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僕のいもうと  作者: AI
18/32

謝罪

「アイツ  ちゃんと来るかな・・・」


気になっていた俺は 早くから目が覚めてしまい


いつもより30分も早く寝室を出ると お弁当を作っていた美幸が驚いて 顔を上げた。


「ごめんなさい 今日は早朝会議だった?」


慌てて 朝ごはんの用意をしだした美幸に


「いや 大丈夫 普通どおりだから  ごめん 早く目が覚めただけなんだ。」


「・・・そういえば 千秋さん 昨日は大変だったんでしょう?」


「ああ ちょっとな・・・ でも きっと もう大丈夫だと思う。」


それでも 美幸はお弁当を作りながらも 手早く 朝ごはんの支度をしてくれたようで


顔を洗って 戻ってみると 味噌汁などを盛り付けていた。


「ありがとう  いただきます。」


「いただきます。」


千秋は普段から そう早くから来ない奴なのだが


美幸のおかげで いつもより3つほど早い電車に乗れそうだったので 


早めに会社にいて 待ってみることにした。


「じゃあ 行ってくる。」


「あ 兄さん お弁当。」


「おおっ ごめん。」


気が急いているのか うっかり美幸が作ってくれた お弁当を入れ忘れていた。


「はい  千秋さんにがんばれって言っておいて。」


お弁当を手渡しながら笑顔で 美幸はそう言ってくれた。


「ああ 伝えておく。サンキュ」



「おはようございます。」


「お 坂本 早いな。」


いつもより かなり早い時間に着いたため 人もまばらで


俺のいるフロアは 普段から営業時間の1時間前に来ている定年間近の 専務と


掃除のおばさんくらいしかいない。


パソコンを起動させておいてから


千秋の部署を覗いてみた。


が 当然のことながら まだ 来てはおらず


大判のマスクをした 担当課長が 出てきたところだった。


(あれ もしかして 千秋に殴られた痕を隠すためか?)


不自然にでかいマスクを見ると 千秋がかなり思い切り殴ったであろうことが察せられて 思わず笑いがこみあげてくる。


俺の視線に気づいたのか 課長が顔を上げる寸前で 俺は慌てて 通り過ぎた。


とりあえず 2階のラウンジまで行って 千秋が現れるのを待つことにした。


営業時間15分前 


そろそろ 他の社員達も 現れて にぎやかになってくる。


千秋は大抵 これよりも数分遅れてくるので そう気にしてはいなかった。


余裕のある俺は自販機から 缶コーヒーを買う。


だが 10分前


会社前の交差点も 昨日待ち合わせた コンビニのあたりにも まだその姿は見えない。


「おいおい 今日くらい もう少し早く出て来いよ・・・」



ゴクッ


小さな缶コーヒーも もう空になってしまった。


現在 営業時間の3分前


「まずいな・・・ 今日は駆け込んで顔出すのはまずいぞ・・・」


時計と 窓の外を交互に見ながら 


俺の気分はしだいに余裕を失くしていく。


営業時間 1分38秒前・・・


「ん?」


大きな紙袋を持った千秋が 小走りに交差点を渡ってくる。


俺は立ち上がり 人の流れに逆らって 階段を駆け下りる。


「千秋 遅いぞ!」


「・・・坂本くん ごめん これ 探してて・・・はぁはぁはぁはぁ・・・」


重たそうな二枚重ねの紙袋を差し出して見せる。


「なんだよ それ?」


「うん アルバム。」


「アルバム?」


「とにかく 行ってくる! ありがとね~。」


俺の気合など全然 必要なかったようで 千秋は元気よく手を振りながら 自分の職場に向かっていった。


俺も もう朝礼が始まる時間なので いそぎ机に戻る。


千秋がどうしてるか 気になったが 午前中は外回りに行ったり 打ち合わせがあったりと 忙しかった俺は


千秋の様子を見に行くどころではなく


昼休みになって 弁当を取り出した頃になってから


向こうから 俺の部署に顔を出してきた。


あのアルバムの入った紙袋も持ってきている。


「よお。」


「やあ。」


今日は千秋も 珍しくお弁当を持ってきていた。


「えへへ ママに作ってもらっちゃった。」


同じ都内らしいが 千秋は一人暮らしなはずだから 昨日は親元に泊まったのだろう。



「課長にね お詫びしてきた。


結構思い切り殴ったから 今日はマスクしていらしたけど 痣が数日消えないと思うんだよね・・・


それからね ママの子供の頃からの写真や パパと出会った頃の写真見せてきたの。


ハイスクールに通ってた頃や かわいい制服でカフェで働いてた頃の写真を見せて


決して娼婦なんかじゃなかったこと 証明してきたよ。」


「それで わざわざ重たいアルバム持ってきたんだ・・・」


「うん やっぱり ママの生い立ちを順に見てもらわないと わかってもらえないような気がしてさ。」


と 肩を竦めてみせる千秋。


「で どうだったんだ 課長の反応は?」


「うん しばらく 私がめくるアルバムをジーッと見ていたけど


ほら この結婚式でガーターベルトを パパがかぶっているあたりまでくると 


{もうわかりました 僕の勘違いなんですね。でも暴力は暴力です。今度 こんなことがあったら ちゃんとした大人の責任っていうのをとってもらいますからね。}


って言われた。


こんなアルバムまで 持ってきたのが子供っぽいって 言いたいのかもしれないけど・・・


写真は事実だから


もう二度とママのことそんな風に言われないために 持ってきてみたの。」


俺の前にも広げて見せてくれたアルバムは どこか千秋に似た ブロンドヘアの女性が小さな赤ん坊を抱いて 微笑んでいる写真だった。


絵画の世界のようで とても清楚で美しく


娼婦などと 言った課長も これを見せられれば 失言を取り消す以外ないだろう。


「良かったな。本当に。」


「うん 坂本くんが 元気付けてくれたおかげだよ。


はぁ~~~ ホッとしたら すごくお腹すいてきた。」


「昨夜だって 泣くほど落込んでた割には おでんバクバク食ってたじゃないか。」


「いいじゃないの~ もう そういう突っ込みしないでよ。 


ほら どう? うちのママのお弁当 美幸ちゃんのお弁当に引けを取らないんじゃない?」


と玉子焼き キンピラ ほうれん草の胡麻和えなど 日本の母親達が作るような 純和食のお弁当を拡げて見せた。


「おお すごいな おまえの母さん。」


俺も いつものように美幸が持たせてくれた弁当を拡げる  と


「す ごい・・・ 今日は美幸ちゃん遠足とか何か イベントあったのかな?」


いつもの倍手が込んでいる豪華弁当だった。


「おお 坂本 美味そうだな~。」


黒田先輩が覗きにくる。


「あ 大沢くん  昨日はあんドーナツ 俺 戴いちゃったんだ。今度お礼に 食事でもどうかな?」


これを言いたくて 俺たちの机に近付いて来たものと思われた。


「私の食べ掛けのあんドーナツ 食べてくれたんですか? ありがとうございます。


あれくらいで食事なんて 申し訳ないですよ。気にしないでください。」


「そ そう?」


にっこりと笑いながらやんわりと断る千秋に


黒田先輩は それ以上 積極的になれないようで すごすごと自席に戻っていく。


「美幸ちゃんって すごい子よね。


料理は上手だし 頭もいいし 性格も良いし おまけに可愛いときてる・・・


もし 私が男なら 絶対惚れちゃうな~。」


俺の弁当を見ながら ふうと溜息をつく千秋。


「千秋だって スタイル良いし 明るいし 優秀だろ? おまけに腕も立つ。」


と俺は拳を振り上げて見せると


千秋は露骨に顔をしかめて


「もう 兄の方は結構 性格悪い~~。」


と言って 笑った。


もう 大丈夫だって 安心できる笑顔だった。




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