのだと知った。
自然と唇が重なり合って
解けていく
時々漏れる 甘い息遣いが
俺の鼻腔をくすぐった
彼女がまだ高校生だと 思い出したのは
背中を撫でた際に 小刻みに震えたことに気づいてからで
「あ・・・ もう 遅いから・・・
おやすみなさい。」
真っ赤に頬を染めた 美幸は そっと体を離して
俺の腕から 逃れるように 自分の部屋に去ってしまった。
「・・・美幸。」
とうとう 俺は 二人の間の微妙な関係に 決定的な一撃を与えてしまった。
二度と 引き返せない・・・
もはや 彼女を妹として 見ることは 不可能なのだ。
果たして これは美幸にとって 正しい選択だったのか
まだ 未成年の彼女を 大人の僕が しっかりと正しい道に導くべきはずなのに
およそ それとは程遠い
世間一般からみれば 非難されるべき行動をとってしまった・・・
だが 不思議と 後悔はなく
むしろ 彼女と同じ気持ちでいたことへの幸福感が大きく
まだ 腕の中に残る温もりと
唇に残るやわらかい感触
あたりにただよう 彼女の甘い香りに
パラリ・・・ 嬉し涙が溢れて落ちた。
美幸が俺を頼って このマンションに来たときも
自惚れてはいけない ただ 俺のマンションが 通学に都合が良いというだけだ
と 言い聞かせ
愛情たっぷりの手作り弁当を手渡される時も
妹として 兄の健康を気遣ってくれているのだ・・・ それ以上でもそれ以下でもありはしない・・・
と 余計な想像をしないよう 気持ちを押さえ込んだいたのだ。
「おやすみ・・・」
美幸の部屋の前で 一言 呟いて
俺も絶対眠れはしないと思ったが 自室に下がった。
枕を抱きしめ
同じ空間で 壁二つを隔てた場所にいる 美幸を思い
溜息をつく
(いけない・・・ これからは もっと自分を抑えなければ・・・)
俺は その日
熱い衝動をぎりぎりに抑えて
眠れない夜を過ごした。