21.炎の門へ
亡炎たちが消え去ったあと、谷を抜けた二人の前に、巨大な神殿が姿を現した。
「炎の神殿」――それは長い年月を経てもなお、燃え盛る炎に包まれていた。
神殿の石壁は、熱により赤黒く染まり、入り口を守るように炎の門が揺らめいている。
ただの火ではない――それは、巫女たちが試練のために生み出した“聖なる炎”だ。
「……ここが、試練の地」
少女は、手のひらに小さく青炎を灯しながらつぶやいた。
レオニスは神殿を見上げ、静かに息を吐く。
「お前……やれるか?」
少女は、燃え盛る門をじっと見つめた。
(黒炎を受け入れた私が、巫女として認められるのか)
(それとも……炎に焼かれてしまうのか)
試練の門は、その答えを示すようにゆらめいていた。
神殿の門に近づくと、炎の中から一体の影が現れた。
赤き炎を纏う番人――それは、巫女の試練を司る存在だった。
番人は、少女を見下ろし、低く問うた。
「汝、炎の巫女たる資格を持つか?」
少女は迷いなく頷く。
「……わたしは、巫女としての道を歩むために来た」
「その証を、ここで示す」
番人は、じっと彼女を見つめた。
次の瞬間――
炎の門が、激しく燃え上がる。
熱波が押し寄せ、空気が歪む。
「試練の門を超えよ」
それが、巫女の選定の第一歩だった。
少女は、一歩足を踏み出した。
門を通り抜けるには、巫女としての資質が試される。
純粋な炎の力を持つ者のみが、焼かれることなく門を超えられるのだ。
しかし――
黒炎を宿した少女は、純粋な存在とは言えなかった。
門の炎が、彼女を拒むように激しく燃え上がる。
「……!」
熱が肌を焼く。
髪が風に揺れ、青炎がかすかに揺らめいた。
(やっぱり、黒炎を持つわたしは……)
だが、少女は立ち止まらなかった。
「わたしは、前に進む」
巫女としての道を選び、黒炎を受け入れた。
ならば、ここで退くわけにはいかない。
少女は、静かに目を閉じた。
黒炎と青炎――二つの炎を、自分の中で調和させる。
力を制御するのではなく、受け入れる。
黒炎は滅びの炎ではない。
それは、全てを包み込み、新たな形へと変える力。
――燃え尽きることのない炎。
次の瞬間、少女の身体を包む炎が変化した。
青と黒が混ざり合い、揺らめく新たな炎が生まれる。
「……!」
門の炎が、少女を包み込む。
しかし、それは彼女を焼くものではなく、導く炎へと変わっていった。
そして――
少女は、炎の門を超えた。
門を超えると、そこには広大な炎の回廊が広がっていた。
壁には、歴代の巫女たちが刻まれた壁画が並ぶ。
その中には、かつての巫女・アゼリアの姿もあった。
少女は、壁画を見上げながら歩く。
(アゼリアも、ここを超えたんだ……)
その道の果てに何があるのか。
それを確かめるため、少女はさらに奥へと進む。
その背後で、炎の門が静かに閉じた。
試練は、まだ続く――。




