11.炎の試練
――炎の森の奥深く、古びた神殿跡。
少女は、守護者の青年と向かい合っていた。
「お前の炎は、まだ完全には目覚めていない」
青年は、そう言って指を鳴らす。
すると、地面が赤く輝き、円陣のような魔法陣が浮かび上がった。
「これは?」
「お前が炎を制御できるかどうか、試す場だ」
少女は、炎の揺らめきを見つめた。
「どうすればいいの?」
青年は、炎の剣を肩に担ぎながら言う。
「簡単なことだ。この結界の中で、自分の炎を自由に操れるようになれ。」
「もし暴走すれば……お前自身が燃え尽きることになる」
少女は息をのんだ。
(炎の力を……制御する……?)
それは、これまで避けてきたことだった。
でも、もう逃げることはできない。
この力を受け入れなければ、前には進めないから。
少女は、小さく息を吸い込んだ。
「……やってみる」
青年は満足そうに笑うと、指を鳴らした。
すると――
炎の魔法陣が、一気に燃え上がった!
少女の周囲を、赤い炎が渦巻く。
空気が熱を帯び、肌を焼くような感覚が広がる。
――その瞬間。
炎が少女に襲いかかった!
「っ……!」
少女は反射的に飛び退く。
けれど、炎は追ってくる。
まるで、彼女を飲み込もうとするかのように。
「これは……?」
青年の声が響く。
「お前自身の炎だ。お前の力が、本当に“意思”を持っているのなら――今ここで確かめてみろ!」
少女は、燃え上がる炎の中で、拳を握る。
(この炎は……わたしのもの?)
違う。
この炎は、わたしを拒絶している。
まるで、何かを思い出させないように。
少女は、震える手を前にかざした。
「お願い……」
「わたしを……拒絶しないで……!」
すると――
炎の中から、ひとつの影が浮かび上がった。
それは、小さな少女の姿だった。
少女は、ぼんやりとその姿を見つめる。
(……これは?)
記憶の中の“自分”だった。
その少女は、全身を炎に包まれながら、何かを叫んでいる。
でも、声は聞こえない。
――ただ、その炎の中に、一人の青年がいた。
銀色の髪。冷たい瞳。
(レオニス……?)
その瞬間、記憶が断ち切られる。
少女は、息を荒げながら目を覚ました。
「っ……!」
青年が、じっと彼女を見つめていた。
「何か見えたか?」
少女は、荒い息のまま答える。
「わたし……昔、炎に包まれていた……」
「それを止めようとしたのは……レオニス?」
青年は、目を細めた。
「やはり、お前はまだ記憶を封じられているな」
「レオニスは、お前を救おうとしたのか、それとも――」
少女は、胸の奥がざわめくのを感じた。
「……でも、もうわかった」
少女は、自分の手を見つめる。
――そこに灯る炎は、もう暴れていない。
静かに揺れている。
「この炎は、わたしのもの」
「わたしの一部なんだ」
青年は、静かに頷いた。
「そうだ。お前が炎を受け入れた時、その力はお前のものになる」
「だが、まだ終わりじゃない」
「本当の“炎の試練”は、これからだ」
少女は、息を整えながら青年を見上げた。
「教えて……わたしが、何をしなければならないのか」
青年は、満足そうに笑う。
「いいだろう。お前にすべてを教えてやる」
「炎の巫女としての運命と、レオニスが何をしたのか――そのすべてをな」
少女は、強く頷いた。
今度こそ、真実を知るために。