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sequence1-7

扉はなく開放的な大理石の門をくぐる。門をくぐる前に少しだけ見えたが、たくさんある窓も見える限りであるものの、扉はなかった。そんな外部から侵入し放題な造りの建物。しかし、先ほど感じた威圧や息苦しさ。建物に近づく度に強くなり、立っているのもの困難な程だった。つまりそれが防犯としての機能なのだろうか。

キャロラインは1つ、深呼吸をする。


建物の中すぐにあったのは玄関ホール。そこには数人の存在を感じる。その中の1つに、地下で感じたものを同じ魔力も。


「名札は絶対になくすなよ?」

サーリアの言葉に小さく頷き、警戒レベルを引き上げるキャロライン。


「うん、そうだね。あれは鍵、みたいな役割をしているからね。無くすと、ここに入るのは困難だからね」

玄関ホールの真っ直ぐ進んだ先にある、大きな階段から人陰が。

そして地下で聞いたあの声だ。「うん、そうだね」と何回も聞いた。それも今日の数時間前のことだ。忘れるわけもなかった。


「おー、ボス。任務終わったぞー」

サーリアは緩い雰囲気で右手を上げ、報告をする。同時にホールの中央辺りで足を止めたので、キャロラインもそれにならう。


キャロラインたちが立っている真上に位置する大きく立派な虹色のシャンデリア。その見た目の色とは異なり、少し赤めの明かりを放っている。

1歩1歩赤い絨毯の踏みながら降りてくる。1歩進む毎に、明かりのせいでぼやけていた輪郭がハッキリしだす。

茶色い髪の毛。前髪は瞼にかかるか、かからないか、というところで不揃い。そして所々無造作に跳ねている髪。顔は非常に中性的で色白。深い碧瞳。見た目は地下で見たより少し若く見える。20代前半といったところか。

それでも声音や仕草、瞳から同一人物だと判断するキャロライン。


「お疲れ様。もう下がってくれても問題ないよ?少し時間かかったところをみると、疲れたんじゃないかい?」

優しく微笑みながらサーリアに視線を配る男。何故かに視線を奪われてしまうのその所作に、キャロラインは確認する。


「あんた、見た目があの時と違うわね?それも魔法かなにかなの?」

言葉と同時に右足を半歩引き、半身で構える。

そんなキャロラインを一瞥し、右に顔を向ける。

「大丈夫、動かなくていいよ?」

そう言いながら、何かを制するように右手を声を掛けた方向にかざす。


「はっ、そこに居るの分かっていたわ。別になんてことないわよ?」

「うん、そうだね。君の言葉に嘘はないから、間違いないんだろうね。けどね、必要のないことに割く時間もないよね?もう遅いんだし」

男は更に「それに」と続ける。


「君が何かしたところで、ぼくやぼくの大事な者たちに傷1つ付かないさ。そんなこと、君はしないだろう?

君のことは、君以上に分かっているんだよ?

ね――キャロライン?」

男の言葉にキャロラインの体を少し震わせる。その後、一層鋭く目の前の男を睨みつける。

「あんた、何で知って」

「うん、そうだね。君がそう思うのも当然だろうとも。極々自然なことだろう。そして、今の気持ち悪さも、怖さも恐れも苛立ちも正しい。弱さから目を背けない、その魂、実に素晴らしいよ」

キャロラインの言葉を遮り、身振りを加え熱弁を始めた。

「ぼくは、レゾミナント・アズワール。ここ、アズワール領を任された領主。それでいて、この屋敷の主でもある。そこにいるサーリアや、皆のご主人様だ」

そう言うとレゾミナントは再び右の方向に視線を送る。


「ああ、そうだ、キャロライン。君の名前を知っている理由だったね」

「そんなことはどうでもいい……っ!」

せめてものと、キャロラインは強がってみせる。恐怖や畏怖の感情すら見透かされているのか、と冷静さを少しずつ奪われていくような気持ち悪さ。手枷足枷をされ、身動きを封じられた状態で、ゆっくりと首を絞められる、そんな奇妙さ。

綺麗な声音には相応しくないレゾミナントの言葉が、更に一段と気持ち悪さを仕立てあげる。


「そんなことは、どうでもよくないだろう?何、この領地での出来事なら何でも知っている。それだけだよ。

君が言葉や態度とは反対に、無償の優しさで報いようとしている、そんなことも知っているよ?優しさに飢えているのかな?」

「んっ、おまっ!!」

レゾミナントの言葉に遂には飛びかかってしまうキャロライン。

胸ぐらを掴み、自身より20センチは高いであろうその体を見上げる。

「なっ……?」

そして胸ぐらを掴んでから、ハッとした。


「うん、そうだね。掴めてしまうんだよ。

ーー制限はないからね。でもね、君がぼくに何をしようが。それこそ殺そうが、ぼくには効かない。時間を無駄に使うだけだよ?」

「……お前、本当に、何なんだよっ!!気持ち悪いっ!!」

感情を顕にしながら手を離し、キャロラインは距離を取り直す。

自分の感情と向き合い、冷静さを取り戻すため。レゾミナントの言葉を否定するため、飢えてなどいないと証明するために。


「旦那様。さすがに興がすぎますよ。見ていられません」

その言葉とともに、レゾミナントが何度か視線を送っていた先から1人の男が現れた。

燕尾服を纏い、背筋を綺麗に伸ばした男性。灰色の髪を綺麗に整えている。その皺や埃ひとつない服装、整えられた髪型や丁寧な振る舞いから、几帳面さが滲み出ているようだ。


「うん。そうだね。わざとだとしても、さすがに行き過ぎたかな。悪かったね、キャロライン。試すようなことをしてしまった」

燕尾服の男に咎められたレゾミナントがキャロラインに頭を下げる。

その行動にキャロラインは「いや、ほんと、なんなのよ、あんた」と漏らす。


「うん、そうだね。そうだよね。そう思われても仕方がないね。本当にすまない」

痛いところを突かれて恥ずかしいのか、照れているのか鼻の下をさするレゾミナント。その姿にサーリアと燕尾服の男性がため息を零し、キャロラインはほんの僅か警戒を緩める。


「なに、君が思っていた以上に魔力が高くて耐性が強いものだから。いやはや、すまなかったね、本当に」

レゾミナントはそう言うと、更に詳しく説明を始めた。

「まずは最初になんだけどね、キャロライン、君も気がついていたかと思うけど、街全体に届くようこの屋敷の認識を歪ませているんだよ。普通なら認識が困難になる、っていう効果のはずなんだけどね、君のその強い魔力と警戒心と無意識に発動させているセンサー、それから隷属の腕輪、ぼくの魔法が混線、いや違うな、不具合を起こしていたみたいなんだよ。だから異様な存在感になっていたんだと思う。それからディレストも言っていたかと思うけどね、領民には守護のような、恩恵のような魔法下に入ってもらっている。今日のような犯罪は非常に珍しいことなんだよ。彼は別の土地から侵入して来ていたみたいだからね、それであんなことをしでかしたようだね。君が彼に魔法を使えたのは、さっきの不具合のせいなんだと思う。これについては、ぼくはどうするつもりもないから、君がやりたいようにすればいいよ?悪いことはしないと、信じているからね」

そこまで言うと、サーリアに目配りをする。

「お、そうだな、もう遅いし寝る時間だよな!!ボス、フェストン、それじゃあキャロラインをあいつに任せるぞ?」

サーリアの言葉にレゾミナントは頷く。それを確認したサーリアは手を3回ほど叩く。


「うにゃー!!待ちくたびれたぞー!!」

「あー、悪い悪い。ボスがなんか遊びだしてさ」

「うにゃー!!ご主人の名前だすなんて!!ずるい!ずるいにゃ!!」

「お?どうしたキャロライン、なんでボケっとしてんだ?ほら、コイツが案内してくれるからついて行け?」

「うにゃー!!こいつ、にぶちんなのかにゃ?」

サーリアが手を叩いた後、どこからともなくすぐに姿を現した黒い猫。その猫がサーリアの肩に乗り言葉を話しだした。そんな光景に目を疑うキャロライン。猫って喋ったっけ?え?何、こいつも何かの魔法か何かなの?え?と思わず体が固まる。頭はしっかりと状況を理解しようと画策するのだが今までの常識がそれを邪魔をする。

それになんて失礼な猫なのだ?誰に向かって「にぶちん」などと言っている?急に怒りも沸き起こる。誰のせいで反応しずらいと思っているのだ、と思わずにはいられなかった。


「あー、やめとけ、やめとけ。それ以上、変なこと言うなよ、シャル」

キャロラインの拳に気がついたのだろうか、黒猫の首根っこを掴み、サーリアは釘を刺した。

「うにゃー!離すんだにゃ!分かった、分かったのにゃ!だから、離してほしいのにゃ!」

シャルと呼ばれた黒猫は四肢をバタバタと動かし、掴まれたまま暴れる。言葉を聞き終えたサーリアは「あー、ほらよ」と言うと、雑に宙へと放つ。

華麗に身を翻し、着地をしたシャル。その謎に誇らしげな表情から「ふふーん!」と聞こえて来そうだった。猫の表情がよく分かる、という不思議な感覚さえキャロラインは反応してしまう。緊張感からなのか、警戒感からなのかいつにも増して敏感なようだ。


「よし、キャロラインだったか?着いてくるにゃ。皆の部屋、大浴場、どっちも回ってお風呂にするぞー!」

くいくいと左の前足で招くような仕草をするシャル。その姿だけは奇妙という思いよりも、可愛いが勝ってしまったようで、キャロラインは素直に頷く。トコトコと歩くシャルの後を黙って追うキャロライン。


その姿を見送っていたレゾミナントだが、ああ、そうだ、と慌てて思い出したかのよう声を上げる。

「大事なことを忘れていたよ。すまないね、キャロライン。ディレストには屋敷の急の用事で呼び戻した、と伝えているからね。次に会う時に何も気にする必要はないよ?だから、今日はゆっくり眠るといいよ。ふかふかな布団で眠るなんて久しぶりだろう?」

レゾミナントの言葉をばっと振り返る。

驚いた表情を見せたキャロラインに対し、レゾミナントは優しく微笑んで返す。


「ほんとうに、気持ち悪いわね」

声は届かなかったが、口の動きでレゾミナントとフェストンには伝わった。サーリアだけが、眠くて声出なかったのか?と1人首を捻っていた。

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