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山頭火、酒語録

歌人で酒飲みといえばまず名前が挙がるのが若山牧水。

・白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒は静かに飲むべかりけり

秋、酒場や酒席でこの歌をつぶやく声を今日でも耳にすることがある。


俳句の世界でそれは誰かといえば牧水より三歳年上の種田山頭火だろう。

山頭火の酒の代表句といえばこの句。

・ほろほろ酔うて木の葉ふる

今回は酒に関する彼の言葉とそのすさまじい酔態をその日記に年代を追ってみてみよう。


・「酒はつつしんでおりますからご安心ください、先日暫らく断酒しようと思って三日ばかりやめていましたら、身心がぼんやりして、却っていけなくなりました、何しろ何十年来の(或は久遠劫来の)薫習で、アルコールが骨髄にまでしみこんでいるのだから、仕方ありませんね」

昭和7年3月16日 書簡


・「晴れてきた、うれしい電話がかかってきた、―いよいよ敬坊が今日やってくるといふのである。駅まで出迎に行く、一時間がとても長かった、やあ、やあ、やあ、やあ、そして―友はなつかしい、旧友はとてもなつかしい、飲んだ、話した、酒もかういふ酒がほんとうにうまいのである」

昭和7年8月24日


・「酒の下物さかなはちよつとしたものがよい、西洋料理などは、うますぎて酒の味を奪ふ、そして腹にもたれる」

昭和8年1月27日


・「よい酒とは昨日を忘れ、明日を思はず、今日一日をホントウに生かしきる事ができるやうに役立つ酒でなければなりません」

昭和8年4月26日


・「昨夜はやっぱり飲みすぎだった、私は女難を知らないけれど酒難は知りぬいている」

昭和8年6月30日


・「酒好きと酒飲みとの別をはっきりさせる要がある。酒好きで、しかも酒飲みは不幸な幸福人だ」

昭和8年7月21日


・「酒は酒嚢に盛れ、酒盃は小さいほど可。独酌三杯、天地洞然として天地なし。さしつ、さされつ、お前が酔へば私が踊る。酒屋へ三里、求める苦しみが与へられる歓び。酒飲みは酒飲めよ、―酒好きに酒を与へよ。飲むほどに酔ふ、それが酒を味ふ境地である」

昭和8年7月21日


・「ああ朝酒のうまさ、このうまさが解らなければ、酒好きは徹していない、敬君、樹明君どうです?」

昭和8年8月6日


・「朝、樹明来、昨夜の酔態を気にかけている、酔うて乱れないやうにならなければ、人間は駄目、生活も駄目だ」

昭和9年2月17日


・「まづ、消極的禁酒を実行しなければならない(進んで呷らないこと、退いて味ふこと、具体的にいひかへれば、ありもせぬ金で買うて飲まないこと、貰ふたら飲むこと、御馳走酒しか飲まないこと)」

昭和9年7月15日


・「濁酒から泥水へ―私の一生はかうした経路をたどりつつありはしなかったか」

昭和9年11月5日


・「身も心も欲しがる酒、そういふ酒だけ飲むべし」

昭和10年1月30日


・「酒は味ふべきものだ、うまい酒をのむべきだ。1、焼酎(火酒類)を飲まないこと 1、冷酒を呷らないこと 1、適量として三合以上飲まないこと 1、落ちついてしづかに、温めた醇良酒を小さい酒盃で飲むこと 1、微酔で止めて泥酔を避けること 1、気持のよい酒であること、おのづから酔ふ酒であること 1、後に残るやうな酒を飲まないこと」

昭和10年5月31日


・「思はず飲みすぎて酔っぱらった、まっすぐに戻ればよいのに横道にそれてしまった、戻ることは戻ったけれど、愚劣な自分をもてあました!酔中戯作一首 あなた どうてい 私シヨジヨよ 月があかるい虫のこえ」

昭和10年10月8日


・「昨夜の自分を反省して、仏前にお詫びした。…しっかりしろ山頭火! あんまり下らないぞ!(略)同一の過失を繰り返すことが情ない、酔はない時はしないこと―したくないことを酔中敢てするから嫌になる、自己統制を失ふのである」

昭和10年10月9日


・「夜はまた街へ出かける、飯、酒、女、―人間、動物、何が何やら解らなくなってしまって、Jさんの宿舎に泊めて貰ふ。はじめよろしくをはりわろし―これが私にあてはまる常套文句だ。あさましい事実だ」

昭和11年7月31日


・「固形アルコールについて 味ふ酒は液体でないと困る。酔ふ酒は固形が便利だ。丸薬のやうに一粒二粒といったやうな。酒量に応じて、その場を考へて、一粒とか十粒とかを服用する。一粒ほろほろ十粒どろどろなぞは至極面白からう。酔丹といふ名はいかが!或は安楽薬。私は極楽蜻蛉だ」

昭和11年9月15日


・「今後は誓って、よい酒、うまい酒、恥づかしくない酒、悔いない酒、―澄んでおちついた酒を飲まう、飲まなければならない」

昭和11年9月22日


・「来るか来るかと燗してまてば あなた来ないで酒は無くなる  何よりも私は自制力が欲しい。夜はやりきれなくて街へ出かけて飲んだ、泥酔した、あさましい事実だ!」

昭和11年9月23日


・「無駄に無駄を重ねたやうな一生だった、それに酒をたえず注いで、そこから句が生れたやうな一生だった」

昭和11年12月14日


・「二三合で酔へる私であったら、―と今夜もしみじみ考へたことである」

昭和12年1月30日


・「ほろよひ人生か、へべれけ人生か、―私は時々泥酔しないと生きていられない人間だ!」

昭和12年2月20日


・「Nさん来訪、いっしょに散歩、そして酒、酒、酒、みだれてあばれた。―まったく酔狂だ、虎でなく狼だ」

昭和12年4月6日


・「どうでもこうでも節酒する覚悟でやっていますが、自惚かは解りませんけれど、節酒の自信は出来たと思います、この自信と実行とを続けて行けば、私もやっと救われるばかりでなく、周囲の人々をも苦しめないで済みます、とにかく私を信じてください(いままで度々ホントウガウソになりましたが)、やれるだけやります」

昭和12年4月25日 書簡


・「アルコールを止揚せよ、先ず焼酎を止めろ、酒は日本酒に限る、燗してちびりちびり飲むべし、時としてぐいぐいビールを呷るもよからう」

昭和12年5月31日


・「私は酒を飲むときはいつも一生懸命だった、いのちがけで飲んで飲んで飲みつぶれていたのである!」

昭和12年10月16日


・「飲んだ、むちゃくちゃに飲んだ、T屋で、O旅館で、Mで、K屋で。…たうとう留置場にぶちこまれた、ああ!」

昭和12年112~5日


・「酔へばあさましく、酔はねばさびしく」

昭和12年12月11日


・「一度犯した過失は二度犯すといふ、私はいつもおなじ過失を犯しつづけている。酒はやめられない、酒を飲むと脱線する」

昭和13年8月20日


・「ポストまで出かける、W店で一杯、N店で一杯、またF店で1杯、方角が解らなくなる、道徳を失う、二度誰何された、何しろ防空警戒中だ、満身の創痍―ただしかすり傷だけ、―辛うじて帰庵、前後不覚で寝てしまった」

昭和13年10月1日


・「自分のおろかさをあはれみいたはりつつ。(略)とうてい、酒はやめられないとすれば、せめて日本酒だけにしよう、焼酎のやうな火酒を飲んでろくな事のあったためしがない、昨夜の場合だってさうである」

昭和13年10月2日


・「飲酒戒三則・火酒を飲むべからず・微酔にて止めること・現金で飲むべし」

昭和13年12月17日


・「酒は三合、ビールならば二本、ほろほろ酔ふたらそのまま睡るべし、その他火酒は口にすべからず」

昭和14年8月29日


・「無能無才、小心にして放縦、怠惰にして正直、あらゆる矛盾を蔵している私は、恥づかしいけれど、かうなるより外なかったのであらう。―意志の弱さ、酒の強さ―ああこれが私の致命傷だ!」

昭和14年9月2日


・「「酒は静かに飲むベかりけり」である、酒はすするべし、ビールはあおるべし、酒をむさぼり、あおる所に不幸が生れるのだ、少なく共今後は断固として焼酎とは絶縁する、静かに酒をすすり、酒を味わい、酒を楽しもう」

昭和15年8月15日


・「アル中の徴候がだんだん現れてきよる」

昭和15年9月17日


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