16.燃え盛る炎
黒い炎が、夜の闇に溶け込むように揺らめいた。
湖のほとりに立つアゼリアの瞳は、赤く鋭く輝き、少女を射抜くように見つめている。
(わたしと正反対の存在……それが、影の巫女)
心臓が高鳴る。
レオニスが静かに剣を構えた。
「奴の炎は、影そのものだ。触れれば、生命を蝕まれるぞ」
「……わかってる」
少女は炎の剣を握りしめる。
アゼリアが微笑んだ。
「……なら、試してみましょう」
彼女の指先が動く。
次の瞬間、黒炎の渦が猛然と襲いかかってきた。
ゴオオオオッ!!
少女はとっさに飛び退る。
熱はないはずなのに、肌が焼かれるような感覚が走る。
(影の炎は、直接“魂”を蝕む……!)
「逃げないで」
アゼリアが指を振るうたび、炎がうねり、少女を取り囲むように襲いかかる。
「あなたは、私に抗えない」
影の炎は、普通の火とは違う。
水では消せず、風では散らせない。
少女は歯を食いしばる。
「……抗えないなんて、誰が決めたの?」
燃え盛る剣を振るい、炎の波を斬り裂いた。
バシュッ!
黒炎が弾け、地面に消える。
アゼリアの表情が、わずかに揺らいだ。
「――へえ」
レオニスが横から鋭く斬りかかるが、彼の剣はアゼリアに届く前に黒炎によって弾かれた。
「チッ……」
レオニスが後方に下がる。
少女は息を整え、改めてアゼリアを見据えた。
「……わたしは、もう力に呑まれたりしない」
「だから、あなたにも呑まれたりしない!」
彼女の炎が、青く輝き始める。
青炎――それは、破壊の炎が完全に制御された証。
アゼリアの瞳が細められる。
「その力……」
「まさか、制御できたというの?」
少女は、剣を強く握りしめた。
「……あなたが、わたしを試すというのなら」
「わたしは、あなたに証明する!」
炎が渦を巻き、夜空を焦がした。
レオニスが小さく息を吐く。
「……やるじゃないか」
少女はちらりと彼を見る。
「レオニス?」
彼は小さく笑った。
「少しはマシになったな」
少女は目を見開き――そして、小さく笑う。
「当然よ」
アゼリアが静かに手を掲げる。
「なら……最後の試練をあげる」
次の瞬間、黒炎が巨大な竜の形をとった。
咆哮が響き渡る。
少女は、炎の剣を握りしめる。
「わたしは、負けない」
青い炎が、大きく燃え上がる。
そして、戦いは――
運命を決める一撃へと収束していく。