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小説
今年は庭の柚子が豊作だったので近所におすそ分けし、店のお客さんにも差し上げて喜んでもらった。
「朝焼雨ふる大根まかう、これはいつ頃の句だったかな」
「あれは…昭和7年10月5日の日記に書き留めた句です。実際に大根の種をまいたのは9月30日でしたがね。朝焼けの日だったでしょう」
昭和7年9月30日の日記に彼はこう書いている。
『土を耕やして大根を播いた、土のなつかしさ、したしさ、あたゝかさ、やはらかさ、やすけさ、しづけさ』
蒔いた種はほどなくして芽吹き、間引いた二葉は朝のみそ汁の具となって山頭火の舌を喜ばせたのだ。