《⭐︎》ショタ王子様は困惑中
⭐︎さらっと読めるショートショートです。
物心ついた頃から、自分が異世界転生した事に気付いていた。
前世は地味な理系男子。死亡原因などは覚えて無い。
今世はなんと王子様! しかも背負う物の少ない第三王子ときたら、こりゃ勝ち組だと内心大喜びだった。見ろ、この美しい金髪に愛くるしい緑の瞳とぷにぷにのほっぺを!
それなのに……。
「婚約ちゃでちゅか?」
僕、エラリアス王子、四歳。パパに婚約者が決まった事を告げられました。
「体は子供、頭脳は大人」を実際にやってみると分かるが、この体では上手く話せない。思考も体に引きずられがちだ。今の僕は「ちょっと優秀なお子様」レベル。
そんな僕でも、四歳にして婚約するとは思わなかった。相手、まだ乳幼児じゃないの?
「相手はランドール公爵家でな」
公爵令嬢! これって将来僕が平民と恋に落ちて婚約破棄するフラグ?
「エランより三歳年上だ」
年上の女性! ちょっとトキメク。
「名はリーファ。公爵家の次男だ」
ふーん、リーファさんかぁ…………次男?
「男でちゅかあぁぁぁぁぁ?」
「にゃ、にゃんでぼくのお嫁たんが男なんでちゅか!」
「いや、エランの方がお嫁さんだ」
「ふぁぁぁーーーー?」
ここはBLの世界でしたか! いや、パパってばママと結婚してるよね。
「エランに話して無かったのか」
パパが後ろに控えてる侍従に言う。
「はっ、エラリアス殿下が優秀過ぎてついうっかり…」
うっかりじゃねーよ! 人に連立方程式解かせるより大事な事だろう?
呆然とする僕にパパが教えてくれたのは、王族や貴族は大切に育てられるために、増え過ぎたんだそうだ。
おかげでお家騒動が起きたり、財産相続で揉める事が増え、ついには洒落にならない事件まで起こったため、「第二子からは同性婚が望ましい」と推奨しているらしい。
あくまでも「推奨」で、「強制」では無いのだが、推奨している家がそれをやらない訳にはいかない……。
つまり、この縁談を断っても、僕には男しか紹介されないって事だ。泣きたい。
憎たらしいほど晴れ渡った昼下がり、お庭でリーファと顔合わせ。
異世界らしく、群青色の髪に濃い青の瞳。悔しいが、四歳児に三歳年上の男子は十分に大人だ。
「リーファ・ランドールです。よろしくエラリアス殿下」
「ふぉぉ。カッコいいでしゅ。よろしくでしゅ」
背の高いリーファを見上げてちょっとうっとりしてしまう。
「じゃあ、何をして遊びましょうか」
「ん?」
見合いだと言うのに、遊ぶだと? 僕をただの幼児と思ってか! ならば……。
「鬼ごっこをちまちょう。ぼくをちゅかまえられたらリーファの勝ちでちゅ」
ふっふっ、僕はこの迷路のような庭のモグラの穴の数まで知ってるんだぜ!
「つーかまえた」
……目線の高さの違いを考えてなかった……。
リーファに抱き上げられて、ちたぱたと抗う。矜持がプライドがー!
「もう一回やりますか?」
「やりゅ!」
日が暮れる頃には、リーファに「エラン」呼びを許していた。
今日は、王都に住む貴族のお子様を招いてガーデンパーティー。
そこそこのマナーが必要なので四歳ではまだ出席できないのだけど、優秀な王子である僕は特例で出席。お目当ては、側近やお友達作りではなく……こういう席でだけ振る舞われる王家秘伝のレインボープリン! 滅茶苦茶手間がかかるのと、上手くグラデーションにするのが大変なのとで、めったに作ってもらえない幻のプリンだ。
給仕がワゴンにレインボープリンを持ってくると、子供たちは一斉に群がった。僕ももらって、早速いただく。うんまぁ~い。
幸せな時間はあっという間に終わり、名残惜しくお皿を見ていると、後ろからリーファの声がかかった。
「エラン。プリンが好きなの? 僕の分も食べる?」
ふぉぉぉ神の声! こくこくと頷く僕を見て、リーファがプリンを受け取りに行く。
最後の一個のプリンを受け取るリーファに、二人の男の子が近づいてきた。
「誰が残してるのかと思ったらリーファか」
「嫌いなら、代わりに食べてやるぞ」
何でしゅと?! トテトテとリーファの元へダッシュする。
「ほら、もらってやるよ」
と、手を出したところに飛び込む。
「リーファ(のプリン)はぼくのものでちゅ!」
静まり返る周囲。
あれ? 何で皆僕を見てるの?
笑いを堪えたリーファが
「エラン、一番大事な単語を言い忘れてる」
と、言うので、脳内でスロー再生してみる。
「言いわちゅれてまちゅ……! おちゃない我が身が口惜ちい……!」
ママと公爵夫人がハンカチを目頭に当ててる。
「まだ子供だと思っていたのに……」
「あの子に立派な伴侶が……」
「ちっ、ちがっ」
「エラン、プリンを食べよう」
「はぁ〜い!」
あれ? 何考えてたんだっけ。まあいいや。
僕は席について、リーファがスプーンで掬うプリンをお口に入れてもらってもぐもぐする。
「おいちい〜」
落ちそうなほっぺを押さえて。
「良かったな。ほらもう一口、あーん」
「あーん」
そんな二人を見て、周りが僕とリーファの婚約を認識していたなんて、全然気付いて無かった。