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山頭火、サクランボを食べる

・待つているさくらんぼ熟れている(昭和7年の句)


それまでの日記を焼き捨てて行乞の旅に出た昭和5年以降、山頭火にはさくらんぼをうたった句が四句ある。年代順に並べるとこうである。


・竿がとゞかないさくらんぼで熟れる(昭和7年6月15日の句  山口にて)

・待つているさくらんぼ熟れてゐる (昭和7年6月25日の句  山口にて)

・ひさびさ逢つてさくらんぼ     (昭和8年6月7日の句 福岡にて)

・兄がもげば妹がひらふさくらんぼ (昭和8年6月17日の句 福岡にて)


この四句いずれも昭和7年と8年の6月に詠われている。

さくらんぼといえば、まず頭に浮かぶのが山形県。

寒冷な気候がさくらんぼの栽培に適しているのだが、山頭火がさくらんぼの句をものした山口にしろ福岡にしろいずれも温暖な土地である。

山形を代表する品種は佐藤錦である。

我々が日頃スーパーの店頭で目にする品種は佐藤錦かナポレオンであるそうだ。

しかし山頭火がよんださくらんぼは、佐藤錦でもナポレオンでもないはずだ。「暖地桜桃」だろうと私はにらんでいる。

この品種は暖かい地方で結実性が高く、成熟期も6月初旬の極早稲。

6月7,15,17,25日という句の詠まれた日付、山口、福岡という暖かい地方とう条件は、暖地桜桃の特徴とぴったり一致する。


・ひさびさ逢つてさくらんぼ

この句で山頭火が久々に会ったのは誰だろう。昭和8年6月7日の彼の日記を見てみよう。

「途中、木屋瀬を行乞する、五時前にはもう葉ざくらの緑平居に着いた。

月がボタ山のあなたからのぼつた、二人でしんみりと話しつゞける、葉ざくらがそよいでくれる。彼の近状をこゝで聞き知つたのは意外だつた、彼が卒業して就職してゐるとはうれしい、幸あれ、――父でなくなつた父の情である」

山頭火が久々に会ったのは、山頭火を物心両面で支え続けた句友である九州在住の医師、木村緑平だ。

またここに「彼の近状」とあるが彼とは山頭火が養育の責任を放棄してきた一人息子、種田健の事だ。


・兄がもげば妹がひらふさくらんぼ 

このサクランボはどこにあるのかという答えも昭和8年6月17日の日記に書いてある。

「私は湯田行乞に出かける。百足、蛇、蜂、蛞蝓、蝶、蚊、虻、蟻、そして人間!胡瓜、胡瓜、胡瓜だつた、うますぎる、やすすぎる!

朝の道はよい、上郷の踏切番小屋から乞ひはじめる、田植がなつかしく眺められる、それはすでに年中行事の一つとしての趣味をなくしてゐるが、やはり日本伝統的のゆかしさがないことはない。畦の草をしいて食べる田植辨当はうまからう、私もその割子飯の御馳走になりたいな、土落しによんでくれるうちはないかな。椹野川の瀬音、土手のさくらんぼ」

これでわかる通り山口市を流れる椹野川の土手で兄妹が拾っていたサクランボだったのだ。


最後に、冒頭の句の「待つているさくらんぼ熟れている」で山頭火が「待っている」のは何だろう。

この時期、山頭火が一途に待っていたのは朗報である。

山口県の川棚温泉にかねてからの念案であった庵を結ぼうと、昭和7年の6月7日から8月26日まで、川棚温泉の木下旅館に長期間滞在し、人づてを頼って努力をしたがついに報われなかった。

この句のよまれた6月25日には、土地を借りる為の保証人を依頼する手紙を書いたりして、やきもきして過ごしている最中だった。


サクランボの他にも山頭火には果物を詠んだ多くの句がある。

中でも圧倒的に多いのが柿を詠んだ句で、私がざっと数えたところでもすくなくとも140句はある。

山口県小郡にあった彼の其中庵にも三本の柿の木があった。




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