4. 魔王、空へ
「届きませんでしたね、今の俺じゃ……」
アルバートが悔しさから歯噛みする。
「まだまだ合格はやれんな。だが一つ確信したことがある」
その言葉を聞きながら弟子は拳を収める。
「お前を弟子に取ったことは間違いじゃなかったということだ。先の一撃はお前にある無限の可能性を表したと感じるほど見事だった。俺の位置ずらしの魔法にも気づいた、やはりいい眼をしている」
師匠からの誉め言葉。
普段、バルトースは弟子を褒めることは殆どない。彼の方針は褒めて伸ばすより厳しめに接するタイプだからだ。
故にアルバートにとっては滅多に無い師からの誉め言葉というわけで。
「うおおおおおおおおおん、師匠ぉおおおおおおおおおお~~~!!!!!位置っ……に関し……てはっ……あの炎の……鎖……それ自体が魔法陣でっ……えいっ、しょうが二重だったってわかったからでっ……」
普通、魔法を発動するには詠唱が必要であり、いくら詠唱を短縮しようと完全に詠唱破棄とはいかない。だがバルトースはその圧倒的技術を以て一つの詠唱で二つの魔法を発動させたのであった。故にそれに気づいた弟子に素直な賛美を送った。
弟子は今日一番の大号泣をかました。涙が頬をとめどなく流れ、床をどんどん濡らしていく。
「その泣き虫はいずれ鳴りを潜めてほしいとは思うが」
相も変わらない弟子の号泣に苦言を呈しながら、きらきらと青い光を発して静かに鎮座している魔法陣に歩み寄っていく。
「さて。待たせたなヨイドーラ」
その言葉には答えず、ヨイドーラは言葉を紡いだ。その声色はいつもよりどこか優しく聞こえた。
「じゃあ玉座に座っていつもの格好でリラックスしていろ。転生には対象の精神面も影響する可能性があるからな」
バルトースが玉座に座ると同時、ヨイドーラの腕が縦横無尽に動き、魔法陣が玉座の真上に移動する。青の光がバルトースを神々しく照らして見せた。
「それじゃあな、達者で生きろよ」
別れの言葉をトリガーに魔法陣が元魔王の体を包み、足先より光の粒子となって消えていく。ゆっくりと死がバルトースを迎えているのだ。
これで最後とバルトースは言葉も出さず、この場にいる配下全員の顔を目に焼き付けるように見回している。涙を流しているもの、目を向けてくるもの、跪いているもの。とっている行動は人それぞれで、場にいる人数各々の数があった。
足の感覚がなくなった。
「師匠、俺、もっと強くなって……いずれ貴方を超える魔族に……」
アルバートが宣言をする同じタイミングで胸辺りまで消失が進んだ。
「俺もだ。名君といわれる魔王になってやる。お前に、住みやすい世界を享受させてやる、楽しみにしていろよ」
ヨイドーラの高らかな宣言を聞いたところで首以下が消え去った。
「お前達、期待しているぞ」
最後にその言葉を残して、戦時の英雄魔王バルトース・エクスタは青い魔法陣とともに消えていった。
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