30. 黒炎の過去に隠された秘密
黒炎の真実を知るため、少女とレオニスは神殿の奥へと足を踏み入れた。
壁には古びた文字が刻まれ、床には崩れかけた石碑が散乱している。
長い年月の果てに、この場所はほとんど廃墟と化していたが、それでもなお、“何か”がこの地に眠っているようだった。
「……何か書かれてるな」
レオニスが壁の文字を指差す。
少女は手のひらに黒炎を灯し、その揺らめく光で文字を照らした。
――黒炎の巫女は、救済の炎を授かりし者なり。
** されど、その炎は呪いへと変わり、絶望の黒夜をもたらした――**
(やっぱり……)
少女の胸に、さっきの幻の記憶がよみがえる。
黒炎はもともと”救済の炎”だった。
だが、何かをきっかけにして、それは呪いへと変わってしまった。
その”何か”とは、一体――?
二人はさらに奥へと進む。
古びた扉を開けると、そこには広い空間が広がっていた。
中央に置かれた石台の上には、一冊の分厚い古文書が鎮座している。
まるで、“この場所を訪れる者”を待ち続けていたかのように。
「これは……?」
少女がそっと古文書を開くと、最初のページに一つの名前が書かれていた。
『エリシア・アークライト』
(この名前……)
どこかで聞いたことがある気がする。
ページをめくると、そこには黒炎の起源についての記述が残されていた。
『かつて、この地には”炎の聖女”と呼ばれる巫女がいた。
彼女は魂を導く青き炎を操り、人々を救う力を持っていた。
しかし、ある日”黒き災厄”が訪れ、彼女の炎は”呪い”へと変質してしまった』
「……黒き災厄?」
少女の指が震える。
(“黒き災厄”……それが、黒炎を呪いへと変えた原因なの?)
さらに読み進めると、そこには驚くべきことが書かれていた。
『黒き災厄の正体は、この地を支配せんとする”魔王”であった。
彼は巫女の炎を”呪いの炎”へと変え、世界に混沌をもたらした。
だが、巫女は最後の力を振り絞り、自らの魂を炎と同化させることで
黒炎を封印したという』
少女は息を呑んだ。
「……もしかして、私の中にある炎って……」
レオニスが神妙な顔で言った。
「お前の炎は、“封印された黒炎”そのもの……」
レオニスの言葉が、静寂の神殿に響いた。
少女は震える指で、古文書の続きをめくる。
『巫女エリシアは、自らの魂を炎と同化させることで黒炎を封じた。
しかし、時が満ちるとともに炎は新たな”器”を求め、巫女の血を引く者のもとへ還る。
やがて、その者は”黒炎の継承者”となり、呪いを浄化する鍵となるだろう』
少女の鼓動が速くなる。
(……私が、黒炎の継承者?)
黒炎はただの”呪い”ではなかった。
本来は”魂を導く炎”であり、その力を取り戻すことができれば――
「私が、この炎を正しい形に戻せるの?」
レオニスは腕を組み、慎重な表情で答えた。
「確かに、お前の炎は今までとは違う変化を見せている。だが、黒炎を完全に浄化できるかどうかは……」
「私が試すしかない、ってことね」
少女は静かに手のひらを見つめた。
黒と青が混ざり合う、不完全な炎。
しかし、その中には確かに”救済の光”が宿っている気がした。
ふと、神殿の奥から微かな光が漏れた。
「……何かいる?」
少女とレオニスは慎重に進み、薄暗い通路を抜ける。
そこには、一枚の鏡があった。




