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14.再会の刻

炎の森を抜けた先に、広大な湖が広がっていた。


 湖面は静かで、夜明け前の薄闇が残っている。


 その湖の中央に、一人の男が立っていた。


 ――レオニス。


 冷たい銀の髪。


 黒衣に包まれたその姿は、あの時と何一つ変わっていない。


 少女は、思わず足を止めた。


 (本当に……レオニス……)


 心臓が強く打つ。


 長い間、忘れていた記憶。


 けれど、今ははっきりとわかる。


 この人は、わたしの――


 レオニスが、ゆっくりと顔を上げた。


 「――来たか」


 低く、鋭い声。


 少女は、一歩前に出た。


 「……レオニス」


 レオニスの瞳が、わずかに細められる。


 「その呼び方をするのは、久しぶりだな」


 「記憶を取り戻したのか?」


 少女は、小さく頷いた。


 「すべてじゃない……でも、大切なことは思い出した」


 「あなたが、わたしを封じた理由も」


 レオニスは、微かに目を伏せる。


 「……そうか」


 「なら、俺がここに来た理由も、わかるな?」


 少女の胸がざわめく。


 (――やっぱり)


 レオニスの腰に、冷たい銀の剣が光っていた。


 彼は、剣を抜きながら静かに言った。


 「俺は、お前を殺すために来た」


少女は、炎の剣を握りしめる。


 「……それが、あなたの答えなの?」


 レオニスは、無表情のまま頷いた。


 「お前が“炎の巫女”として目覚めた今――お前の力は、世界を焼き尽くす脅威となる」


 「俺は、それを阻止しなければならない」


 少女の心が軋む。


 「わたしは、もう炎を制御できる」


 「暴走なんてしない!」


 レオニスの目が鋭くなる。


 「本当にそうか?」


 「お前の炎は、かつて王国すら滅ぼしかけた」


 「今は大丈夫でも、いずれまた制御を失うかもしれない」


 「なら――今のうちに、お前を消す」


 そう言って、レオニスは剣を構えた。


 次の瞬間、銀の刃が少女に向かって振り下ろされる。


金属音が響く。


 少女は、炎の剣でレオニスの刃を受け止めた。


 力がぶつかり合い、二人の間で火花が散る。


 (本気で……殺すつもりなの?)


 レオニスの剣は鋭く、容赦がない。


 彼は、本当にわたしを消そうとしている。


 少女は、必死に剣を振るった。


 炎が弾け、銀の刃を押し返す。


 「どうして……!」


 「どうして、こんなことをしなくちゃいけないの!?」


 レオニスの目が、ほんの少し揺らぐ。


 「……俺は、お前を救うために封じた」


 「だが、お前が目覚めた今――もう、封印はできない」


 「ならば、俺にできることはひとつだけだ」


 少女の胸が苦しくなる。


 「わたしは……あなたに殺されるために、目覚めたんじゃない!」


 炎の剣が、強く輝く。


 少女の中で、何かがはじけた。


 ――もっと深く、もっと奥にある炎が。


 次の瞬間、炎の刃が大きく膨れ上がり、レオニスの剣を吹き飛ばした。


 「……!」


 レオニスが、一瞬だけ驚いた顔をする。


 その隙を突き、少女は炎の剣を彼の喉元に突きつけた。


 「……わたしを殺したいなら、本気でやってよ」


 「それができないなら――わたしの話を聞いて」


 レオニスは、剣を失ったまま、少女を見つめた。


 沈黙。


 長い、長い沈黙。


 やがて、彼は小さく息をついた。


 「……お前は、変わったな」


 少女は、ゆっくりと炎の剣を下ろす。


 「変わったんじゃない……思い出したの」


 「わたしは、炎の巫女。でも、ただの破壊者じゃない」


 「この力を、戦いに使うつもりはない」


 「……だから、あなたと戦う理由なんて、ないんだよ」


 レオニスは、少女をじっと見つめた。


 「……お前が、そう言うのなら」


 彼は、剣をゆっくりと腰に戻した。


 少女は、思わず安堵の息をつく。


 (……戦わずに済んだ)


 だが、その瞬間。


 ――ゴォォォッ!!!


 突如、湖の向こうから巨大な炎の柱が立ち上った。


 レオニスが、ハッと目を向ける。


 「……くそ、間に合わなかったか」


 少女も、炎の向こうに何かを感じ取る。


 ――この気配は……!?


 レオニスが、少女の方を振り返った。


 「話は後だ。今は――奴を止める」


 少女の背筋に、冷たい予感が走る。


 (“奴”……?)


 「レオニス……いったい何が……?」


 レオニスは、真剣な顔で少女を見つめた。


 「炎の巫女を狙う者がいる」


 「そいつが目覚めた以上、もう逃げられない」


 「行くぞ――戦いの準備をしろ」

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