35. レイヴァンの教え
戦いの余韻がまだ城の中に残っていた。
黒炎の熱で焼け焦げた床、砕けた柱、そして静寂――
少女は荒い息を整えながら、レイヴァンを見つめる。
「……あなたが、黒炎の力を知っているなら、教えて」
レイヴァンはゆっくりと立ち上がると、黒炎を灯しながら言った。
「黒炎とは”呪い”ではなく、“王の力”だ」
「王の……力?」
レイヴァンは頷く。
「かつて、この世界には”黒炎の王”が存在した。
彼は絶対的な力を持ち、戦場を支配し、その炎で世界を護っていた」
少女は驚きに目を見開く。
(黒炎が……世界を護る力?)
今まで黒炎は呪いだと思っていた。
しかし、それが”王の力”なら――
「……なぜ、その力が”呪い”になったの?」
レイヴァンの表情がわずかに曇る。
「“魔王”が現れたからだ」
レイヴァンは語る。
かつて、黒炎の王は魔王と戦った。
その戦いは凄絶を極め、大陸全土を巻き込む激戦となった。
しかし、魔王は”呪い”を用いた。
王の力を歪め、“黒炎”そのものを”呪いの力”へと変えてしまったのだ。
結果、黒炎は忌み嫌われるものとなり、黒炎の王の名は歴史から消えた。
「……それが、今の”黒炎の呪い”の正体だ」
少女は息をのむ。
(私が使っている黒炎は、本当は”王の力”だった……?)
しかし、それを魔王が”呪い”に変えたことで、今の形になった。
「お前が持つ黒炎は、“本来の力”を取り戻す可能性を秘めている」
レイヴァンは少女をまっすぐに見つめた。
「……お前は、“黒炎の王”の末裔かもしれないな」
少女はその言葉を受け止めきれなかった。
(黒炎の王の……末裔?)
「……私が?」
「確証はない。しかし、お前が無意識に黒炎を扱えていること、そして”呪い”に飲み込まれていないこと……」
レイヴァンは腕を組んで言う。
「お前が黒炎の真の力を取り戻せば、魔王を打ち倒すことができるかもしれない」
少女の心が揺れる。
(私が……?)
今まで自分は”呪われた存在”だと思っていた。
けれど、それが”力”として正しく扱えるのなら……?
少女は拳を握る。
「……その力を、知りたい」
レイヴァンが満足げに微笑む。
「ならば、試練を受けるがいい」
「試練……?」
「黒炎の本当の力を引き出すためには、“黒炎の記憶”を辿る必要がある」
レイヴァンは城の奥へと歩き出す。
「この城の地下には、かつて”黒炎の王”が遺した”記憶の祭壇”がある。
そこに触れれば、お前は黒炎の本質を知ることになるだろう」
少女は息を飲み、レオニスと顔を見合わせる。
「……行こう」
こうして、少女は”黒炎の記憶”を求め、城の地下へと足を踏み入れる――
そこに待つものとは、一体……?