パーティに行かない?
あまりにすとんと表情が抜け落ちたものだから、びっくりして黙ってしまう。どう言葉を続けようとしていたか頭から抜け落ちてしまって、二の句が継げなくなっていると、ルーシュの顔がくしゃりと歪んだ。
眉間に皺が寄って、唇を噛んで、真横を向いて、たっぷり三秒。
「今回のは、その、気軽なものとはいえ……。婚約者や友達と二人で参加しなきゃいけないもので、欠席は、あの、こまる……」
絞り出すような声で、提案が却下された。
そう、今回ルーシュが招待されたパーティーはパートナーと共に参加するタイプのものだった。気心知れた王弟、ルーシュからすると叔父さんのほぼ趣味に近い催しらしい。派手で楽しいことが大好きな王様の弟は、定期的に気が置けないひとたちとこういった類いの催しを主催していると聞いた。
今回は可愛い甥っ子から『恋人ができた』と聞いたものだから、じゃあ連れて来やすいようにパートナー必須にしようと決めたようだ。
「パートナーって誰でもいいんだったよな」
「う、うん……」
「じゃあ大丈夫だろ」
甥っ子であるルーシュ以外の参加者には独り身も多いため、友達でも兄弟でも親戚でもパートナーはOKらしい。
厳密に言えばルールとして守られるべきは、『二人で』参加すること、その一点だけだ。
「だっ……! 大丈夫じゃない! アイル、シュウはまだパーティーなんて早いし、仲の良い友人達は既にパーティーに招待されている。だからもう既にパートナーがいる状態で、代理なんて立てられな」
「あの可愛い子いるじゃん、幼馴染の」
「……え?」
だから、一緒に参加するのは俺じゃなくてもいいはず。
別れることを提案したあと、もう直近に迫っていたこのパーティを思い出した。そしてどうしたものかと悩んだ挙句、しばらく前に俺を訪ねてきてくれた子の顔が思い浮かんだ。
今、ルーシュが言ったように、既にパーティへ招待されている可能性もあったため参加者リストも確認済みである。そして、彼女が招待されていないことを把握した。
俺は知っている。彼女が俺よりずっとルーシュの隣に相応しいひとだということを。
「えっと、エルザちゃん! その子とかどうだ? 」
「……エ、エルザ……?」
「俺は今日あたりから体調不良ってことにしてさ。それで急遽親戚の女性を誘いましたって体はどうだ? 不自然さもないし、親戚の女性だったら連れていっても変な感じにはならないだろ」
彼女を思い出してからは、早くルーシュを返してあげなくてはいけないとずっと思っていた。
それに、こうやってちょっとずつ二人でいる姿を見せた方が、根回しが終わった際には一緒になりやすいだろう。
しばらくは必要に迫られる場合、もちろん俺がルーシュの隣に立つ。もう少しだけ隣に立つことを許してほしい。だがそうでない時には徐々に表から消えようと、そう考えていた。
「……ルーシュとエルザちゃん、お似合いだと思うんだよな」
綺麗で優しいひとの横には同じく綺麗で優しい、そんなお似合いのひとが立っているべきだ。こんなおじさんはさっさと表舞台から消えた方がいい。そう思ってぽつりと言うと、突然ガタンと大きな音が聞こえて肩が跳ねる。
びっくりして音の方向に顔を向けると、勢いよく立ち上がったルーシュが真っ青な顔して立っていた。
「……アキさんは、もう、いやですか……?」
「えっ」
「ぼくと、人前に出ることも……、もういやですか。もう、隣にいたくないですか」
「エ⁉︎ い、いやいやいや! 嫌とかそういうわけじゃなくて」
今にも泣いてしまいそうな声のルーシュに、慌てて首を左右に振りNOを伝える。決してルーシュと一緒に外へ出ることが嫌だというわけではない。今となれば不釣り合いだなあとは思うものの、俺が隣に立ってルーシュが嫌だと思うことは有り得るが、ルーシュが隣に立って俺が嫌だとなることはないだろう。隣に立つ上で最高ランクの男だ、ルーシュは。
「それだったら、一緒に行ってください」
「う、うーん……?」
「僕は、アキさんと一緒にいきたいです。スーツも新調して、アキさんに似合うものを選んだんです。もちろんそれと揃いの自分のスーツも用意しました。アキさんが好きな食べ物もたくさん用意してもらうように言いました。アキさんと……、アキさんと一緒にパーティーへいきたいです」
「そ……、そっか」
捲し立てるように言われて頷くことしかできない。まあ、スーツを用意してしまったのであれば無駄にするのも悪いか。こくりと俺が頷いたのを見て、後付けのようにそもそも女性は二週間前に誘っても準備等のため捕まらないと言い更に逃げ道を塞がれる。
急に断ろうとしたことを一応詫びると、幾分かマシになった表情でルーシュは椅子に座った。
「……」
「……」
お互いに無言で仕事に戻る。なんとも言えない空気に耐えかねて、ポリポリと頬をかきながら分厚い書類を掴んだ。今回のは直近すぎて変更も難しかったらしい。次、似たようなことがあれば余裕を持って提案してみよう。
(にしても……)
一緒に行きたいと言ったルーシュの声が、縋るように必死なものだったからつい頷いてしまった。そんなに俺について必死にならなくてもいいのに。体裁が気になるのだろうか。それとも俺が断ることによって他方へ迷惑がかかるのを気にしたのか。
「あの……」
「ん?」
小さな声が聞こえたのでルーシュへ顔を向ける。視線が交わった先で、またまるで縋るように眉を下げているから、心臓がドキと鳴った。
「エルザはただの幼馴染で。その、兄弟みたいなものなんです。だからお互い何も思ってたりもしなければ、お似合い、とかでもなくてですね……。エルザ自身も別に僕のこと何も思ってなくて」
「……ルーシュ」
先ほどの独り言をきっちり拾われていたようで、ルーシュはつらつらと否定をする。それがあまりにも聞いていられなくて名前を呼び遮った。だって、エルザちゃんはわざわざ一人でこの城に乗り込んで、俺に直接物申しにきたのだ。それなのに、『何も思っていない』なんてあるわけないだろう。間違いなくルーシュに対して愛情があるはずだ。
「お前、鈍すぎ」
深いため息をこれ見よがしに吐いて、首を左右に振る。これじゃあエルザちゃんが報われない。
そして、すぐに書類へ視線を戻した俺は、ルーシュがなんとも言えない顔で机に突っ伏したことに気づかなかった。




