奇妙な朝
朝、まどろみの中で目を覚ました。部屋は薄暗く、カーテンの隙間から朝日が細く差し込んでいる。隣には、いつも通り夫が寝ている——はずだった。
しかし、そこに夫の姿はなかった。
代わりに、小さな赤ちゃんが布団の上で手足をバタバタさせていた。
「……え?」
寝ぼけているのかと思い、目をこすりながら辺りを見回す。でも、やはり夫はいない。代わりに、1歳の娘、桜とは別の、見知らぬ赤ちゃんがいる。
「……ちょっと待って」
心臓がドクンと脈打つ。夫は昨夜、確かに隣で寝ていた。深夜にふと目を覚ましたとき、彼の寝息を聞いたのを覚えている。それなのに、朝起きたら姿が消え、代わりに赤ちゃんがいる——?
悪い夢でも見ているのかもしれない。そう思いながら頬をつねる。痛い。夢ではない。
赤ちゃんがふにゃっと小さく泣いた。
「え、ええと……誰?」
桜はベビーベッドでまだ眠っている。この子は誰? どこから来たの? 夫はどこ? 頭の中で疑問がぐるぐる回る。
パニックになりながらも、とりあえず赤ちゃんを抱き上げる。しっかりとした温もりがある。柔らかく、少し湿ったほっぺたが頬に触れる。間違いなく、本物の赤ちゃんだ。
「ええと……落ち着いて、落ち着いて……」
深呼吸をして、もう一度赤ちゃんの顔をじっくり見る。その瞬間、血の気が引いた。
この子、どこかで見覚えがある——。
まん丸の目、少しつり上がった眉、ぷっくりした唇。
「……まさか」
夫に、似ている。
心臓が跳ねる。そんなはずはない。そんなはずは——。
震える手でスマホを掴み、夫に電話をかける。コール音が鳴る。しかし、部屋の片隅から聞き慣れたバイブ音が響いた。
「え……?」
見ると、夫のスマホが枕元に置かれている。つまり、彼はスマホを持たずに出かけたのか? それとも——。
理解が追いつかない。これは何かの冗談? それとも、何かの事件?
そのとき、赤ちゃんがふと、私をじっと見つめた。
その目には、戸惑いの色が浮かんでいるように見えた。まるで、「どうしてこんなことになったんだ……?」と言いたげな、大人びた目で——。