37.漆黒の試練
ギィィ……
重厚な扉がゆっくりと開いた。
少女は黒炎を灯しながら、慎重に奥へと足を踏み入れる。
「……ここは?」
扉の先に広がっていたのは、漆黒の空間だった。
まるで夜の闇そのものが形を成したかのように、何も見えない。
「ここは、お前自身の黒炎と向き合う場だ」
レイヴァンの声が響く。
しかし、その姿はどこにも見えなかった。
(……自分の黒炎と向き合う?)
少女が疑問を抱いた瞬間、闇の中に炎が灯る。
“漆黒の炎”
それは、少女が今まで使ってきた黒炎とは異なる。
より純粋で、強大な”本来の黒炎”だった。
「お前がこの炎を制御できなければ、“黒炎の王”にはなれない」
レイヴァンの声が低く響く。
「さあ、試練を始めよう――」
次の瞬間、炎の中から”もう一人の自分”が現れた。
黒い衣を纏い、同じ顔を持つ少女。
しかし、その目はどこか冷たく、底知れぬ闇を湛えていた。
「……あなた、誰?」
少女が問いかけると、“影”は静かに微笑んだ。
「私? 私は”お前”だよ」
「……?」
「お前が恐れる”黒炎”そのもの――“呪い”としての力を受け入れた存在」
影の少女は手をかざす。
すると、漆黒の炎が荒れ狂い、周囲の空間が揺らぐ。
「お前はまだ迷っている。“黒炎は呪いではない”と信じながらも、心のどこかで恐れている」
「……違う!」
少女は反論するが、影は笑うだけだった。
「ならば証明してみせろ」
次の瞬間、影が黒炎を放つ。
それは圧倒的な力を持ち、少女を焼き尽くそうと襲いかかる。
(……負けるわけにはいかない!)
少女も黒炎を生み出し、迎え撃った。
ドォォン!!
黒炎同士が激しくぶつかり合う。
影の少女は驚くべき速さで動き、少女を圧倒する。
「どうした? お前の黒炎はそんなものか?」
影が冷たく囁く。
少女は息を切らしながらも、立ち上がった。
(私は……黒炎を”力”として使いたい……)
だけど、影の言葉も否定できなかった。
どこかで、“呪い”と恐れている自分がいる。
この黒炎を完全に受け入れなければ、私は――
「……なら、“呪い”ごと、私が飲み込んでやる!」
少女は覚悟を決めた。
黒炎を恐れるのではなく、“すべてを受け入れる”。
その瞬間、少女の黒炎が変化した。
今までとは違う、深く、穏やかな炎――
「……ふふ、やっと認めたね」
影の少女が微笑んだ。
「お前は”黒炎の呪い”ではなく、“黒炎の王の力”を継ぐ者だ」
黒炎がゆっくりと収束していく。
影の少女はふっと消え、少女はひとり残された。
「……終わったのか?」
黒炎の試練を乗り越えた少女は、ゆっくりと目を開ける。
そこには、レイヴァンが立っていた。
「お前の炎が変わったな」
少女は自分の手のひらを見つめる。
今までの黒炎よりも、ずっと穏やかで、それでいて強い力を感じる。
「お前は”黒炎の呪い”を乗り越えた。
これで、ようやく”王の炎”を扱う資格を得たというわけだ」
レイヴァンの言葉に、少女は静かに頷く。
(私は……“黒炎の王”の力を受け継ぐ者)
これが、彼女の”始まり”だった。
そして――
魔王を討つ戦いが、ここから本格的に始まる。