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13.覚醒の炎

神殿跡の中央。


 炎の剣を構えた青年が、少女を見つめていた。


 「……準備はいいか?」


 少女は、小さく息を吸い込む。


 (炎を……受け入れる)


 覚悟を決めたはずなのに、胸の奥で小さな不安がざわめく。


 ――本当に、わたしは炎を制御できるの?


 青年は、少女の迷いを見透かしたように言う。


 「お前の試練は、俺との戦いだ」


 「だが、ただの戦闘じゃない」


 「“炎の巫女”として、力を完全に引き出すことができなければ――この場で俺に殺される」


 少女の目が見開かれる。


 「……え?」


 青年の炎の剣が、大きく燃え上がる。


 「さあ、始めるぞ――!」


 次の瞬間、業火が少女を襲った。


 「――くっ!」


 少女は反射的に身を翻す。


 炎の刃が、寸前で彼女の頬をかすめた。


 (速い……!)


 青年の動きは、まるで炎そのものだった。


 形を変え、風に乗り、次の瞬間には別の場所から襲いかかる。


 (でも、逃げるだけじゃ……終わらない)


 少女は、手のひらに炎を灯した。


 (今度こそ、わたしの炎を――)


 ――その瞬間、青年が跳躍した。


 燃え盛る剣が、一直線に振り下ろされる。


 轟音。


 地面が割れ、炎が爆発した。


 少女は、とっさに腕を前に出す。


 「……っ!!」


 気づけば、少女の全身が炎に包まれていた。


 ――しかし、その炎は、以前のように暴走することはなかった。


 それは、まるで少女を守るかのように、彼女の身体を包んでいた。


青年が、炎の中の少女を見つめる。


 「……ようやく、“その姿”を見せたな」


 少女は、ゆっくりと目を開く。


 燃えるような紅の瞳。


 青かった髪が、炎に照らされ、赤みを帯びて見える。


 「……これは……」


 少女は、自分の身体にまとわりつく炎を見つめた。


 今までのように、自分を拒絶する炎ではない。


 これは、わたしの炎だ。


 少女は、そっと手を伸ばす。


 炎が、まるで意志を持っているかのように、彼女の指先に集まった。


 (わたしは……この炎を恐れる必要はない)


 少女は、炎の剣を作り出し、青年を見据えた。


 「もう逃げない……この力を、受け入れる」


 青年は、満足そうに微笑むと、剣を構え直した。


 「いいだろう。その覚悟が本物か――試させてもらう」


炎の剣と炎の剣が、ぶつかり合う。


 神殿の壁が震え、炎の衝撃波が辺りに広がる。


 少女は、一歩も引かずに剣を振るった。


 (わたしはもう、恐れない)


 (この力を、制御できる――!)


 炎の刃が、青年の剣をはじく。


 青年の目がわずかに見開かれた。


 (……なるほど)


 (これが“紅蓮の巫女”の本当の力か)


 少女は、剣を振りかぶる。


 「――終わりだよ!」


 最後の一撃が、青年の炎を打ち砕いた。


青年は、ゆっくりと膝をついた。


 「……完敗だな」


 少女は、剣を収める。


 「わたし……合格?」


 青年は、小さく笑うと頷いた。


 「お前は、真の“炎の巫女”として覚醒した」


 「もう二度と、その炎はお前を拒絶しない」


 少女は、自分の手を見つめる。


 燃える炎が、まるで静かに息づいているかのように、彼女の指先で揺らめいていた。


 (……わたしは、やっと本当の意味で、この力と向き合えたんだ)


 そして、少女は思い出す。


 「……レオニスに、会わないと」


 青年は、静かに頷いた。


 「おそらく、レオニスもお前の覚醒に気づいている」


 「次に会う時、彼は――お前と決着をつけようとするだろう」


 少女の胸が、ざわめく。


 それでも、もう迷わない。


 (今度こそ、レオニスに真実を聞く)


 (そして、わたしの運命を、自分で決める)


 少女は、炎を握りしめ、夜空を見上げた。


 レオニスとの再会が、近づいている――。

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