7. ズァーク・ライズベルク
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ライザルクの魔王城が鎮座する首都ルヴァヌリア、その郊外に位置するマーボ村にて。
村の中にたった一つある小さな病院、その一室から赤ん坊の鳴き声が響き渡った。
「んぎぃああああああああああ!!!」
産声は赤ん坊が元気であると訴えるようにとても大きく力強いものであった。
「産まれましたよ!《臍の緒は私が》!保護液を!」
「《わかりました》」
助産師は産まれた赤ん坊を取り上げ臍の緒を何らかの魔法で切断、そして傍に控えていた別の助産師が青い粘性のある保護液を即座に召喚し赤子をその中へと移動させる。保護液に包まれたその幼き体は窒息することもなく安静を保っていた。
(不思議な物質だ。空気の通り道など見当たらぬが息はこうして出来ている。それに先の一連の助産師が用いた技法、間違いなく魔法だろうな)
未だ目も自由に開けることのできぬ赤ん坊であるが、彼には意識と自我がはっきりとあった。戦時の英雄と言われた魔王バルトース・エクスタのものである。
(転生はどうやら成功したようだ。だが赤ん坊なのが原因か体の自由も魔力の操作も効かぬ)
体を自身の想像通りに動かそうとするも全く身体は命令を受け付けない。魔力に関しても力を失ってはいないものの、うんともすんとも言わない状況であった。
(とやかく言っても仕方ない、取り敢えず今の俺は赤子なのだからそれ相応に振る舞おう)
その決意と同時、彼の意識は暗闇に沈むのであった。
――――
「〜〜〜、〜〜〜」
誰かの声が聞こえる。
その声は赤ん坊の意識をふっと空へと浮かばせた。
「うわあああああ!」
赤ん坊は言葉を発することができずに、その代わりとして泣き声で己の目覚めを主張する。
「うおっ、起こしちまった。ごめんなーズァーク」
「お父さんの声が大きかったかな〜、スヤスヤだったのにごめんなさいねズァーク」
ズァークと呼ばれた赤ん坊は小さなベッドに横たわっており、そのすぐ隣の大きなベッドに母らしき人物が横になりながらこちらを見ていた。名前はエレイナ・ライズベルクという。
(ズァーク・ライズベルクか。それが今の俺の名前)
胡乱な意識が覚醒し、視界に母の長い銀髪が映る。そして唐突に横から割り込む指。
父のものである。名をエリオ・ライズベルクという。
「あう〜」
それを人形のような小さい手の中に収めようと指を動かす。だが、父の指は赤ん坊の手の中に入り切る大きさではなく、ただにぎにぎしただけであった。
(多少は動かせるか……だがほんの少しで精度も全くなっていない。これはむこう一、二年は親に殆どを世話して貰わなければならぬだろうな)
転生すれば一般の赤子より早く成長するかと期待していたがそうではないらしい。
「うおおっ!見ろ!コイツ、俺の指をッ!」
「ええっ、握ったわ!何で可愛いの!」
ズァークの思考を他所に両親は彼の行動に歓喜の声をあげる。
(それにしても俺が産まれた際に使われた魔法、あれは一体……それ……に……魔…法は……一般……に……)
当たり前だが、赤ん坊に思考する体力などそうあるわけもなく、またしても彼の意識は強制的に闇に落ちていったのであった。
「さっきので疲れちゃったみたいね」
「ああ。それにしても無事に産まれてきてくれてありがとう、ズァーク。いい寝顔だぞ」
息子の寝顔を目に焼き付けながら、親となった夫婦は笑顔を浮かべた。
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