34.黒炎の戦い
黒炎の司祭――レイヴァン。
彼は少女と同じ黒炎を操る者だった。
「さあ、見せてみろ。“黒炎の継承者”よ」
レイヴァンが手を掲げると、黒炎がうねりながら膨れ上がり、漆黒の刃へと変化する。
「……っ!」
少女も黒炎を灯し、構えを取る。
レオニスが低く唸り、剣を抜いた。
「俺も――」
「貴様に用はない」
レイヴァンが軽く手を振ると、レオニスの足元から黒い鎖が現れ、彼の動きを封じる。
「なっ……!? くそっ!」
レオニスがもがくが、黒炎の鎖は強固で、びくともしない。
レイヴァンは少女だけを見つめた。
「これは、お前と私の戦いだ」
そう言うと、黒炎の刃を振りかざし、一気に距離を詰める。
――ギィィンッ!!
少女も黒炎を纏った刃を生み出し、レイヴァンの攻撃を受け止める。
炎と炎がぶつかり合い、漆黒の火花が散った。
「ほう……なかなかやるじゃないか」
レイヴァンは口元を歪め、さらに強く力を込める。
「だが、その力を本当に使いこなせているのか?」
次の瞬間、レイヴァンの黒炎がうねり、少女の黒炎を呑み込むように広がった。
「……!!」
少女の刃が弾かれ、体がふわりと宙に浮く。
(くっ……! これは……!?)
そのまま地面へと叩きつけられそうになった瞬間、少女はとっさに黒炎を爆発させ、衝撃を相殺した。
――ドォンッ!!
地面が焼け焦げ、黒い煙が立ち上る。
レイヴァンは冷静にその様子を見つめていた。
「……ふむ。どうやら、お前は”完全な黒炎の力”をまだ知らないようだな」
少女は息を整えながら立ち上がる。
(完全な黒炎の力……?)
レイヴァンは一歩前に出て、静かに語る。
「黒炎は”呪い”ではない。“王の炎”だ」
「……?」
「お前が纏っているのは、その力のほんの一部。だが、黒炎を正しく理解すれば、その真の力を引き出せる」
レイヴァンの黒炎がゆらめき、まるで意思を持つように形を変えた。
「私は知っている。“黒炎の本質”をな」
少女はレイヴァンの言葉に動揺していた。
(黒炎の本質……? 私が知らないこと……?)
黒炎は、呪いではなく、王の炎――
今まで少女は、この力を忌まわしい呪いだと思っていた。
けれど、それがもし”力”として正しく扱えるものなら?
(私は……まだ、この力を知らない?)
レイヴァンが再び黒炎の刃を構えた。
「理解する気があるなら、私を超えてみせろ」
「……!」
黒炎を”ただの呪い”として使うか、それとも”王の力”として受け入れるか――
少女は、ここで試されようとしていた。
「……わかった」
少女は目を閉じ、黒炎を集中させる。
(この炎を……私の意志で……!)
黒炎が少女の手の中で脈動する。
その瞬間、何かが変わる感覚があった――。
次の瞬間、レイヴァンが突進してきた。
少女も黒炎を纏い、迎え撃つ。
――ギィィンッ!!
炎の刃がぶつかり、火花を散らす。
少女は、今までよりも炎を自由に操れていることに気づいた。
(私……この炎を制御できる!)
レイヴァンが低く笑う。
「ほう……やっと”その力”に気づいたか」
「……まだ、完全じゃない。でも、あなたには負けない!」
少女は黒炎を凝縮し、一気に解放する。
「――黒炎・双牙!!」
両手に宿した黒炎の刃が、レイヴァンの攻撃を押し返す。
レイヴァンの表情が初めて驚きに変わった。
「……ほう」
「これで終わりよ!」
少女は渾身の力を込め、黒炎の一撃を放つ――!!
黒炎が交錯し、城内に爆風が響き渡った。
――ドォォォンッ!!
煙が立ち込める中、レイヴァンの姿がゆっくりと崩れ落ちる。
「……やるな」
膝をついたレイヴァンは、満足げに微笑んだ。
「……お前は、黒炎を”正しく使える”存在かもしれない」
少女は息を整えながら立ち尽くす。
「……私に、黒炎の全てを教えて」
レイヴァンはゆっくりと頷いた。
「……よかろう」
こうして、少女は黒炎の真実を知るため、新たな師――“黒炎の司祭”レイヴァンと共に歩むことになる。
黒炎の謎は、まだ深い。
そして、その先には、魔王の存在が確かに待ち受けている。