家の味
(女の子の方から あんな風に積極的に接してくれているのに・・・
どうして こう 今ひとつ 乗り気になれないのか
妹にまで 気を使ってもらった割には こんな時間に帰ろうとしている。
俺は あまり女の子に興味がないんだろうか・・・
いや・・・ そうじゃない
俺が興味あるのは
美人でスタイルが良くて 明るい 千秋ではなくて・・・)
すっかり陽がしずんだ 青紫の風景の中に 俺と美幸のマンションが見えてきた。
(美幸・・・)
自然と足が速くなり
心が浮き立ってくる・・・
(妹なのに・・・)
「ただいま・・・」
「え 兄さん?」
居間のソファに座ってテレビを見ていた美幸が驚いて顔を上げた。
「はぁ~~ 足が痛い 運動不足だな。」
どっかと美幸の隣に座った。
「どうして こんなに早いの? 千秋さんは?」
「ああ 寒くなってきたから 解散したよ。」
「・・・お腹すいてる?」
「ああ でも 俺の分は用意してないだろ? カップ麺でも・・・」
「ううん 私は食べちゃったけど 少し多めに作っちゃったの
食べる? 大根と鳥手羽の煮物・・・」
「食べる!! 食べるに決まってるよ・・・ あのピザ 最悪だったからな~ ありがとう 美幸!」
ギュッ
嬉しくて 思わず 美幸の身体をぎゅっと抱きしめていた。
「キャッ・・・」
小さな悲鳴が胸元からあがって
はっと我に返る。
「ご ごめん つい 嬉しくて・・・ お腹ぺこぺこだったんだ・・・」
身体を離すと美幸は 耳まで赤い顔をして
「あ 温めなおすから 待っててね・・・」
とソファをたった。
(・・・美幸 ごめん 変態兄で・・・ でも 今のは 別に他意はないよ・・・
俺の好きな料理を作っていてくれた お前の心遣いが 単純嬉しかっただけで・・・
でも 嬉しかったからって
普通 兄が妹のこと ギュッなんて 抱きしめたりしないのかな・・・
俺の心のどこかに 若干 下心がないといえるのか?
それを感じたからこそ 美幸はあんなに真っ赤になってしまったんじゃないのか?
変に思っただろうか・・・?
美幸・・・ああ 俺 どうしたらいい~~~?)
「兄さん? どうしたの もう 用意できてるよ・・・?」
「え・・・あ ごめん。」
さっきから 何度も声をかけてくれてたのかもしれない
慌てて俺は キッチンテーブルに座った。
「うまそー・・・ ビール 飲んじゃおうかな?」
「いいんじゃない? 明日は日曜だし。」
美幸は笑って 冷蔵庫から 冷えたグラスと ビールを出してくれた。
「おお よく気のつく 妹よ・・・
君は 俺の 宝だ~!」
「もう・・・ クスクス。」
白く細い 美幸の手で ビールが注がれ
乾いた喉に 冷たく爽やかな液体が流れていく
「ハァ~~~ 美味い。」
そんな俺を テーブルに向いあって座る美幸はじっと見ている。
「今日は 気を使わせてごめんな。 千秋 お前のことかわいいって 言ってたぞ。」
「千秋さんの方がずっとキレイで スタイルがよくて モデルみたいだったじゃない・・・
あの集合写真なんかより ずっと 素敵だった。」
そう言って ビールを継ぎ足してくれる美幸。
「美幸も 十分引けを取ってなかったよ。 可愛すぎて心配した・・・
うん 美味いよこの大根 よく味がしみこんでて 上手に作ってあるね。」
「兄さんったら あんなところで 千秋さんとキスしてたでしょ?
私 しっかり見てたよ。」
ボロッ・・・
トリ手羽がテーブルに転がる。
「あ ああ 別に一瞬だったから 回りもそんなに気づいてなかったんじゃないか?」
ものすごく 今 うろたえてる・・・俺。
箸で 再度 トリを掴もうとするがなかなか挟めない。
「私 まだ キスって したことないわ・・・」
「そうなのか? あいつとはしてないの・・・ほら」
「翔くん? してないよ ただの友達だもん。」
しかたなく 箸でトリを挟むのは諦めて 手で掴んだ。
「まだ 高校1年だもんな・・・ そんなもんだろ? 焦ってするようなもんじゃないよ。」
柔らかい肉は ポロリと口に入れたとたんに骨から外れる。
美幸はトリ手羽の油で汚れた俺の手や口を見て すぐに タオルと出して濡らしてくれた。
「はい おしぼり。」
「おお サンキュ。」
べたついた口と手を拭いていると
まだ 美幸は 傍らに立っていた。
「ん どうした・・・?」
俺が視線をあげると
「千秋さん・・・こうやって 兄さんにお絞りを渡して
背中を擦りながら 顔を覗き込んでいたね・・・」
ドキン・・・
そう言って 同じシチュエイションで 美幸は顔を近づけてきた。
「ねえ・・・女の人から キスされるって どんな気持ち?」
「ど どんな 気持ちって・・・」
心臓が 飛び出そうなほどバクバクいっている。
(ど どうしたんだよ・・・)
「あんな キレイな人から キスされて・・・嬉しかった?」
10センチほどしか 隙間のない 俺と美幸の距離・・・
「お おい・・・」
俺はすっと二人の間に ビールのグラスを持ち上げて
冷えたビールのグラスを 妹の頬にそっとくっつけてやった。
「からかうなよ 兄を・・・」
美幸は肩を竦めて 身体を起こすと
「だって~私の 兄さんなのに・・・ ムカつく。」
といって ソファに戻った。
「何を俺なんかにヤキモチ焼く必要あるんだよ 馬鹿だな・・・」
と言いつつも
心臓は益々バクついて 収まりそうにない。
「あの人 絶対 私に対抗意識燃やしてると思う・・・
あのキスだって 私がトイレから 戻ったのをチラッと見てからやったんだよ。
おかげで 固まって しばらく動けなかったんだからっ!」
「え・・・そうだったのか? でも 妹に 対抗意識 燃やしたって しかたないだろ?」
「だって・・・」
そう言ったまま 美幸は 黙りこみ
「私 先に寝ます・・・ お風呂沸いてますから。 おやすみなさい 兄さん。」
と 美幸は 俺の顔を見ずに 寝室に行ったまま
もう出てこなかった。