表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/34

山頭火、鮎を食べる  その2

◎昭和10年8月3日の日記より

愉快な旅の一週間だつた、友はなつかしい、酒はおいしい、ビールもよろしい、鮎も好き、…

「愉快な旅の一週間だった、友はなつかしい、酒はおいしい、ビールもよろしい、鮎も好き、…」


(ちょっと一言)

・「愉快な旅の一週間」について。

7月27日の日記にはこうある・

「早起、朝酒、九時の下りで九州へ。――初めて汽車の食堂にてビール一本さかな一皿」

この一週間、彼は九州の旅に出て、句友や飯塚に住む息子の健に一年ぶりで会っていた。


・この旅で山頭火は門司、八幡、飯塚、戸畑、下関で料理屋、飲み屋を放浪している。

したがって今回はどの町で食べた鮎かははっきりしないが、とにかく福岡県の川で獲れた鮎であることは間違いないだろう。

8月はアユの食べ時だ。


・このころ山頭火が読んだ本。

岡倉天心の「茶の本」

森鴎外訳の「即興詩人」



◎昭和13年3月23日の日記より

「日田は木どころ、製材所が多い、なかなか大規模だ、産物ハ焼杉下駄、名物ハ鮎、うまいなうるかは。飲食店、宿屋料理屋が多い」


(ちょっと一言)

・山頭火がうまいと言っている「うるか」とは、鮎の塩辛のこと。

酒好きの山頭火にとっては贅沢の極みというもの。


・日田とは大分県日田市のこと。三隈川の鮎はそのうまさが奈良時代から語り継がれているそうな。



◎昭和14年7月8日の日記より

「中の茶屋まで歩く、河鹿が鳴く、青葉がそよぐ。呉朗君、やあさん、山翁、まさに子供にかえる。酒、ビール、鮎、鰻、飲みたいだけ飲み、ふざけたいだけふざける、…とうとう三人いっしょに泳いだ」


(ちょっと一言)

・この日の鮎はどこの産か?

答えはこの日の山頭火の日記にある。

「十時、Nさん来訪、すぐ連れ立って湯田駅から上り列車へ乗り込む、山口駅からYさん同乗、おもしろおかしく話しているうちに長門峡駅に着いた」

現在の湯田温泉駅からJR山口線に乗り込んだ山頭火は長門峡駅で下車し、長門峡に向かったのだ。

長門峡は、大正12年(1923)に国指定の名勝となった景勝地で、萩市から山口市にまたがる総延長約12㎞の阿武あぶがわ川沿いの美しい渓谷。

つまりこの日の鮎は阿武川の鮎ということになるだろう。


・呉朗君とは詩人中原中也の弟、中原呉朗のことである。

この年昭和14年(1939年)当時、中原呉朗は長崎医科大学の学生だった。彼は山口高等学校時代に文学に傾倒し、当時湯田温泉に住んでいた山頭火と親しく交際していた。

ちなみにこの当時、兄の中原中也はすでにこの世の人ではない。


・この時山頭火は56歳。彼が亡くなる一年前だ。

中原呉朗は22歳。

山頭火は自分の息子より若い友人たちと「飲みたいだけ飲み」、「ふざけたいだけふざけ」た挙句、山間の冷たい川で泳いだのだ。

心臓に病を抱える彼としてはやってはいけないことに違いないが、「分かっちゃいるけどやめられない」のが山頭火である。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ