乙女ゲーの世界に転生したら最推しから『魔女』呼ばわりされて、百年の恋も冷めました!
異世界転生を! した!!
やったー! ここってあれでしょ?!
乙女ゲーの『世界を君に~救国の聖女と悪しき魔女~』の世界でしょ?!
はしゃぎまくっているのは、異世界転生をしたと確信したからだ。
ふと目が覚めてみれば、見知らぬ部屋の見知らぬ天井が目に入ったときは、それはもう混乱したのだけれど。
異世界転生をしたのなら話は違う。
私が意識を宿したのはマルレーヌ・ベンブダウという女の子の体。
なんと! この体! 『世界を君に』略して『せかきみ』のヒロインなのだ!
十三歳の時にこの体で目覚めてから、はや二年。ここにくるまで長かった……!
目の前にそびえる荘厳な門を前に、こぶしを握り締める。
袖を通したばかりの真新しい制服を身にまとって、今日から魔法学園の生徒になる。
乙女ゲーのヒロインらしく、平民出身だから、本当に入学するのが大変だった。
幸い、私は世界でも希少な光魔法の素質があったから、すんなりと入学許可が下りたけど。
(ここでは出会いがたくさんあるけど! 浮気はしない! 最推し一直線よ!!)
魔法学園は『せかきみ』のメイン舞台だ。
ヒロインはこの学園で出会う様々なイケメンと恋をする。
私のお目当てはヴィクトル・モンディエール様だけ! 隣国の王子さまで、この国に留学している隠しキャラだ。
一週目では攻略できず、二週目以降の周回プレイで攻略可能になる。
最初は「こんなイケメンが友達枠なんてありえなくない?!」って思って、コントローラーを投げ出しそうだった。でも、周回すればちゃんと攻略できるってSNSで流れてきて、頑張って攻略した。
(隠しキャラだから、好感度上げるの大変だったなぁ)
攻略サイトを見れば簡単だったんだろうけど、できるだけ攻略サイトは見たくなかったから、四苦八苦して落としたものだ。
ここは異世界とはいえ、現実だから、周回プレイなんてできない。
と、いうことは! だ!
(最初から攻略可能なはず……!)
絶対絶対絶対! 落としてみせるから! 待ってて! ヴィクトル様!!
入学式を終えて、教室に入る。お目当ての人はすぐに見つかった。
(というか、さすが攻略キャラ、めちゃくちゃ目立つ!!)
ただ座って外を眺めているだけなのに、周囲がきらきら輝いている気がする。
こくりとつばを飲み込んで、少しだけ緊張しつつ、声をかける。
「初めまして! 私、マルレーヌっていいます! よろしくお願いします!」
愛想よく笑って伝えると、ヴィクトル様はちらりとこちらをみた。
わー! 切れ長の眼!! カッコいい!!!
「……俺にかまうな、魔女」
「?!」
ま、魔女?! 魔女って何?!
予想外の返しに固まる私の前で、ヴィクトル様に女子生徒が声をかける。
「ヴィクトル様! お隣いいですかぁ?」
「ああ」
ちら、と私を見た彼女が勝ち誇ったように笑っていて、思わず地団太を踏みそうになった。
貴方、誰ですかねぇ?!
ヴィクトル様にべったりの女子生徒は、彼と一緒に隣国から遊学に来た聖女のディアーヌ・ドゥクレ様というらしい。
私調べ、多分、彼女も転生者だ。
あることないことをヴィクトル様に吹き込まれているせいで、私が近づく余地がない。
ヴィクトル様は、完全に彼女を信頼している。どうしていいのかわからない。
(でもでもでも! 絶対、諦めたくない……!!)
前世で一番の推しだったのだ。この程度の障害で諦められるほど、安い恋じゃない。
(あれ、でも『魔女』ってなんだろう……?)
最初に言われた『魔女』の呼び方が気にかかる。
首を傾げて、少し離れた前の席で、授業を受けているヴィクトル様を見る。
たくましい背中に抱き着きたくてたまらない。
ああ、もう、こうなったら正面から戦うしかないかな?!
学園の中庭のガゼボで頭を抱えたい衝動と闘っていた。
「私は、ディアーヌ様をお呼びしたのですけれど……!」
そう、私はディアーヌ様に手紙を出した。二人で話しましょう、と。
なのにどうして、ヴィクトル様を連れてくるかなぁ……!
「だってぇ、一人ではなにをされるかわからなくって、怖くってぇ」
きゅるんと可愛い子ぶるその顔に、一発パンチをお見舞いしたい。
「魔女の呼び出しに応じるだけ、ありがたく思え」
ぶっきらぼうにヴィクトル様が告げる。
そうくるなら、こっちだって二人まとめて相手にしてやりますとも!
「その! 『魔女』という呼び名ですが! いったい何のことですか?! 心当たりがありません!!」
勢いよく叫んだ私に、ヴィクトル様が僅かに目を細める。
値踏みするような視線で、上から下まで眺められてちょっと居心地が悪い。
確かに『せかきみ』のサブタイトルには『魔女』のワードが含まれるけれど、作中では敵の闇落ちした魔術師を呼ぶ名称だったはず。
「お前は『異世界からの転生者』なのだろう? そういうものを『魔女』と呼んで何が悪い」
ああ、やっぱり。バレてたんだ。
そして、バラしたのは間違いなくディアーヌ様。
「どうしてそう思われるのですか?」
「だってー、私がヒロインじゃないなんておかしいものぉ!」
「……は?」
間の抜けた声が出た。
ヒロインじゃないなんておかしい? つまり、自分がヒロインではないから、そのポジションにいる『誰か』は『転生者』に違いない、と決めつけたってこと?
(いやいやいや、さすがにそれは馬鹿すぎでは? 本当のヒロインだったらどうする気だったの?)
目を細めた私の前で、ディアーヌ様がさらに勢い込んで口を開く。
「私がヒロインになれなかったのは貴女のせいよぉ!」
「……それが本当だとしたら、貴女こそ『別世界からの転生者』の『魔女』では?」
落ち着き払って反論すると、冷静に言い返されると思っていなかったのか、ディアーヌ様が僅かに目を見開いた。
「ヴィクトル様は、頭のおかしいことを仰るディアーヌ様を全面的に信頼し、傍に置いているということですね?」
念を押して確認すると、ヴィクトル様は明らかに眉を顰めた。
恋に恋して盲目だったのかもしれないけれど、今になってやばいと思ったのだろうか。
私は百年の恋が冷めた気持ちで、学園で習ったカーテシーをした。
「そうですか。さようなら。お話になりません」
一礼して、二人の前から去る。私の最推し、ゲームの中では頭キレッキレだったのにな。
「やあ、面白いものを見せてもらったよ」
教室に戻ろうとしていると、柱の陰から声をかけてきたのは、この国の王太子で、隣のクラスのアレックス・ドルレアン様だった。
ザ・王子様という彼とは王道中の王道の恋愛がゲームでできた。
私はあんまり惹かれなかったけど、人気投票では常に一位だった気がする。
「と、いいますと?」
「君たちの会話が風に乗って聞こえてきてね。楽しい話をしていたじゃないか」
くすくすと笑う姿に、趣味が悪いな、と内心でため息を吐く。
ちょっと腹黒いところも、人気の秘訣だったようだけど、目の前にすると面倒でしかない。
「そうですねぇ……百年の恋が冷めました」
「冷静になって何よりだ。君は我が国の聖女候補なのだから、他国の王子になど、なびいてもらっては困るしね」
あ、忘れていた。光魔法が使えるイコールで、聖女候補なのだった。
ゲームの中ではほぼ活かされなかった設定だったし、それこそゲーム中では他国の王子と結ばれることに制約なんてなかったから、頭から抜けていた。
ぱち、と瞬きをした私に、アレックス様が不思議そうに問いかけてくる。
「もしかして、自分が聖女候補なのを忘れていたのかい?」
「はい」
「ふ、面白いね、君」
小さく噴き出したアレックス様に、だって今までの人生において聖女候補なの、別に役に立たなかったしな、とは言い返せない。
つかつかと足音高く近づいてきたアレックス様が、私の顎をくいっと持ち上げる。
顎くい?! この場面で?!
「どうだい、あの二人に一泡吹かせてはやらないか?」
「します」
即断した。
私を選ばないどころか、一般的に頭がおかしいとしか思えない妄言を信じて、蔑ろにしたこと、後悔させてやるんだから!
アレックス様の誘いに乗って、一か月ほど。
私はヴィクトル様への恋心を完全に断ち切って、アレックス様と色々と話をした。
転生者であることは伏せた。だって、『別世界からの転生者』なんて、信じる方がおかしい。
相談した結果、人前で少し懲らしめてやろうと、アレックス様が言い出した。
曰く、学園のパーティー会場で言動のおかしさを指摘すれば、少しは目が覚めるだろう、と。
学園のパーティー会場が指定されたのは、騒ぎが大きくなりすぎなくてちょうどいいから、とのことらしい。
確かに、王家主催の夜会とかで大立ち回りをすると、今後に響くかもしれない。
都合の良いことに、入学して三か月がたつ頃に、学園主催のパーティーが行われる予定だった。
生徒たちの社交性を見るため、とか、そんな理由で開かれるパーティーだ。
準備をしていたら、あっという間に当日が訪れた。
アレックス様の瞳の色の青いドレスを贈ってもらって、彼にエスコートされて会場に入る。
平民の私はパーティーに行けるようなドレスもアクセサリーももっていなかったから、全部アレックス様に揃えてもらった。頭が上がらない。
アレックス様のエスコートで会場に入ると、少しだけざわめきが起きた。
彼を狙っていた令嬢たちが悔しそうにしている。
それらを視界にいれながら、凛と背筋を伸ばし続ける。
会場を歩いていると、ディアーヌ様をエスコートするヴィクトル様がいた。いまはもう羨ましいという感情はない。
「やあ、ヴィクトル。そっちも相変わらず仲がいいね」
にこにこと笑いながらアレックス様が声をかける。
賓客扱いでもあるお二人は、綺麗な一礼をした。
「いえ、そちらこそ。……」
「何か言いたげだね?」
楽しげにアレックス様が声をかける。
「いえ」と沈黙を選んだヴィクトル様の隣で、ディアーヌ様が声を上げた。
「アレックス様ぁ! その人、よくないと思います!」
「ディアーヌ」
「だってぇ、ヴィクトル様! 知ってるじゃないですか! その人『魔女』ですよぉ!」
大きな声で私を『魔女』呼びするディアーヌ様に、ヴィクトル様が眉を顰めている。
けれど、それ以上止める気配はない。それなら、二人は同罪だ。
「マルレーヌは我が国の聖女候補だ。その彼女を侮辱する意味は、わかっているんだろうね?」
いつもより二つくらい低い声音でアレックス様が問う。
ヴィクトル様は逃げるように視線をずらしてしまったけれど、ディアーヌ様は止まらない。
「だってぇ、事実ですよぉ。その人、頭おかしいんです!」
「それは君のほうじゃないか、ディアーヌ嬢」
「え?」
まさか自分に矛先が向くと思っていなかったのか、間の抜けた声を出したディアーヌ様に、私は淡々と諭すように告げた。
「なんでしたか、私は『前世の記憶を持った魔女』と仰っていましたね。そんなことが実際にあり得るとお思いですか?」
ヴィクトル様は信じたみたいだけど! 普通、信じないから!
少し声を張り上げた私の言葉に、周囲にいる生徒たちがこそこそと話し出す。
「そんなことを仰ったのか……?」
「聖女候補の方を魔女と呼ぶなど、恐ろしい」
「我が国を侮蔑しているのでは?」
他国からきていることも相まって、批判の声は徐々に大きくなっていく。
さすがにまずいと思ったのだろう。焦った様子でヴィクトル様がディアーヌ様の腕を引く。
「やめておけ」
「どうしてですかぁ! アレックス様を助けて差し上げないと!」
頭痛が痛いとはこのことらしい。
前世を持っていなくとも、この発言がまずいことは簡単に分かる。
案の定、アレックス様はにこやかな顔で怒っている。
「私を助けるとは?」
「魔女の呪いから解放して差し上げます! 私、聖女なので!!」
「……」
あんまりな言い分にとうとうアレックス様が黙りこむ。
浅く息を吐き出して、私は以前も口にした言葉を繰り返す。
「『前世の記憶を持つ魔女』がいたとして、どうして貴女がそれを見抜けるのですか。前世の記憶、というものがあるとして、貴女こそ、前世の記憶を持っているのでは?」
庭園のガゼボでも同じことを問いかけた。ディアーヌ様がぷくりと頬を膨らませる。
その仕草が可愛いと思ってるのは、本人だけだから……!!
「そうだとしたら、どうなんですかぁ!」
「……ヴィクトル様は『前世の記憶がある』と仰る、頭のおかしい方を、将来伴侶に迎えるおつもりですか?」
冷えた眼差しを送ると、沈黙を保っていたヴィクトル様が僅かに肩を揺らした。
返答はない。それが、答えだ。
「アレックス様、将来の国交を考えたほうがいいかもしれません」
「その通りだな」
周囲の令嬢や令息からも、否定の声は上がらない。
いま、ヴィクトル様とディアーヌ様は、この国の未来を敵に回したのだ。
変に静まってしまったパーティーで、一応義理として一曲踊って、私たちは庭園に涼みに出ていた。
学園の綺麗に剪定された中庭を、並んで歩く。
「私はね、前世の記憶というものは、案外あるのではないか、と思っている」
「そうなんですか?」
静かに口を開いたアレックス様の言葉は、かなり意外だった。
思わず瞬きをした私に、アレックス様が足を止める。振り返ると、彼は優しい眼差しで私を見ていた。
「入学した時から、ずっと君はヴィクトルを追いかけていたね。どこに行くのか、何が好きなのか、全部知っているようだった」
「……」
あー、やらかした。
確かに、前世のゲーム知識でずるをしていた。
ヴィクトル様がさぼってよく行く図書館裏とか、差し入れでもらうと喜ぶお菓子とか、先回りをしすぎたかもしれない。
黙って視線をそらした私に、ふは、とアレックス様が笑いだす。
「図星かな。でも、別にいいんじゃないかな。そういうの。君が聖女になるという証のようなものだ」
「……ではなぜ、あんな」
断罪じみたことをしたのですか。
静かな問いかけに、アレックス様が表情を改める。「だって」とひどく切ない表情で口にする。
「悔しいじゃないか」
「悔しい?」
「一目惚れをして、ずっといいなと思ってる子が、私に欠片も目もくれず、別の男を追いかけているんだ。面白くない」
それ、は。
大きく目を見開いた、私の前で、アレックス様が悪戯気に笑っている。
手を差し出して、また笑みを深めた。
「私と婚約してくれないか。マルレーヌ・ベンブダウ」
そのまま膝をつくのは、この国での正式な求婚方法。
攻略キャラ全員のエンドでスチルがあったから知っている。息を飲んだ。でも、抵抗はなかった。
そうっと、慎重に。その手のひらに自分の手を重ねる。それが、承諾の証。
「よろしくお願いします、アレックス様」
現実はゲームのようにはいかない。
だから、最推しの彼と結ばれないのは当然で。
全然気になっていなかった人と結ばれるのも、悪くない。
オーケーの返事をした私に、アレックス様が笑み崩れる。
その顔が宝物を見つけた子供のようで、どうしようもなく愛おしいな、と思ってしまった。
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