入場
王城を出て、想像よりずっと快適な馬車に揺られること十分。
あまりに早く辿り着いた会場に首を捻っていると、王族が城の近くに所有している庭園なのだと伝えられた。城にも庭園はもちろん存在しておりそちらに移動したのかと納得しかけたが、ここはまた別のものらしい。庭園というより自分が知っている自然公園に近い広すぎる土地と、整えられた芝生。流石王族だ。
王弟が開催するパーティは度々ここが会場となるようで、ルーシュは慣れた様子で整備された道を歩いていく。俺も丁寧に手をとられ後ろを着いていくと、綺麗に整えられた木に囲まれたパーティー会場が見えた。
「すごいな」
「そう?」
庭園の広さに比べるとパーティー会場はきっと大した大きさではないのだろう。だが、屋外にも関わらず多数の煌びやかな机や椅子等が持ち込まれ、咲いている花はどれも綺麗に整っている。それに入口まで来た為、既に到着している着飾った招待客の姿も見えた。
そのどれもが元の世界では体験したことがないもので圧倒される。
「王城で行われるパーティーに参加したら、きっともっとびっくりするよ」
「びっくりどころじゃない。あわ吹いて倒れるかも」
「ふふ、その時は僕がちゃんと支えるよ」
参加人数も装飾も何もかも桁違いなのだろう。目を回す自分の姿を想像して笑うと、ルーシュもおかしそうに笑った。優しそうな心からの笑み。そう俺には見えた。
「まあ、大丈夫だよ。きっと俺が参加することはないだろうから」
きっと参加できたとしても開催者に雇われのポジションだろうなと続けて笑うと、楽しそうだったルーシュの顔が複雑なものへと変わっていく。楽しく『もしも』の話をしていたのに、空気が読めなかっただろうか。仮面夫婦を茶化すような物言いをしてもそろそろよいかと思ったが、全然よくなかったらしい。
「……あの、今日のパーティーはさ、僕が婚約者を連れていくって事を知っている人ばっかりなんだ」
「そっか」
「だから、その、アキさんのことをみんなに婚約者だって紹介する必要があって……」
どこか苦しそうなルーシュは言いづらそうにそう告げる。もしかして今朝のメリーみたいに俺が下手を打たないか心配なのだろうか。もしくは、婚約解消する相手のことを婚約者だと、仲が良い人たちに嘘つくことが心苦しいのか。どちらにしろこんな若者に重責を一人で背負わせていいはずがない。ここは自分が上手く立ち回らないと。
「大丈夫! 俺もルーシュの横で婚約者ですってもちろん言うよ」
「アキさん」
「ルーシュが言葉詰まったりしたら俺がフォローするからさ! ここの世界の知識はあんまりないけど、これでも十も年上なんだぜ。それなりに上手くやるって」
「そう、ですか」
ほっとしたようにまた口元に笑みを浮かべたルーシュを見て安心する。そうだよな、一人で嘘を吐き続けるのってキツくてしんどいよな。俺もよく分かるよ。安心した表情のルーシュの背をポンポンと叩いて、前に向き直る。
いつまでもこんなところで駄弁っている場合ではない。入場するため、教えてもらった通りにルーシュの腕に自分の腕をまわしてくっついた。
「ルーシュが俺の隣にいるの疲れちゃったら後ろに隠れててもいいからな」
「……僕、は、あなたの隣に疲れたことなんて、一度もないよ」
「そう?」
「……うん」
ピッタリとくっついたつもりだったが、ルーシュから更に引き寄せられる。歩きにくいのではないかと思うくらい、一ミリの隙間も俺達の間にはなくなった。
それでも、ルーシュが一歩前に歩き出すから、俺も足を前に出す。思っていたよりずっと簡単に歩き出せた。綺麗に整えられた芝生を踏み締めて緩いカーブを曲がると、いよいよ真正面にひらけた会場が現れる。
薔薇を加工し作られたゲートを二人で潜ると、好きに歓談していた参加者達の視線が俺たちに向けられた。既にほぼ全員会場に辿り着いていたのだろう。一旦、話を中止した面々から一斉に降り注ぐ興味。その興味はまず目を引く美しいルーシュに行って、そして次は真横に向けられる。
三十人余りの視線。俺を見つめる綺麗に着飾った綺麗な人たち。
その瞬間、先ほどまでルーシュにかけた言葉はなんだったのかと思うくらい、俺の気持ちは一気に潰れて体が硬直してしまった。




