自殺回避②
朝起きて階段を降りて一階のリビングを見るといつもながらちゃぶ台を据え呑気にお茶を構えている神がいた。もうこんな神が朝起きるといるいつもの風景には慣れたものだがそれにしても朝っぱらから神には関係ないが起きてお茶をすすってるところを見ると普通の爺さんみたいだ。「おはよう。」と朝の挨拶をかけると間が二、三空いて「おはよう。」と返ってきた。追加してほんとはボケてる爺さん疑惑を入れておこうかしらんとか考えていると昨日のハイテンションはどこへいったのか寝起きの俺がすっかり忘れていた懸案事項を腐っても神がのたまってくれる、「そういえばじゃが、昨日の夜展開に行きカワイイ女子を数名誘ってみたのじゃが向こうが良くても天界の諸君が良く思わぬらしくてな、神と人間が釣り合うのはないという猛烈な批判を食らっての。ってことで相手は天使になってしもうた、相手が神かと期待していたのならすまんの。美少女女神はまた今度じゃ。それでも天使の女子もなかなか可愛いもんだぞい。背中に翼も生えてるからこんなことを言ったらなんじゃが女神と遜色な…」神が言い終わるその途端、神の頭上からゲートが現れそこから出てきた謎の光線が神を襲う。ズドドドドドドドドド!そんな激しい音がした後煙の中から見えたのは床が沈み込んだところからの神の黒焦げの髪だった。神はそのうち這いずってきて、「今のはわしの嫁の天罰じゃな。気に学校に行ってきんしゃい。帰りには必ず天使の美少女が来るサービス付きじゃぞな。しかし天使を褒めて女神をけなすだけでこんなことしてくれるなんてとんだ優しい女神様じゃい。前の美少女天使クラブのミユキちゃんに比べたらあんなおんn…」その直後以下略をくらったまぬけな神を神の御忠言通りさっさと学校に向かうことにした。今日はどんより曇り空まるで今家にいる神の気分を表しているようだった。俺も神を見習いヒステリーな嫁を迎えるのはよそうと思う、まぁ女子と付き合えたらの話だが。結局顔が優先なのだ、皆きれいごとを言っておきながらな。だからヒステリーなんて顔の素晴らしさで気づくわけもなし。きっと神もそうだったに違いないなんて思っていた俺に同じシチュエーションが訪れることになるのを知る由もなかった。歩きながら我ながら陰キャ精神丸出しで我がクラスの教室へ向かう廊下の中、一人の少女が向こうから走ってくる。俺は右側に寄せて歩くもその少女は俺を狙い撃ちするかのように右にそれ、当然衝突。ラグビー部のタックルか!なんて余裕をもって突っ込みを入れているうちが花だった。なにぶん学校の講義ではラグビーと柔道が必修となっておりその分受け身が取れるだろうと思っていたのだったが、実践は違う。まず廊下なので畳や土のように柔らかくはない当然硬い、なので怯む。この一瞬が命取りだった。俺の頭は床に激突し意識を失った。目が覚めるとそこは保健室であり窓側のベッドだったので夕日が綺麗に俺の目に映る。あぁ、夕方まで気を失ってたんだなと悟ると同時に夕日よりもまばゆく輝いている美少女の姿に気づく。はて、確かこの美少女は俺を失神させた少女ではないかと思い当たった俺はとりあえず寝ているその子に声をかける。「おーい?」「あっ!はいぃいい!」なんていきなり目を覚まされてびっくりしたのか女の子は裏返った声で返事をする。しかし聞いたことがある声だな。この疑問をぶつけてみると「当ててみてください」ときたもんだ。クイズやらなんやらこういう系にはとても鈍く苦手な俺はあっさり投了して見せる。「わからん」両手を挙げてのお手上げの意思表明。するとからかえなかったのを不満に思ったのかぷくーっと顔を膨らませた、眉間にしわが寄っている。「本当にわかりませんか?」なんてしつこくと言ってくるので「怪我人をあんまりいじめないでくれよ…」と嘆くとようやく自分が加害者であることを自覚したのか「あっ…すいません。前が見えていなくて…本当にすみませんでした。」と律義に言ってくる。俺は「いやいや。」と返すとすぐに疑念が舞い上がる。「敬語だけど下級生なのかい?」と思わず口に出す。女の子は即答というか食い気味で「違う!」と言ってきた。「同級生?」と聞いてみると女の子はみるみると顔を赤くして「どーきゅーせい!」と怒鳴ってくる。そんな様子を見て自称恋愛趣味レーションマスターの俺は女の子がイメチェンをしたのに気付いてくれなくて怒っている状態だと見抜く。すかさず俺は苦手にもかかわらず推理を始めた。なぜ一度放棄した謎を解明しようとするのかというと気付いてほしいイコール俺に興味があるということなのだ。つまり暴けばそこをいじりこの女の子の弱点を攻め入ればワンちゃんいけるかもしれないのだ。神からの美少女もいいがこの女の子の容姿もかなり良い。まるでモデルをやっているかのように美しい。長い滑らかな髪、透き通った眼、すらりとしたスレンダー体系。正直タイプだ。なので必死にならないといけない俺はさっきよりも激しく女の子の体をなめまわすように食い入る。俺はとりあえず女の子を胸で判断する癖があるので胸を見てみた。ふむ。Fはかたいな、しかしそれだけだと判断材料にはならん。もっとじっくり見ないとな。うちの学校はマンモス校なわけだし。身長は一四五センチあたりだろうか、かなり小さい。顔はメイクをしてごまかすことができるが身長はごまかせないのでこれでかなり絞れる。俺の交友関係の狭さは名古屋ドームの百万分の一なため結論、くるみだ。なんといってもモデルをやっているくるみは小さいスレンダー体型で選ばれてるのではなくその泣く子も黙る華やかな顔だ。そのアイデンティティに近いものをメイクで濁されちゃわかるものもわかるまい。メイクなどで変わるものではないと前にくるみに言ったことがあったのだがそれの鬱憤を晴らしにわざわざしてきたのだろうか。ご苦労なことだ。さてさて勝手に無作法に見られ照れているのか顔を赤くしていてでも見るのをやめろなんて加害者が言える義理もなしなんて思っているような複雑な表情をして座っている俺の推理上くるみをしり目に見ながらさて、どうしてやろうかを俺は考えていた。今考えている最中もくるみを当然のように見ている、その様子はくるみからみても不気味に違いない。なにせにやつきながら見ているからだ。なぜにやつきながらクルミを見ているのかというと前述のとおり自称以下略の俺が思うに変化に気づいてほしいとアピールするイコール俺に気があるということなのだ。つまり皆が憧れるモデルのくるみが俺に興味を持っているということの凄さと言ったらもう想像するだけで口角が勝手に上がるのも仕方ないだろう?近頃俺に構ってくるななんて思ってはいたがそういうことだったのか、わかったぞ。俺はあどけない変化に気づいてほしいそんなみんなが憧れるモデルでありながら一少女のようなくるみのアピールに応えるべく未だに顔を赤らめながら座っているくるみに俺は俺の最大限の努力による爽やかスマイルで「おいで、子猫ちゃん。」と言い放つ。もちろんイケボになるように努力はした、が何が気に食わなかったのだろう、くるみはとろーんとした顔つきになるわけでもなくわなわなと体を震わせながらこぶしを握り締め立ち上がって俺の方に近づいてくる。どう考えても怒ってるようにしか見えないくるみに俺は困惑する。なぜ!?俺はくるみの好きな人へのアピールというのに最大限の配慮をして応えただけなのにくるみに怒られる筋合いがどこにあるのだろうか!悲嘆にくれながら疑問を呈す俺にくるみはその答えとビンタをお返しして下すった。ぱあん!と保健室には俺とくるみしかいなかったため乾いた音が響き渡る。かなり痛かったので布団に少しうずくまってに怪我人に何しやがるんだこの野郎と頭もさえたので文句を言ってやろうとするもできなかった。目を挙げた瞬間目に入ったものは天使の笑顔なんて雑誌に掲載されているモデルの「くるみちゃん」とはまるで正反対のあなたに死をお届けなんて煽り文がそえられるであろう泣く子がさらにギャン泣きするであろうなまはげあるいは死神に似つかわしい人間の根源的恐怖を奮い起こすようなそんな形相が見えたからだ。息が詰まって何も言えなく窒息しそうになりまたこの沈黙にも耐えきれなかったので思わず普段はただの爺扱いをしている神に助けを乞いたくなった。あ、窒息するわと思った途端、相変わらずなまはげの形相を催してるくるみに胸倉をつかまれほぼゼロ距離で口先をとがらせながらくるみは「誰が子猫ちゃんですって?天下のくるみちゃんがこんな陰キャ童貞ヘタレ野郎なんかに惚れると思ったわけ?はん、片腹痛いわ!次勘違いしたらこんな脳震盪じゃ済まさないわよ!」と俺に好きなだけ言ったら途端に俺を投げ出し椅子を思いきりガシン!とけって片付けもせず乱暴に保健室の扉を開いて去っていった。なんて女だ。あの普段俺にしゃべりかけてくれる天使の顔は作り物だったってわけか、なるほど今思えば納得がいく。校内ではくるみファンクラブというものが存在しておりほぼ全員所属しているのだが俺だけ所属しないのに不満を持ったので今回の行動を起こしたのだろう。あ、ヤバい。さっきの波乱万丈の出来事よりも冷静になって思い返す俺のイタイ想像が俺の精神を突き刺す。たとえるのならロンギヌスの槍を食らった使徒のように俺の精神は儚く砕け散る。その結果訪れたのは絶叫だった。「うわああああああああああああああああああああああはっずうううううううう!」人は声に出すと多少のストレスは収まる、しかし今回の件は普段封印していて思い出すに当たらなかった中学生の時の自分の言動もデバフとしてかかったため並ならぬものだった。そのため持ち前の短絡的思考により自殺を思い当たるレンだったが一筋の光がレンの脳内に舞い込む。そうだ、俺はこのあと彼女になるの確定(そんなことは誰も言っていない)な美少女天使と会えるのだ。ならば自殺なんてする必要はないな!とまたしても同じ神に救われたレンはビンタの痛みと美少女モデルの豹変も忘れベッドからなげうって焦るかのように保健室から飛び出す。