1.2 神々の審判
「知らない空間だ…」
そこは宇宙の中と見まごうかのように幻想的な星々に飾られた空間だった。
しかし、俺は宙に浮かんでいるわけではない。何か透明な板の様なものに足元を支えられている。
「はーい!どもども〜!私、天使こと、神々の使いのガブリールと申しま〜す!」
「えっ…あっ、ども。」
何かコスプレ美少女が現れた。自分を天使と称するぐらいあって、黄金のように煌めくブロンドのミディアムヘアに、背中には翼までついている。眼の色も金色で、豪華絢爛な雰囲気を醸し出している。何この人、普通に可愛いんだけど!
「あなたは神々の厳正なる審判の結果として、異世界での哲学講師の天職を与えられました〜!ぱちぱちぱち〜!」
あれ、ちょっとこの人が何言ってるか分からない。落ち着け、落ち着くんだ俺…
「…って落ち着けるかぁ!人をからかうのもいい加減にしろよ!こんな所に転移させておいて…って、うん?転移?ちょっと待て、これってもしかして…」
「あぁ、まだ混乱して状況を飲み込めてないみたいですね〜。あなたは元いた銀河系から転移させられ、別の星へと向かうことになったんです。ここまでオーケー?」
「異世界転移だろうとは思ったけどさ、全然オーケーじゃねぇよ!元いた銀河系から転移!?どんだけ遠くに飛ばしてんだよ!」
すると、ガブリールと名乗った天使は心底面倒臭そうに。
「あー、もううるさいなぁ…要するに、あなたは神様から職を授けられたんですよ。感謝してくださいね〜引きこもりのオタクさん」
一体なんなんだコイツ…一転して腹立つ、可愛いけど。まぁ、まずは情報整理が先決だ。
「…わーったよ、もういい。もう地球に戻りたいだの言わないから、神様の審判とやらについて詳しく教えてくれる?」
「はーい!そうこなくっちゃ!神々の審判はですね、数百年に一度、地球から別の星へと技術体系や知識体系を移すことを意図して行われるものなんです!」
それでなんで引きこもりの俺が?とは思ったが口にはしなかった。話の腰を折るとまた面倒くさそうな顔をしそうだからだ。
「そこで!まだ魔術体系が発展途上な都市グランマリアにあなたを転移させることになりました!あなたの哲学の知識を存分に活用してくださいね〜!」
「いや待て待て!なんで魔術と哲学が繋がるんだよ!?」
すると今度は、ガブリールが心底申し訳なさそうに。
「あー…実は神様があなたを選んだ理由って、魔術と相性が良さそう、っていう憶測と『不登校の哲学少年は暇人。ゆえに異世界で働いてもらう』っていう偏見の基になり立ってるんですよね…」
「ド偏見過ぎる!?いくらなんでもそれは無くない?」
「でもでも!あなたも大好きなラノベやアニメに出てくるような魔術を使える様になるんですよ!というか、魔術の知識と技術の体型を哲学の知識をベースにして作ってもらうんですけど!」
「それは…そうか」
確かに魔術が使えるというのは魅力的ではある。
俺もアニメや漫画、ライトノベルを愛する不登校男子として幾度も憧れた。
なんなら、中学二年生の時にとある病気になったぐらい。
「っていうか、作れるの?俺が?一から?」
「作れると信じてます!」
「信じてるだけかよ!?…まぁいい、じゃあ次は天職って何か教えてくれる?」
「あ〜説明だるくなってきました〜。あなたもオタクなんだからそれなりの知識はあるでしょ?ちょっとは自分で考えたら?」
「さっきからあまりにも情緒不安定すぎないかこの天使…」
あ、思わず声に出てしまった。
「やめてください!人を情緒不安定な可哀想な娘扱いしないでください!分かりましたよ説明しますよ!」
ガブリールはコホン、と咳払いを一つして。
「天職っていうのは、神から与えられる使命です。それがあなたの場合、大都市グランマリアの魔術学院での哲学講師の職という訳です。」
「あのー、俺アマチュア哲学者なんだけど、そんなのが発展途上の魔術理論を作りあげる役割でいいの?」
「いや、実はあんまり良くないんですけど、あなたの場合事情が特殊でして…」
事情が特殊。うわ、一気に嫌な予感がしてきた。言っちゃおう。もう言っちゃおう。
「じつは俺には地球で天職が割り振られてなかった…とか?」
「は、はい!良く分かりましたね!実はそうなんです!あなたは天職を与えられなかった、正真正銘の暇人なんです!だから、そういうミスが数百年単位で起こってしまうので、神々の審判が下されるんですよ〜!」
「ですよ〜、じゃねぇよ!やっぱり神様のミスのせいじゃねぇか!」
悪い予感は悪い現実を引き起こすのが世の常だが、まさかここまで酷い現実だとは…
「うぅ…でもでも、神様だってミスはするんですよ!この宇宙の全てを数柱の神々の方々と、私たち天使族で管理してるんですから!」
むぅ…そう言われるとかなりの激務な気がするぞ…神々の世界も相当にブラックだという闇を垣間見た気がする。
「はぁ…分かったよ、分かりましたよ!要するに俺は不良品で、その不良品を少しでも役立てようと、新たに天職を授けて別の星に移送するって訳だよな!それが俺の好きな哲学だってんなら、まぁ…異存は無いよ。あとは好きにしてくれ。」
そもそも、俺は高校1年生でアマチュア哲学者を名乗るくらい哲学がこれ以上なく好きなのだ。天職を与えられるなら哲学に関係したものがいい。
「物分かりが大変良くて助かりま〜す!ではでは、大都市グランマリアでの生活について説明しますね!実は先日、グランマリアのノアリアナ魔術学院の学長さんもこの空間に呼び出して、話はつけてあります!」
「え?不良品がこれから送られて来ますよって?よく話が通ったな…」
「ち、ちがいますよう!神々の審判の結果、魔術の発展に寄与する人材を派遣するから、寮に入れて学生兼講師として入れてあげてください、って丁寧にお願いしましたよ!」
「なんか俺の対応とは全然違う態度取ってそうだな」
「ちなみに、学長さんの名前はノアリアナ・ラザフォードっていいます。覚えておいてくださいねっ?」
俺の指摘を無視しながら、指を頬に当ててウインクしながらガブリールはそう言った。ムカつく。が、しかし可愛い。
「それだけ判ればもう十分か…。よし、じゃあグランマリアとかいう都市に転移させてくれ!」
憧れの異世界転移!
色々言いながらも、実は胸の奥ではワクワクが収まらなかったのは、とある病気の後遺症のせいか。
「は〜い!あなたならきっと、魔術を進化させられると信じています!頑張ってきてくださいね〜!」
ガブリールが俺に向かって両手をかざすと、俺は白い光に包まれて、どんどん身体が透明になっていった。
そして俺は、この空間から見事に姿を消した。




