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Frange ruinam外伝  作者: S
1/1

熱に浮かされて

自身で書いてAIに修正してもらっています。残酷表現が少しあるので注意です。

「フランマ」


そう声をかけられて振り向くと、夫と娘が立っていた。

夫は少し得意げな顔で、手にした三枚のチケットをひらひらと揺らす。


「今度、三人で遊園地に行かないか?」


「いつの間に取ったのよ」


「この子が行きたいって言っててさ。それに、いつも疲れてるだろ? たまにはいいかなって」


その優しい声に、思わず笑ってしまう。


「全然いいわ。むしろ、あなたにそんな気遣いができたことに驚いてる」冗談交じりにそう言った。



「あのお城行きたい!」


娘は目を輝かせながら叫んだ。

その日、私たちはいくつものアトラクションを回った。笑い声と音楽、時間を忘れて楽しんでいた。


「次はジェットコースター!」


「じゃあ行こうか」


夫は笑い、三人で人混みの中へ向かった。


ジェットコースターの前には、長い行列ができていた。

周囲は騒がしく、人が絶え間なく行き交っている。


次に大きな人波が押し寄せた、その瞬間だった。


――娘が、いない。


「……あれ?」


振り返っても、手を伸ばしても、そこにいるはずの姿がなかった。

胸の奥が、ひやりと冷える。


私たちは必死に辺りを探し回り、迷子センターへ向かった。


「どこに行ったんだ……」


「大丈夫よね……?」


そう言い聞かせても、不安は消えなかった。

名前を呼びながら、園内を歩き回る。

笑い声が、次第に耳障りに変わっていく。


一時間が過ぎたころだった。


娘は見つかった。


トイレで――無惨な姿で見つかった。


警察官が淡々と告げた。だがその声はあまりにも遠く届かなかった。彼もまた涙を堪えていた。

数日後、伝えられたのは、15歳の少年がトイレに娘を連れ込み、わいせつな行為をした後、殺害したということだった。


私の胸の中には、憎悪と怒りが渦巻いていた。

加害者が少年であるという理由だけで、少年法によって罪が軽くなる。そんなことが許されてたまるか。


毎晩、眠れずに考えた。

もし自分の手で、あの少年を――

いや、あの化け物を――制裁できるのなら。

法の下で守られる若さが、理不尽に命を奪った者が許せなかった。


街を歩くたび、学校に通う子どもたちを見るたび、心は痛み、憎しみは募った。


娘はもう二度と帰ってこないのだ。


ある夜、夫はソファに沈むように座り、何も言わずに新聞を読んでいる。

その背中を見ると、胸の奥でくすぶる怒りが抑えられなくなった。


「あなた……あのとき、ちゃんと見てなかったんでしょう?」


「え……?」


「ジェットコースターの前! 一瞬でも気を抜いたから、娘は――」

声が震え、抑えきれない怒りがにじむ。


「一瞬でも目を離したあなたのせいで、あの子は――」


「……違う。お前だって見てなかっただろう、俺を責められる筋合いあんのかよ」


「あなたの注意不足で……」


言葉は次第に罵倒になり、声が高まり、夜の静寂を裂いた。

私は涙が止まらなく、胸が張り裂けそうだった。


その晩、私たちは口もきかずに寝室に戻った。

私の胸には深い孤独と自己嫌悪が刻まれた。


次の日も、そしてその次の日も、同じ空気が続いた。事件の怒りと憎悪を誰にも向けられず、お互いにぶつけ続ける。


家にいても、会話はなく、視線すら避け合った。

かつての温かい家族の笑い声は、もはや思い出の中でしかない。


そんな状態で長く続くわけがなく私は夫に別れを告げた。


数年後の、ある夜だった。

窓の外が、ふと明るくなった。


次の瞬間、窓を開け異形のものが、部屋に入り込んできた。


「ずっと見てたよ。可哀想だね。復讐もできなくて」


低く、愉快そうな声。

人の形をしていながら、明らかに人ではない。


――悪魔だ。


この国に悪魔が存在することは知っていた。


悪魔は、私の前に立ち、楽しそうに語り始めた。


「あの少年が、君の娘に何をしたか教えてあげるよ!どんなことして、どのように――」


それは私が知らなかったこと。

知りたくなかったこと。


「……それで、――」


「黙れ」


声が震え、涙がこぼれる。


「それ以上、喋るな。」


悪魔は肩をすくめ、笑った。


「悪魔の契約って、知ってる?それは、魂や将来などを代償に捧げる代わりに、富、知識、力――現世の望みを叶えるものなの。そしてね実はその少年、もう社会に出てるんだよね。居場所も、今の生活も、我は全部知ってるよ」


悪魔の目が、赤く光る。


「契約すれば、教えてあげる。それに……力もね」


私は、代償を聞かなかった。

聞く余裕なんて、なかった。


契約を結んだ瞬間、体に熱を帯びた。

あの悪魔は炎の悪魔だった。

そして私は、炎を操る力を得た。


悪魔に導かれ、向かった先。

そこには――幸せそうに笑う、あの少年と、その家族がいた。


なぜ。

娘を殺したくせに、なぜ幸せに生きている。


憎しみが、炎となって溢れ出す。


家は、あっけないほど綺麗に燃え上がった。

悲鳴も、叫びも私にとって心地の良いものだった。


私は、燃える家を背に、軽い足取りで帰路についた。


――仇は取った。

そう思うと、胸の奥が、異様なほど清々しかった。


それから、何年も経った。


私は仕事場で、素敵な人と出会い、子供にも恵まれた。

過去のことも、悪魔のことも、いつしか忘れていた。


だが、ある日――家は燃えていた。


「あぁ――――」


声にならない叫び。


二人は、まだ家の中にいた。

そして、帰らぬ人となった。


それをやったのは、あの悪魔だった。


「悪魔というものはね、人間に興味を持たない。だから無差別に殺したりはしないんだよ。」


炎の向こうで悪魔が言う。


「正当防衛でもない限り、ね。……何が言いたいかわかる?」


悪魔は、ゆっくりと告げた。


「お前の契約のせいで、二人は死んだんだよ。あの契約の代償はお前の”幸福”なんだ」


「お前がこの先、どんな幸せを見つけても、必ず我が壊す。残念だけどお前に幸福は訪れないよ」


「あぁ……」


私は膝から崩れ落ちた。


悪魔は嗤う。


「悪魔は人間の絶望と恐怖が大好きなんだよ!」


そして、気づいているだろう? と続ける。


「我と契約してから、見た目が変わっていないことに」


その事は薄々気づいていた。

あの日から見た目が変わらないこと、きっと悪魔と契約すると、不老になるのだ。


「感謝してほしいものだね。力を分け与えてやっているんだから。釣り合いは取れているだろ?じゃあね」


そう言い残し、悪魔は消えた。


私が契約しなければ、二人は――。


……違う。


私が、最初からあの子をちゃんと見ていれば。


「……全部、私が招いたことだったんだ……」

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