パーティーに行こう
共にご飯を食べ、仕事をし、そして夜は別々で寝る。たまに、ルーシュに街への手配の進捗を聞いては、執務の合間にこっそり準備しているためまだ進んでいないと申し訳なさそうに返される。その反応を見て、この生活がまだしばらく続くことを悟った。
そうして過ごしていると、あっという間にパーティーの日がやってくる。
「よくお似合いですアキ様!」
「はは、いやあ、どうも」
丁寧にセットされた髪と薄ら施された化粧の最終確認をして、メイドのメリーは満面の笑みで褒める。
この日の為に仕立てられた服も身に纏った俺は、馬子にも衣装、鬼瓦にも化粧、とにかくそれなりに見られる姿となった。何より横でご機嫌に褒めてくれるメリーの腕が良かった。
メリーは自分付きの侍女となる予定の女性だった。元々この城で働いている侍女の中から、勤務素行が良い者を異世界からやってくる人間の側仕えにと考えていたようであった。
だが、対象の俺はそこまで世話を焼かれることに慣れていない。そもそも一人暮らし歴も長くなった三十代独身だ。四六時中人の気配を感じることの方がストレスを感じるため、このようなイベントの時のみ手伝ってくれる形にして欲しいとお願いしたのだ。
それなりに張り切っていたらしいメリーは、俺のお願いに肩透かしを食らったようで多少小言を言われた。それを躱して説得するのが、この世界に来て一番大変なことだったかもしれない。
俺にはもったいない賛辞の言葉に照れていると、扉が開かれて眩いくらい着飾った王子様が現れる。
「アキさん! ああ……! やっぱり素敵だ。とても似合っている」
「ルーシュ」
「やっぱり青が似合うと思ったけど、想像以上だ。いつもの姿ももちろん素敵だけど、こうやって着飾った姿も煌びやかで魅力的だね」
「ル、ルーシュ」
「笑われるとみんな好きになっちゃうな」
「ええ。ですが殿下がアキ様のすぐ傍にいらっしゃるのであればそのようなご心配は不要かと。アキ様と殿下がどれだけお似合いか見ればそんな不埒な考えも浮かびませんわ」
誰かこの二人を止めてくれ。
パッと顔を輝かせたかと思えば、俺の周りをうろうろと歩き回りだすルーシュ。部屋の中に入ってきてからとめどなく褒め言葉を投げるルーシュと、それに便乗してきゃっきゃとはしゃぐメリー。控えめに名前を呼ぶが何の意味もないようで、彼の口は止まらない。
どう考えても過言だ。マシにはなったとはいえ、ルーシュの隣に立って『お似合い』と言われるほどの見目はしていない。
それくらいルーシュの着飾った姿は圧倒的だった。堅苦しいパーティーではないとは聞いていたため、恐らくカジュアルな装いにセットなのだろう。それでいても大多数の男女ともの最上級に着飾った姿に勝ってしまうに違いない。
「ルーシュも綺麗でかっこいいね」
「え」
「きっと会場中の誰より眩しいんだろうなあ」
メリーはもちろん、俺とルーシュの現在の状態を知らない。これまで通りの姿を心がけようと、心が感じた通りに目の前の綺麗な男に声をかける。
会場に着いた瞬間、きっとみんなルーシュに目を奪われてしまう。綺麗で美しいひと。
「……」
「ルーシュ?」
さっきまでペラペラと饒舌に話していたのにカチンと固まってしまった。後ろからメリーの『まあ!』と言った浮足立った声が聞こえる。
「ごめん、なんか変なこと言った? 思ったことそのまま言っただけなんだけど、不快にさせてたら悪い」
「まあまあ!」
「ちっ……! 違います!」
慌てて否定したと思ったら、ルーシュの晒されている首元からじわじわと赤が広がっていく。数秒もしないうちに顔まですっかり真っ赤になってしまって、困ったように口元を手で覆う。
おかしい。これまでのルージュであればあれくらいの褒めも王子様スマイルで受け止めていたのに。そもそもこの美貌だ。二十四時間三百六十五日人から褒められる生活を送っているような男だ。それがたった二言でこんな状態になるなんて。
もしかして俺の発言が起因ではなく、なにか体調に異変が起こっている可能性もある。
「待て。体調悪いのか?」
「アッ」
口元を覆っていた手を掴んで、顔から引き剥がす。もう片方の手をルーシュの全開になっている額にそっとあてると、僅かに熱い気がする。自分の額とルーシュの額で手を行ったり来たりして首を捻っていると、気の抜けた声で呼ばれる。
「違うんです、その、う、嬉しくて……」
「え?」
「アキさんから褒めてもらえたことが……、格好良いって言ってもらえたことが本当に嬉しくて、その、舞い上がってしまって、あの……」
カカカと更に赤みが増す頬と、上がりっぱなしの綺麗な口角。ふにゃふにゃと表情を崩すルーシュとは逆に固まる俺。そして後ろから堪えきれない笑いを零すメリー。
「あ、まり見ないでもらえると助かり、ます」
「悪い!!」
ひどく恥ずかしそうに言われて、まるで俺が彼を辱めるようなことをしてしまった気分になり両手をあげて離れる。目に毒すぎる。耐性のない人間がこの場にいたら男女構わず倒れていただろう。
「うふふふ。仲睦まじくて喜ばしいことですわ。本当に愛の国に相応しいお二人で、そんなお二人に仕えられる私はなんて幸せなんでしょう」
堪えきれなくなったのなメリーが嬉しそうに口を挟む。
『愛の国に相応しいお二人』と言われた言葉に点と点が繋がる。
そうか、この場にはメリーもいる。俺達が仲睦まじくしている様子を見せる必要があるだろう。もしかすると俺の態度が不自然で、ルーシュはフォローしようと大袈裟な反応をしてくれたのかもしれない。
気を使わせてしまって悪いことしたなと申し訳なく思う。なかなか赤みの引かないルーシュを横でちらちらと見ながら、会場へ向かうため俺達は王城を出発した。




