婚約者との邂逅
横を向いたレンディールの目に飛び込んできたのは、太陽の光に照らされた眩い金髪だった。
その眩しさに思わず目を覆う。
今のは、なんだ?
先程まで、拭っても流れ続けていた涙が、引っ込んだ。
恐る恐る、目を覆ってる手をどけると、今度は見上げてくる碧眼と目が合う。
碧眼には赤銅色の髪と目をした、自身の姿が映し出されていた。
その目から視線を逸らし、全体像を確認する。
女の子……だ。
眩い金髪というのは、勘違いだったらしく、その少女の髪は、明るい茶髪だった。
光に照らされれば、金髪にも見えるだろう。
下女にも、侍女にも見えず、ましてや女官はありえない。
貴族のご令嬢だと考えるのが自然だ。
「なぜ、泣いていたの?」
いつから横にいたのか、少女は無遠慮にレンディールの頬に手を伸ばし、触れてくる。
なぜだかその手を振り払うことはできなかった。
「……母上が死んだから」
口に出すと、悲しみが込み上げてきたが、敵か味方か分からない存在に、隙を見せることはできない。
「お母様って、側妃様のこと?」
「そうだけど……。君はだれ?」
レンディールの顔をじっと見つめていた彼女は、ハッと我に返ったように、頬に触れている手を戻した。
その流れで、見事な礼をとる。
「私セラシア・フリドランと申します。フリドラン伯爵家の娘で、貴方の婚約者に選ばれました。どうぞよろしくお願いいたします」
レンディールに対して、丁寧な挨拶をしてくれる人はいなかった。
この瞬間までは。
彼はこの国の第三王子ではあるが、決して大切にされる存在ではなかったのだ。
自身を真っ直ぐ見上げ、目に映してくれるセラシア。
母親が死んでから、色を無くしていた世界に、再び鮮やかな色が戻ってきた。
「……ありがとう。私はレンディール・アスフェル。知っての通り、この国の第三王子だ。これからよろしく」
ゆっくりと口角を上げ、少しだけ目を細める。
この三日で笑顔の作り方を忘れてしまった。
しっかり笑えただろうか。