うちデート
ガーガーゴー・・・
「ん・・・」
目が覚めると もう時計は9時を回っていて
居間から 美幸が掃除機をかける音が聞こえてきた。
「昨日は一人で 結構飲んじゃったもんな・・・ふぁ~~。暑いな 今日は・・・ 頭痛てぇ~」
俺は ひとつ大あくびをしてから ベッドから出る。
「兄さん おはよう。」
ノースリーブに短パンの美幸は 寝ぼけ眼の俺と違って 生き生きと家事をしている。
「おはよ・・・」
「大丈夫? おかゆ作ってあるよ。」
「あ 二日酔いって わかる?」
顔がそうとう浮腫んでいるのか・・・
「うん だって ビール缶5つも空けてるんだもん 普段は二つ位でしょ?」
「なるほど・・・ いや ありがとう。」
俺がだらしないばっかりに まだ高校生の美幸を
家政婦のように使っているのかもしれないと少し反省。
顔を洗って 居間に戻ると
もうしっかり おかゆが 梅干や昆布の佃煮 浅漬けなどと一緒に 用意されていた。
「・・・昨日は 俺の都合でTDL付き合ってもらっちゃったから
今日は 美幸の行きたいところ 付き合ってもいいぞ。」
「え・・・? 今日も出かけるの?」
掃除機を片付けながら 美幸は驚いた顔をして こちらを振り向いた。
「いや 君が忙しいなら 無理にとは言わないけどさ・・・
昨日は半日で 帰ったし
他にもっと行きたいところあったんじゃないのかなって 思ってさ。」
普段 いろいろ お世話になってるんだ・・・ これくらい
「じゃあ・・・ テニスと」
(う・・・キツ・・・汗)
「ああ テニスね?」
「それから スキー。」
「ス スキー?」
「そう あと ゴルフも♪ 夜は花火。」
ニコニコ笑って 美幸はテーブルの向い側に座った。
「スキーって ・・・どこでやるんだよ。
ゴルフだって クラブ持ってないし・・・」
俺が戸惑っていると
「兄さん TVゲームまだ持ってるでしょ?
ひさしぶりに 一緒にやりたいな・・・」
と美幸はコントローラーを持つしぐさをした。
「あ ああ そうか ハハハ びっくりした。」
「ふふっ それに 今日は花火大会があるみたい。
このマンションからなら
見えるような気がするんだけど・・・?」
と美幸は ベランダの向こうを指差した。
「そうか ここを借りる時 そういえば 花火が見られるとか 言ってたかもしれない。」
「せっかく高い階に住んでるのに 兄さんらしいですね クスクス。」
おかゆを食べてから さっそく クローゼットにしまいこんである 懐かしのTVゲームを出した。
「わぁ 懐かしい~♪」
手を叩いて喜ぶ美幸
「ちゃんと 作動するかな・・・」
ピコッ
「おお ちゃんと生きてるな・・・」
しばらく使ってなかったので 若干黄ばんではいたものの ソフトもハードも健在のようだった。
「わたし このキャラにしようかな♪」
美幸が 昔よく選んでいた魔法使いキャラを設定。
俺は 格闘家のキャラを選んだ。
あまりにもご無沙汰気味だったため
最初こそ コントローラーの動かし方が怪しかったが
すぐに 指の方が思い出していた。
「あ~~ ウソ 空振り!?」
「なに? 今のは インだろうがぁ くそぉ。」
だんだんと真剣になってくる俺たち
ゲームをやっていると さほど妹との歳の差はなくなってしまう・・・(汗)
「はぁ~~ やっぱり 兄さんにはかなわない~ くやしいな・・・ 結構 私 兄さんが家を出てからも 特訓してたのに・・・」
「いや 上手になってるよ。 俺 すっごいマジになったもの。」
「う・・・ じゃあ 前は 本気だしていなかったんだ。」
「ハハハ キャリアの差だよ。」
うっすらと汗をかいてしまうほど 熱中してしまった。
「兄さん お蕎麦でいい?」
いつの間にか 昼近くになっていて 美幸が立ち上がった。
「あ いいよ。 今日は俺が用意するから。」
「え いいよ お蕎麦茹でるだけだから・・・」
「いや いつもお前に支度させてばかりいるし 今日は俺が作る。 まあ 座ってな。」
俺は半ば強引に美幸を座らせて
台所に立つ。
家にいた頃は いつも美幸の美味しい料理を食べてたのだが
一人暮らしをしてからは 俺なりに 少しは自炊をしていたのだ・・・
「おまたせ・・・」
「わぁ・・・ すごい いい香り。 兄さんの作った お蕎麦・・・ 美味しい。」
美幸はよく味わうように目を閉じた。
「別に 薬味の葱の他は 麺つゆに柚子を絞っただけだけどな・・・」
「ふふ・・・」
急に美幸が含み笑いをしだす。
「何? 葱ちゃんと切れてなかった?」
「ううん 違う・・・ なんだか 昨日の3人デートより
今日の方が ずっと 贅沢なデートしてるなって 思って・・・ 嬉しくなっちゃったの。」
「デ デートって・・・これは 別に・・・家で ごろごろしてるだけだろ?」
照れ隠しに俺は 少しぶっきらぼうに言い返したのだが
「それは そうかもしれないけど・・・
私 兄さんと 二人きりで こうやって過ごすの・・・ 好きだな。」
美幸は特に気にする風でもなく 嬉しそうに笑う。
「こっちの学校に 友達はいないのかい?」
まだ入学して2ヶ月ほどだが
友達とどこかに出かけたりなんかはしてるんだろうか?
とふと心配になってしまった。
「お昼を一緒にしたりする友達はいるけど・・・
基本あの学校は進学校だから
それぞれ 勉強に忙しくて
お休みの日に会ったりなんて考える子はあまりいないみたい。
でもその方が気楽だけど。」
と言って美幸は苦笑した。
「ふ~ん 翔くんだっけ? あいつとは 会ったりしないの?」
「翔くんと? どうして 兄さんは翔くんにそんなにこだわるの?」
と美幸は首を傾げる。
「いや・・・だってさ いつも一緒にいたろう?」
「翔くんは 女の子の友達と違って趣味が合うし
お店の手伝いがあるからって
あまり遅くまで遊べないところがまた
気楽で良かったのかもしれない・・・
あ でも メールとか電話はあるよ。
夏休みにこっちに来るかもしれないって 言ってた。」
と 今思い出したように 手を叩く美幸。
「やっぱ ・・・続いてるんじゃないか。」
とつい 横目で睨むと
「続いてる?」
と きょとんとする美幸。
「さぁ・・・ 次は お前のちょびっと得意なスキーをやるか?」
「わぁい! 今度こそ 負けないわよ 兄さん。」
「おおぅ 受けてたつ!」
俺たちは 午後からスキーとゴルフで熱戦を繰り返した。
夕方になって 俺は美幸に手伝ってもらいながら
(いや ほとんど 美幸がメインで作り 俺がお手伝いか・・・?)
今度はカレーを作り 一緒に食べていると
ドドーン・・・
「あ 始まったよ 兄さん!」
美幸がベランダに 走り出た。
「え? ああ 本当だ 見えるんだな・・・ こっから。」
少し涼しくなってきたベランダは ゲームで火照った体を冷ましていく・・・
「けっこう ちゃんと 見えてるね・・・ 良かった。」
ドーン パチパチパチ・・・
ドドーン チカチカチカ・・・
俺たちは しばし 言葉もなく 花火に見惚れた。
夏の夜空に 妹と二人
遊びまくって ごろごろと家で過ごす
そんな休日もたまには いいなと 俺も思えた。
「兄さん・・・」
「ん? なんだ?」
ベランダに載せた両手に頬を預けながら こちらを向いた美幸は
「来年も
再来年も・・・
その後も ずっと
ここでこうやって
花火を 兄さんと
見たいな・・・」
と囁くように 話した。
「え? あ ああ いいよ。 就職しても
花火の時期になったら 遊びにくればいいじゃないか。」
ちょっと 美幸の瞳が星のようにキラキラしてて 心臓がドキドキしてきてしまう・・・
自分に危険を感じた俺は 美幸から視線をそらして 再び花火を見る。
「・・・うん そうだよね。 就職しても 遊びにくれば いいんだよね・・・」
「ああ 美幸なら いつでも大歓迎だから。 遠慮なく来い。」
「ありがとう 兄さん・・・」
ハァ・・・
だけど 俺は この時
美幸がついた
小さな溜息には
気がついていなかった・・・