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僕のいもうと  作者: AI
12/32

夏休み

夏休みになったが 美幸は 仕事柄 夏場忙しい俺に付き合ってなのか 帰省せずに俺のところにいる。


こっちに来てから ずっと 家事をやってくれて 


「たまには 帰って 父さんや母さんに顔を見せてやりながら ゆっくりしてくればいいよ。」


と 言ったのだが 


「ううん 講習もあるし お盆に兄さんが帰る時に一緒に帰る。」


と 取り合わない。


まあ 帰省しても 母さんは相変わらず 家事が苦手だろうから 逆に美幸が忙しくなるかもしれないが・・・



ここ数日 残業が続いて


帰るのは真夜中近い


「・・・ただいま。」


軽く熱中症ぎみの 俺は ふらつきながら居間に入る。


「兄さん お疲れ様・・・大丈夫? すごく顔色悪いよ。」


「・・・ああ 悪い 水くれないか・・・?」


どっかと ソファに座り込み 呼吸を整える。


「ハイ 兄さん お水。 ご飯食べられるかな?」


「サンキュ・・・ ごめん 今日は すぐ横になりたい。」


妹が 体力を消耗している 俺の健康を考えて いろいろ工夫した料理を作ってくれているのは わかっていたが


暑さと忙しさで とにかく体を休めたかった。


「わかった 立てる? わぁ なんだか 熱っぽいかも・・・」


情けないが 妹に手を引かれて やっと 寝室に辿りつく


(だめだ・・・ 体が動かない。 いい加減 休みを取らないと体がもたない・・・


だが まだ休めない。 明日は早朝会議あるし・・・)


枕に頬を押し当てながら きしむ体を 丸めていた。



「兄さん 氷枕 頭の下に入れるよ。」


「う・・・」


返事さえ ちゃんとしたかどうかもわからない。


「39度・・・ すごい熱 ねえ兄さん やっぱり                             病院に行った方がいいんじゃない?」


「く・・・」


何度も寝返りを打った


ピピピ・・・・ピピ・・・


雷のように 目覚ましが響き渡り


(起きなきゃ・・・)


なけなしの気力を振絞って 重たい体を無理やり引き上げる 


「兄さん!? 無理よ 今日は会社休みましょう。」


すぐに美幸が駆け寄って せっかく抜け出した寝室へと戻そうとする。


「どうしても今日は・・・ 行かないとならないんだ・・・」


(俺に代わって他の誰かが担当するなんて 考えたくもない


春からずっと準備を進めてきたプロジェクト・・・


俺が・・・俺でなけりゃ・・・)


取り付かれたように ワイシャツに袖を通して


妹が用意してくれた 朝食には 手を付けることができず 天気予報を見ながらソファに座ってネクタイを締めた。


「兄さん お願い せめて これだけでも飲んでいって・・・」


渡されたのは 手作りの野菜ジュースだった


「・・・ありがとう。」


熱っぽい体に 冷たい野菜ジュースだけは すんなり喉を通っていく


「じゃあ 行って来る。」


「気をつけて いってらっしゃい。 本当に無理しないでね。」


一杯の野菜ジュースで いくらか気力を取り戻した俺は 朝からむっとする空気の中 駅へと向かう。


幸い空いた席を見つけた俺は 迷わず腰を降ろし


しばしの休息をとる


(はぁ・・・ キツイ)


入社して2年 少し仕事も覚えてきて 同期の者達の中でも 少しずつ能力の差が見えはじめて来ている頃だった。


「はっ!」


気がつくと 転寝していたらしく 隣に座る客の肩にもたれかかり 若干よだれまで つけているようだった。


「す すみません。 俺・・・」


あわてて 頭を起こして 謝罪すると


「兄さん やっぱり 無理だよ。会社休もう。」


「み 美幸!? なんで?」


「なんでって・・・ 野菜ジュースを飲んだ後 ソファの上で 寝てしまったんですもの。」


「え・・・!?」


目を擦って よく周りを見ると


そこは 電車の中ではなく 我が家で まだ 時計は30分ほどしか進んでいなかった。


「どうして 起こしてくれないんだよ! ギリギリだっ」


立ち上がったとたんに眩暈を起こす。


「ごめんなさい 兄さん 2~3回 声をかけたんだけど ぐっすり寝てしまっていて・・・」



「殴ってでも 起こして欲しかったよ! ああ・・・ とにかく行かなくちゃ。」


俺の体を心配してくれている妹に対して


余裕のない言葉を投げつけ


自分で自分に腹を立てながらも 俺は 今度こそ 電車に飛び乗った。


会社へはギリギリ間に合ったが 会議の準備もあわただしく 直属の上司にイヤミを言われる。


なんとか 大事な会議を終えて ホッとしていると


「よく 頑張ったな。みんな お前の意見に感心したようだった・・・


だが 顔色が悪すぎる。


懸命に頑張りたいのはわかるが 余裕も大事だよ。


とりあえず ひと段落ついたんだから 午後からは休め。」


「課長・・・」


「ゆっくり休んで その分 明日出てきた時に 挽回すればいいんだ。 わかったな。」


「わかりました・・・ありがとうございます。」


行きとは逆に コンビニなどで 涼みながら ゆっくりと歩く


(今朝は 美幸に 結構 きついこと言っちゃったよな・・・俺。)


なんとなく 足が重かったが とにかく横たわりたくて ひたすら家に向かった。


「兄さん!?」


「ただいま・・・」


「やっぱり 気分が悪くなったのね? 病院行った方がいいんじゃないの?」


「いい 寝る・・・」


俺はネクタイだけ 外すと そのままワイシャツのままでベッドの横たわった。


どれくらい寝たんだろう・・・


気がつくと部屋の中は真っ暗で


妹が脱がせてくれたのか ワイシャツもズボンも 脱がされて ちゃんと毛布がかけられていた。


キュ・・・


(腹減った・・・)


目覚ましを見ると もう午前1時を回っており 10時間以上は寝ていたようだった。


(でも おかげですっきりした。


美幸は もう寝ちゃってるだろうし・・・ 冷凍ご飯でもあったら お茶漬けにして 食べようか)


と 居間に入ると


「あ 起きた? 兄さん。」


美幸がソファから立ち上がった。


「ああ・・・だいぶ すっきりしたよ。


今日は ごめんな。」


「ううん 私も 気が利かなくてごめんなさい。 もっと夏ばてに負けないようなメニューを出すようにするから。」


「・・・いや 十分 やってくれてるよ。 俺が余裕なくて せっかく作ってくれても 食べなかったりしてるだけだよな・・・」


「兄さん・・・」


キュルルル・・・


「・・・ハハ ちょっと何か腹に入れようかと思ったんだけど。」


「良かった 食欲戻ったんだね。今 軽いもの用意するから そこに座ってて。」


美幸は嬉しそうに笑って 俺をダイニングテーブルにかけさせた。


鍋に火をかけだしたのを見た俺は


「いいよ 別にお茶漬けとかで・・・」


「大丈夫 そんなに手間じゃないから。」


結局 夕飯に作ってくれていたものを もう一工夫して お腹に優しい具沢山のスープを作ってくれた。


「いい匂いだ・・・うまい。」


「良かった お変わりも あるわよ。」


向かいの席で にこにこ笑う美幸


「いつも・・・ ありがとう。


帰省しろとか なんとか 言いながら 


俺 おまえに


おんぶに抱っこでさ 


あげくに 疲れて 起き上がれなかったことまで お前のせいにして・・・ 本当にゴメンな。」


俺がそう言うと 美幸は驚いたように、目を瞠り


「ううん 全然気にしてないよ。」


と首を横に振る。


だが


「俺 お前がいると どうも甘えてしまうようだ。


夏休みくらい お前は 帰って 自分の時間を取り戻せ。」


と 言うと 美幸は 少しさびしそうな顔をして


「兄さん・・・ 私がいるの邪魔?」


「そんなはずないだろ? 馬鹿。・・・だけど お前だって進学校の生徒なのに 


こんな時間まで起きて 俺の飯作ってるなんて 割に合わないだろ?」


「そんなことない・・・ 私 料理好きだし ここの生活 すごく楽しいし・・・」


「俺は春まで 独り暮らしで それなりになんとかやってきた。


だから そんなに俺に気を使う必要ないよ。


夏休みなんだから もっと 遅くまで寝ていていいんだ。


俺は 勝手に飯を食って 出勤するから。 な?」


「・・・わかった 


じゃあ 明日 翔君が 東京に来るんだ。


あちこち 案内するから 少し 帰りは遅くなるかもしれないの。


午前中から 出かけるから どうしようと思ったけど


晩御飯 兄さん 適当に何か食べてきてくれるかな?」



申し訳なさそうに 美幸はそう言うので


「お おう もちろんだ。 そうか あいつ 来るって そういえば言ってたもんな。


楽しんで来い。 俺のことなら 心配は要らないから。」


「ありがとう 兄さん。」


ホッとしたように 笑う美幸。


ズキン・・・・・


(何だよ 俺 


今 美幸に自分の時間を取り戻せって 言ったばかりだろう?)


急に 飯の喉通りが悪くなった気がした。







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