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魔王、未来へ跳ぶ 〜魔王と魔法について〜  作者: キャベ太郎
一章 魔王転生
3/9

3. 魔王対弟子

 ギギギ、と重苦しい金属音を放ちながら玉座の間の扉が開かれる。


 中心には金の装飾や高級素材を使った真紅の肘置き、ミスリルのフレームにかたどられた玉座が設置され、扉から玉座への通り道を作るように魔王軍の幹部、側近らが整列していた。


 彼らは魔王が通ると同時、ぴっしりとした背筋を更に正し魔王の進行方向へと向き直っていく。


 彼の玉座着席と共に配下の顔が全員バルトースへ向き、両端にヨイドーラとアルバートが立った。


「待たせたな、我が配下よ」


 バルトースの言葉に配下全員は即座に跪き、続く言葉を待つ。その動きは一糸乱れぬもので一秒の遅れも見受けられなかった。


「お前たちには事前に伝えていたことだが俺は転生する。転生時期としては二万年は後になる、お前たちとももはや別れになるだろう。これからの魔王の地位と業務はヨイドーラに譲る。彼を支え、協力して治世に励め。お前たちの作る世を俺は楽しみにしている」


「「「はっ!」」」


 その言葉に誰も動揺を示すことはなく、忠誠の返事でもって答えた。その声は広々とした玉座の間をびりびりと揺らした。


「良い返事だ、これなら安心して任せられる。ヨイドーラ、こちらへ」


「はっ」


 公の場であるからなのか、かしこまった口調でヨイドーラは招聘に応じた。


「ライザルクの魔王、バルトース・エクスタはここに宣言する。魔王の地位をヨイドーラ・モルヴィーへと譲渡しすべての権限を彼の者とする」


「拝命、謹んでお受けいたします。先代の名に恥じぬよう邁進する所存」


 バルトースは手に魔王の証である【魔王の魂紋】を浮かび上がらせ、ヨイドーラに向けて翳す。


 魂紋は黒の魔力が∞の形を成したものだった。


【魔王の魂紋】は音も立てずすーっとヨイドーラの方へ移動して行く。


 ずずず……と額から体内へと入って行った。それと同時、一瞬ヨイドーラの紅い眼が漆黒に染まり、紫電とともに魔力が微量に溢れた。


 これにてヨイドーラの魂に魔王の証が刻み込まれた。これにより正式に魔王がヨイドーラとなったのである。


「これで俺のすべきことは全て終わった。ヨイドーラ、【輪廻転生(リ・ヴァイヴ)】の魔法陣を。では皆、後は頼むぞ」


「はっ、バルトース様の期待にお応えできるよう素晴らしい世を作り上げて見せましょう」


 転生魔法陣が玉座の前に顕現していく中、幹部のリーダーが一歩前へ出て力強く答える。


「バルトース、心残りはねえか?こちらはそろそろ準備完了だ」


 大きな魔法陣が顕現した後、ばちばちと稲妻が周囲を迸り、さらに小さな魔法陣が四つ出現する。それらは左右対称にぴったりと大魔法陣に接し、それぞれが独立して回転し始めた。


「《其の魂は円環へ向かう・されど循環は無く・摂理を越えて顕現する・天よ・地よ・再臨に震え待て》」


 ヨイドーラの詠唱と共にさらに魔法陣の回転は激しくなり、魔法線が出現した。魔法線は大魔法陣に付随する四つの魔法陣の外周を円形に包みはじめた。


「思えば戦い続きの人生だった」


 バルトースが思わずつぶやいた言葉。それを己が発したものだと認識すると同時、今までの記憶が走馬灯のようにずらーっと頭に流れてくる。


 初陣にて家にあった剣を振るい敵の将を追い詰めたこと、魔王軍でヨイドーラと切磋琢磨したこと、魔王の座を懸けた決闘、魔王になってから大陸統一の為に各地へ奔走したこと。


 彼の大体の記憶は戦いに塗れていた。戦いしか知らなかった。そんな彼を魔王として周りの魔族は着いてきてくれた。力が正義の時代、バルトースほど魔王に適任だったものはいなかった。運が良かった。時代と才能が合っていた。


 そんな彼は全てを捨て、新たな時代の世界に飛び込む。


(不安はある。だがどこまで技術の進歩が起きているか……とても楽しみだ)


 想像もできない未来を夢想し、笑みが溢れた瞬間、大きな声が魔法陣駆動音を掻き消して響き渡った。


「師匠ッ!!!!」


 今まで玉座の隣で静観していたアルバートが一歩踏み出し、バルトースの方を向いた。


「最後にお願いがあります」


「なんだ」


 アルバートはバルトースの方へ歩を進めながら魔力を高めていく。それは魔力のオーラとして顕現こそしなかったが、周囲から見ても圧を感じさせるには十分なものであった。


「手合わせを、最後の稽古をお願いします」


 弟子の最後の願い。


 バルトースが転生するのは転生するのは二万年後、もう会うことはできない。最後に自分の力を示して別れの挨拶としたい、そんな弟子の気持ちが伝わってきた。


「いいだろう、この魔法陣が完成するまでに俺に一撃を入れてみよ。合格をくれてやる」


 バルトースが条件を示すと、眼下に整列していた配下たちが部屋の隅に残像を残すかのごとき速さで移動した。


 それにより向かい合う両者。


 アルバート、バルトースの両者から黒いオーラが立ち上り、玉座の間全体に魔力を満たしていく。


「準備はいいか」


「はい、いきますッ!」


 先に動くはアルバート。魔力を足に集中させ、地が割れるくらいの膂力にて師匠へ肉薄する。直線限定ではあるが、その速さはバルトースの眼でも完璧にとらえることはできなかった。


「ふっ」


 刹那振るわれる右拳。


 膨大な魔力を纏った黒いそれをバルトースは体をひねり最小限の動きで躱す。


 標的を見失った暴力的な力の渦が拳圧となって、背後の壁に激突し、耳を劈く破壊音を響かせる。


「まだぁっ!」


 すぐさま右腕をバルトースのもとへと振り上げる。

 が、それよりも速く魔王の破壊を纏う拳が脇腹を襲う。


 途端、アルバートの視界がぶれる。


 アルバートの体は風を切る音とともに玉座上空へと舞っていた。


「ちぃっ」


 即座に体勢を戻し、師匠を視界にとらえようと探るもそこにはただ床のタイルが映るだけで。


「ぐぁっ!」


 突如背中より強い衝撃が走り、空にいたアルバートの体が地面へと方向を変えた。


 殴り飛ばされた弟子の体よりも速く進行方向上へ先回りし、組んだ両手を振り下ろしたのである。


 続けてバルトースは同様に弟子を追い越して。


「くらってみろ」


 地に着地すると同時、バルトースはアルバートの落下地点に拳を突き出し、タイミングよく胴体にジャストヒット。下方向のベクトルと横方向のベクトルが混ざり合い、地面に大きくバウンドして玉座の壁にアルバートの体はどごおおんと土煙をあげてめり込んだ。


「《~~~・~~》」


 土煙の中から詠唱の音が聞こえ、その声を認識すると同時に黒き火炎弾が煙を弾き飛ばしてバルトースへと放たれる。


「《大焦熱の砲弾よ》」


 同じ魔法【獄魔焦炎砲(ロス・ボロス)】にて黒陽を相殺する。ふたつの太陽は一瞬拮抗を演じていたが、バルトースの砲弾がアルバートのものを飲み込んでいき、膨張、爆発。


 爆風と熱が辺り一面に逃げ惑い、バルトースの髪を揺らす。


 がち、がち、ばり、ばり、と音が魔法陣の進捗を示す中、四方から声が響きだしていた。


「《全ての胎動は止まる・……」


 見れば先ほどの壁にはアルバートの姿はなく、代わりに壁をけり続ける音が反響する。


 超速移動。


 初手にて披露したあの速度を、壁をけり続けることで維持しつつ縦横無尽に室内を駆け巡っているのだ。加えて壁を蹴るごとに速度は少しずつ増していき、頑丈に作られている壁が着地するたびに削れていく。


「速いな、今の眼では完全には追いきれぬ」


 速さに感嘆しながら、一つの魔法陣を構築する。


「《大焦熱の炎鎖よ・その鎖にて捕らえよ》」


獄魔焦炎砲(ロス・ボロス)】の詠唱を応用し、黒陽の炎鎖がバルトースの全方位に張り巡らされる。この鎖に触れれば、死にも見紛うほどの炎が接触者を襲う。


 だが。


「静止の腕に抱かれて・……」


 止まらない。アルバートの体はさらに加速、加速、超加速。


 異常な速度故、獄炎の鎖もその効力を果たすこともなくぶち、ぶちとテープのようにあっさりと切れていく。


「盛り上がるのは結構だけどな、魔法陣壊すなよ」


 ヨイドーラが魔法陣を維持しながら一応の注意喚起をして。


「魔法陣どころかこの部屋くらいは持って行っても構わぬぞ」


 バルトースが冗談を口に出しながら黒のオーラを再展開して。


 その目が蒼から赤に変化した。


 同時に超速移動中のアルバートの姿が捕らえられるようになった。


「眠れ》」


 アルバートは詠唱を終え、最後の力を足へ込め、最終加速にて師のもとへ突っ込んだ。彼の魔法が完成し、すべての原子運動を否定するかの如き吹雪が魔法陣より放たれる。


 はずであった。


 その出現した魔法陣はしかし何の効力も発揮しないまま粉々に砕け散っていった。


 バルトースの魔眼、《散滅の瞳》の効力がその魔法陣を破壊したのだ。


 だが、それと全く同じタイミングでアルバートの右手に途轍もない巨大な魔力が形成され、すぐさま拳が覆われる。


 破壊されることはすでに想定内だった。


「おおおおおおおおおおっ!!」


 音速にも迫らんとする規格外の速度を乗せた拳が、バルトースの少し左に炸裂した。その力は部屋の壁どころか、その直線上のすべての壁を粉々に破壊して。


 この日、魔王城にどでかい穴が開いた。


「すさまじい威力、想像以上だ。だが」


 外したと誰もが思った先の一撃であるが、なんと先ほどまで立っていた魔王の姿が消え、彼は振るわれた拳を、黒い破壊のオーラを幾重にも重ねた壁にして受け止めていたのである。故にバルトースは無傷。


「不合格だ」


 不合格通知と同時、キイイインと甲高い音が響く。


 魔法陣が完成した。

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最期の試験なのだから合格にするべきでは? そもそも師匠ということを言ったのだから 何かここを変えるべきだや新しい魔法を教えるだったり、ちゃんと弟子が憧れた師匠のかっこいい面を見せるべきなのではと想いま…
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