表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

乙女ゲーの世界に転生したら最推しから『魔女』呼ばわりされて、百年の恋も冷めました!

作者: 久遠れん
掲載日:2025/10/25

 異世界転生を! した!!

 やったー! ここってあれでしょ?!

 乙女ゲーの『世界を君に~救国の聖女と悪しき魔女~』の世界でしょ?!




 はしゃぎまくっているのは、異世界転生をしたと確信したからだ。

 ふと目が覚めてみれば、見知らぬ部屋の見知らぬ天井が目に入ったときは、それはもう混乱したのだけれど。

 異世界転生をしたのなら話は違う。


 私が意識を宿したのはマルレーヌ・ベンブダウという女の子の体。


 なんと! この体! 『世界を君に』略して『せかきみ』のヒロインなのだ!


 十三歳の時にこの体で目覚めてから、はや二年。ここにくるまで長かった……!

 目の前にそびえる荘厳な門を前に、こぶしを握り締める。


 袖を通したばかりの真新しい制服を身にまとって、今日から魔法学園の生徒になる。

 乙女ゲーのヒロインらしく、平民出身だから、本当に入学するのが大変だった。


 幸い、私は世界でも希少な光魔法の素質があったから、すんなりと入学許可が下りたけど。


(ここでは出会いがたくさんあるけど! 浮気はしない! 最推し一直線よ!!)


 魔法学園は『せかきみ』のメイン舞台だ。


 ヒロインはこの学園で出会う様々なイケメンと恋をする。

 私のお目当てはヴィクトル・モンディエール様だけ! 隣国の王子さまで、この国に留学している隠しキャラだ。


 一週目では攻略できず、二週目以降の周回プレイで攻略可能になる。


 最初は「こんなイケメンが友達枠なんてありえなくない?!」って思って、コントローラーを投げ出しそうだった。でも、周回すればちゃんと攻略できるってSNSで流れてきて、頑張って攻略した。


(隠しキャラだから、好感度上げるの大変だったなぁ)


 攻略サイトを見れば簡単だったんだろうけど、できるだけ攻略サイトは見たくなかったから、四苦八苦して落としたものだ。


 ここは異世界とはいえ、現実だから、周回プレイなんてできない。

 と、いうことは! だ!


(最初から攻略可能なはず……!)


 絶対絶対絶対! 落としてみせるから! 待ってて! ヴィクトル様!!






 入学式を終えて、教室に入る。お目当ての人はすぐに見つかった。


(というか、さすが攻略キャラ、めちゃくちゃ目立つ!!)


 ただ座って外を眺めているだけなのに、周囲がきらきら輝いている気がする。

 こくりとつばを飲み込んで、少しだけ緊張しつつ、声をかける。


「初めまして! 私、マルレーヌっていいます! よろしくお願いします!」


 愛想よく笑って伝えると、ヴィクトル様はちらりとこちらをみた。

 わー! 切れ長の眼!! カッコいい!!!


「……俺にかまうな、魔女」

「?!」


 ま、魔女?! 魔女って何?!

 予想外の返しに固まる私の前で、ヴィクトル様に女子生徒が声をかける。


「ヴィクトル様! お隣いいですかぁ?」

「ああ」


 ちら、と私を見た彼女が勝ち誇ったように笑っていて、思わず地団太を踏みそうになった。

 貴方、誰ですかねぇ?!






 ヴィクトル様にべったりの女子生徒は、彼と一緒に隣国から遊学に来た聖女のディアーヌ・ドゥクレ様というらしい。


 私調べ、多分、彼女も転生者だ。

 あることないことをヴィクトル様に吹き込まれているせいで、私が近づく余地がない。


 ヴィクトル様は、完全に彼女を信頼している。どうしていいのかわからない。


(でもでもでも! 絶対、諦めたくない……!!)


 前世で一番の推しだったのだ。この程度の障害で諦められるほど、安い恋じゃない。


(あれ、でも『魔女』ってなんだろう……?)


 最初に言われた『魔女』の呼び方が気にかかる。

 首を傾げて、少し離れた前の席で、授業を受けているヴィクトル様を見る。

 たくましい背中に抱き着きたくてたまらない。


 ああ、もう、こうなったら正面から戦うしかないかな?!






 学園の中庭のガゼボで頭を抱えたい衝動と闘っていた。


「私は、ディアーヌ様をお呼びしたのですけれど……!」


 そう、私はディアーヌ様に手紙を出した。二人で話しましょう、と。

 なのにどうして、ヴィクトル様を連れてくるかなぁ……!


「だってぇ、一人ではなにをされるかわからなくって、怖くってぇ」


 きゅるんと可愛い子ぶるその顔に、一発パンチをお見舞いしたい。


「魔女の呼び出しに応じるだけ、ありがたく思え」


 ぶっきらぼうにヴィクトル様が告げる。

 そうくるなら、こっちだって二人まとめて相手にしてやりますとも!


「その! 『魔女』という呼び名ですが! いったい何のことですか?! 心当たりがありません!!」


 勢いよく叫んだ私に、ヴィクトル様が僅かに目を細める。

 値踏みするような視線で、上から下まで眺められてちょっと居心地が悪い。


 確かに『せかきみ』のサブタイトルには『魔女』のワードが含まれるけれど、作中では敵の闇落ちした魔術師を呼ぶ名称だったはず。


「お前は『異世界からの転生者』なのだろう? そういうものを『魔女』と呼んで何が悪い」


 ああ、やっぱり。バレてたんだ。

 そして、バラしたのは間違いなくディアーヌ様。


「どうしてそう思われるのですか?」

「だってー、私がヒロインじゃないなんておかしいものぉ!」

「……は?」


 間の抜けた声が出た。

 ヒロインじゃないなんておかしい? つまり、自分がヒロインではないから、そのポジションにいる『誰か』は『転生者』に違いない、と決めつけたってこと?


(いやいやいや、さすがにそれは馬鹿すぎでは? 本当のヒロインだったらどうする気だったの?)


 目を細めた私の前で、ディアーヌ様がさらに勢い込んで口を開く。


「私がヒロインになれなかったのは貴女のせいよぉ!」

「……それが本当だとしたら、貴女こそ『別世界からの転生者』の『魔女』では?」


 落ち着き払って反論すると、冷静に言い返されると思っていなかったのか、ディアーヌ様が僅かに目を見開いた。


「ヴィクトル様は、頭のおかしいことを仰るディアーヌ様を全面的に信頼し、傍に置いているということですね?」


 念を押して確認すると、ヴィクトル様は明らかに眉を顰めた。

 恋に恋して盲目だったのかもしれないけれど、今になってやばいと思ったのだろうか。


 私は百年の恋が冷めた気持ちで、学園で習ったカーテシーをした。


「そうですか。さようなら。お話になりません」


 一礼して、二人の前から去る。私の最推し、ゲームの中では頭キレッキレだったのにな。






「やあ、面白いものを見せてもらったよ」


 教室に戻ろうとしていると、柱の陰から声をかけてきたのは、この国の王太子で、隣のクラスのアレックス・ドルレアン様だった。


 ザ・王子様という彼とは王道中の王道の恋愛がゲームでできた。

 私はあんまり惹かれなかったけど、人気投票では常に一位だった気がする。


「と、いいますと?」

「君たちの会話が風に乗って聞こえてきてね。楽しい話をしていたじゃないか」


 くすくすと笑う姿に、趣味が悪いな、と内心でため息を吐く。

 ちょっと腹黒いところも、人気の秘訣だったようだけど、目の前にすると面倒でしかない。


「そうですねぇ……百年の恋が冷めました」

「冷静になって何よりだ。君は我が国の聖女候補なのだから、他国の王子になど、なびいてもらっては困るしね」


 あ、忘れていた。光魔法が使えるイコールで、聖女候補なのだった。


 ゲームの中ではほぼ活かされなかった設定だったし、それこそゲーム中では他国の王子と結ばれることに制約なんてなかったから、頭から抜けていた。


 ぱち、と瞬きをした私に、アレックス様が不思議そうに問いかけてくる。


「もしかして、自分が聖女候補なのを忘れていたのかい?」

「はい」

「ふ、面白いね、君」


 小さく噴き出したアレックス様に、だって今までの人生において聖女候補なの、別に役に立たなかったしな、とは言い返せない。


 つかつかと足音高く近づいてきたアレックス様が、私の顎をくいっと持ち上げる。

 顎くい?! この場面で?!


「どうだい、あの二人に一泡吹かせてはやらないか?」

「します」


 即断した。

 私を選ばないどころか、一般的に頭がおかしいとしか思えない妄言を信じて、蔑ろにしたこと、後悔させてやるんだから!






 アレックス様の誘いに乗って、一か月ほど。

 私はヴィクトル様への恋心を完全に断ち切って、アレックス様と色々と話をした。


 転生者であることは伏せた。だって、『別世界からの転生者』なんて、信じる方がおかしい。


 相談した結果、人前で少し懲らしめてやろうと、アレックス様が言い出した。

 曰く、学園のパーティー会場で言動のおかしさを指摘すれば、少しは目が覚めるだろう、と。


 学園のパーティー会場が指定されたのは、騒ぎが大きくなりすぎなくてちょうどいいから、とのことらしい。

 確かに、王家主催の夜会とかで大立ち回りをすると、今後に響くかもしれない。


 都合の良いことに、入学して三か月がたつ頃に、学園主催のパーティーが行われる予定だった。

 生徒たちの社交性を見るため、とか、そんな理由で開かれるパーティーだ。


 準備をしていたら、あっという間に当日が訪れた。

 アレックス様の瞳の色の青いドレスを贈ってもらって、彼にエスコートされて会場に入る。


 平民の私はパーティーに行けるようなドレスもアクセサリーももっていなかったから、全部アレックス様に揃えてもらった。頭が上がらない。


 アレックス様のエスコートで会場に入ると、少しだけざわめきが起きた。

 彼を狙っていた令嬢たちが悔しそうにしている。

 それらを視界にいれながら、凛と背筋を伸ばし続ける。


 会場を歩いていると、ディアーヌ様をエスコートするヴィクトル様がいた。いまはもう羨ましいという感情はない。


「やあ、ヴィクトル。そっちも相変わらず仲がいいね」


 にこにこと笑いながらアレックス様が声をかける。

 賓客扱いでもあるお二人は、綺麗な一礼をした。


「いえ、そちらこそ。……」

「何か言いたげだね?」


 楽しげにアレックス様が声をかける。

 「いえ」と沈黙を選んだヴィクトル様の隣で、ディアーヌ様が声を上げた。


「アレックス様ぁ! その人、よくないと思います!」

「ディアーヌ」

「だってぇ、ヴィクトル様! 知ってるじゃないですか! その人『魔女』ですよぉ!」


 大きな声で私を『魔女』呼びするディアーヌ様に、ヴィクトル様が眉を顰めている。

 けれど、それ以上止める気配はない。それなら、二人は同罪だ。


「マルレーヌは我が国の聖女候補だ。その彼女を侮辱する意味は、わかっているんだろうね?」


 いつもより二つくらい低い声音でアレックス様が問う。

 ヴィクトル様は逃げるように視線をずらしてしまったけれど、ディアーヌ様は止まらない。


「だってぇ、事実ですよぉ。その人、頭おかしいんです!」

「それは君のほうじゃないか、ディアーヌ嬢」

「え?」


 まさか自分に矛先が向くと思っていなかったのか、間の抜けた声を出したディアーヌ様に、私は淡々と諭すように告げた。


「なんでしたか、私は『前世の記憶を持った魔女』と仰っていましたね。そんなことが実際にあり得るとお思いですか?」


 ヴィクトル様は信じたみたいだけど! 普通、信じないから!


 少し声を張り上げた私の言葉に、周囲にいる生徒たちがこそこそと話し出す。


「そんなことを仰ったのか……?」

「聖女候補の方を魔女と呼ぶなど、恐ろしい」

「我が国を侮蔑しているのでは?」


 他国からきていることも相まって、批判の声は徐々に大きくなっていく。

 さすがにまずいと思ったのだろう。焦った様子でヴィクトル様がディアーヌ様の腕を引く。


「やめておけ」

「どうしてですかぁ! アレックス様を助けて差し上げないと!」


 頭痛が痛いとはこのことらしい。

 前世を持っていなくとも、この発言がまずいことは簡単に分かる。

 案の定、アレックス様はにこやかな顔で怒っている。


「私を助けるとは?」

「魔女の呪いから解放して差し上げます! 私、聖女なので!!」

「……」


 あんまりな言い分にとうとうアレックス様が黙りこむ。

 浅く息を吐き出して、私は以前も口にした言葉を繰り返す。


「『前世の記憶を持つ魔女』がいたとして、どうして貴女がそれを見抜けるのですか。前世の記憶、というものがあるとして、貴女こそ、前世の記憶を持っているのでは?」


 庭園のガゼボでも同じことを問いかけた。ディアーヌ様がぷくりと頬を膨らませる。

 その仕草が可愛いと思ってるのは、本人だけだから……!!


「そうだとしたら、どうなんですかぁ!」

「……ヴィクトル様は『前世の記憶がある』と仰る、頭のおかしい方を、将来伴侶に迎えるおつもりですか?」


 冷えた眼差しを送ると、沈黙を保っていたヴィクトル様が僅かに肩を揺らした。

 返答はない。それが、答えだ。


「アレックス様、将来の国交を考えたほうがいいかもしれません」

「その通りだな」


 周囲の令嬢や令息からも、否定の声は上がらない。

 いま、ヴィクトル様とディアーヌ様は、この国の未来を敵に回したのだ。






 変に静まってしまったパーティーで、一応義理として一曲踊って、私たちは庭園に涼みに出ていた。

 学園の綺麗に剪定された中庭を、並んで歩く。


「私はね、前世の記憶というものは、案外あるのではないか、と思っている」

「そうなんですか?」


 静かに口を開いたアレックス様の言葉は、かなり意外だった。

 思わず瞬きをした私に、アレックス様が足を止める。振り返ると、彼は優しい眼差しで私を見ていた。


「入学した時から、ずっと君はヴィクトルを追いかけていたね。どこに行くのか、何が好きなのか、全部知っているようだった」

「……」


 あー、やらかした。


 確かに、前世のゲーム知識でずるをしていた。

 ヴィクトル様がさぼってよく行く図書館裏とか、差し入れでもらうと喜ぶお菓子とか、先回りをしすぎたかもしれない。


 黙って視線をそらした私に、ふは、とアレックス様が笑いだす。


「図星かな。でも、別にいいんじゃないかな。そういうの。君が聖女になるという証のようなものだ」

「……ではなぜ、あんな」


 断罪じみたことをしたのですか。

 静かな問いかけに、アレックス様が表情を改める。「だって」とひどく切ない表情で口にする。


「悔しいじゃないか」

「悔しい?」

「一目惚れをして、ずっといいなと思ってる子が、私に欠片も目もくれず、別の男を追いかけているんだ。面白くない」


 それ、は。

 大きく目を見開いた、私の前で、アレックス様が悪戯気に笑っている。

 手を差し出して、また笑みを深めた。


「私と婚約してくれないか。マルレーヌ・ベンブダウ」


 そのまま膝をつくのは、この国での正式な求婚方法。

 攻略キャラ全員のエンドでスチルがあったから知っている。息を飲んだ。でも、抵抗はなかった。


 そうっと、慎重に。その手のひらに自分の手を重ねる。それが、承諾の証。


「よろしくお願いします、アレックス様」


 現実はゲームのようにはいかない。

 だから、最推しの彼と結ばれないのは当然で。

 全然気になっていなかった人と結ばれるのも、悪くない。


 オーケーの返事をした私に、アレックス様が笑み崩れる。

 その顔が宝物を見つけた子供のようで、どうしようもなく愛おしいな、と思ってしまった。





読んでいただき、ありがとうございます!


『乙女ゲーの世界に転生したら最推しから『魔女』呼ばわりされて、百年の恋も冷めました!』のほうは楽しんでいただけたでしょうか?


面白い! 続きが読みたい!! と思っていただけた方は、ぜひとも


ブックマーク、評価、リアクションを頂けると、大変励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ヴィクトル王子がなぜにディアーヌみたいな女に引っかかったのかようわからん。 ぶっちゃけヒロインの初対面とどっこいどっこいな気がするんだけど、なんか違うの? 容姿がディアーヌのほうが好みだったとか? も…
ディアーヌが自国でも同じような言動していたのならこんな奴留学させるとかやべえと思う大人が留学の阻止をしたか王子以外のお目付け役(監視役)をつけての留学にしたのではと思いました。
転生というより憑依による乗っ取り状態が正しい気がする 実質バッドエンドなのでは?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ