22.神殿の試練
炎の回廊を進むと、広大な祭壇の間へと辿り着いた。
そこには、一本の黒き炎の柱が燃え続けていた。
その炎の前に、一人の影が立っている。
「……ようやく来たのね」
少女の足が止まる。
「あなたは……?」
影がゆっくりと振り向いた。
そこにいたのは、一人の若き巫女だった。
「わたしは、アゼリア」
「そして……あなた自身よ」
その言葉に、少女は息を呑む。
(わたし自身……?)
目の前にいるアゼリアは、過去に生きた巫女のはず。
けれど、彼女の瞳には、どこか少女と似た光が宿っていた。
レオニスが剣に手をかける。
「お前……本当にアゼリアなのか?」
アゼリアは、ただ微笑む。
「本物かどうかは、重要ではないわ」
「問題なのは――あなたが、この炎をどうするのか」
黒炎の柱が、激しく揺らめく。
その炎は、まるで少女に語りかけるようだった。
アゼリアは、少女をまっすぐ見つめた。
「あなたは、この黒炎を受け入れる覚悟がある?」
「それとも、拒む?」
少女は、炎を見つめた。
黒炎は、破壊と滅びの象徴。
だが、彼女の内に宿る黒炎は、ただの災厄ではない。
亡炎を救い、試練の門を超えた炎。
それは、アゼリアが生み出した炎とは異なるものかもしれない。
けれど――
(わたしは、どうしたい?)
アゼリアが、静かに手を差し出す。
「選びなさい」
「あなたは、炎をどうするの?」
少女は、深く息を吸い込んだ。
そして――
手を伸ばした。
黒炎の柱へと。
黒炎の柱に触れた瞬間、世界が白く染まる。
少女の意識が、どこか遠くへ引き込まれる。
――見えるのは、記憶の断片。
荒れ果てた大地。
燃え尽きた村。
そして、涙を流すアゼリアの姿。
彼女は、黒炎を抱えながらも、その力を制御できずにいた。
黒炎に焼かれながら、それでも巫女としての役割を果たそうとしていた。
(……そう、だったんだ)
黒炎は、ただの滅びではない。
アゼリアは、それを制御できなかっただけ。
ならば――
少女は、そっと目を閉じた。
「……わたしは、この炎を受け入れる」
青炎と黒炎が、少女の中で一つになる。
炎が、静かに揺らめいた。
黒炎の柱が、少女の手の中に収束する。
その瞬間、意識が現実へと引き戻された。
目の前には、微笑むアゼリアがいた。
「……あなたなら、きっと」
彼女の姿が、炎とともに消えていく。
「……ありがとう」
少女は、静かにそう呟いた。
黒炎は、もう彼女を蝕むものではない。
それは、彼女が選んだ、彼女自身の炎だった。
神殿の炎が、静かに鎮まる。
レオニスが、驚いたように少女を見つめていた。
「……お前、まさか」
少女は、微笑む。
「黒炎を、わたしのものにしたわ」
それは、かつてのアゼリアも成し遂げられなかったこと。
少女は、巫女としての力を完全に手に入れたのだった。
そして――
炎の神殿は、長き試練の役目を終えた。