登場シン物
小学生の時のあだ名は「アンラッキーマン」だった。六年間通して牛乳パックに当たった回数15回。しかも周りの皆は当たってないもんだからちょいと陰謀を疑ったぐらいだ、それに牛乳パックに少しトラウマができた。まあ不幸中の幸いと言ったらなんだが最悪のケースとして「下痢便マン」とされなかっただけましだろう。そんなほんのり暖かなクラスメイトとの小学校生活を終えて待っていたのは期待と希望に満ちた中学生活なんてものじゃなかった。絶望と先の未来が見えない恐怖で胸いっぱいになった両親の死だった。最後に交わした言葉は「じゃあ、お父さん達旅行に行ってくるから。留守番よろしくな。」「レン君、お母さんがいない間もだらけた生活しないでいるのよ?たった三日間だけなんだからね。あと火元には気を付けるのよ?」いずれの両親の言葉にも寝起きの俺はいい加減な生返事をしただけだった。今では本当に後悔をしている。両親が旅行に出かけたその日の夕方にテレビでは飛行機の墜落のニュースがやっていた。乗員者は全員死亡と読まれた。そのニュースキャスターの読む声ははあたかも死神による冷酷な裁きの声かと思われた。それに不安を感じた俺は飛行機の便を確認した時に現実が受け止められなくなった。涙が出た、叫んだ、地面に何回も拳をたたきつけた、家中を走り回った。とにかく発狂していた。理性はなかった、とにかく現実逃避がしたかった。発狂が収まり冷静になった後に考え付くことと言ったら自殺であろう。中学生になるといってもまだ春休みで小学生を最近卒業した子供なのだ。短絡的思考といえど子供なので十分にありえただろう。しかし俺はまだ生きている。それはなぜか。相談するというより悩みを聞いてもらえるものがいたからだ、いや少し違うな。俺の場合はその対象が人ではないため少し特殊であった。なので悩みを聞いてもらうというより怒りをぶつけたのだ。今でもそいつに憎しみを持っている。俺に怒られる筋合いのあるものなど今現世にはいないだろう。しかし現世にいなかったものなら話は別だ。そう、俺は家を飛び出そうとする瞬間チャイムを押され扉を開けてみると出てきた者は神様だった。なぜいきなり見ただけでわかるのかというと宙に浮いていたからである。みるに魔法学校の校長をやっているような顔つきと長いひげを有しており目がいかにも仏像さんのような悟りの開いたようなであり日が落ちているというのに後ろからスポットライトでもあてられているのではないかという神々しいオーラがその一見するとよぼよぼ爺さんにはあったのだ。「これが目に入らぬか!」みたいにされたような心地で思わず急上昇していた血も瞬間冷凍され地面に手がついていた。そして頭を下げようとした瞬間、「顔をあげてくれい。むしろ頭をさげるのはこっちの方ですわい。」と言われた。そこまでしてようやく目が覚めた俺は神様であろう人物に神様であろうという保証がないのに頭を下げようとした自分の行為に狼狽し、むしろ目の前にいる人物は神であることは確証していた。しかし自分の行為に対する狼狽の気持ちがそのまま混乱の感情と混ざり合い「あんたは何者だ。」と思わず口に出してしまっていた。結果はわかりきっていたが返答は「神じゃ。」の一言だった。それに付け加え少し申し訳なさそうな顔をしてみせた神は次の言葉に「神は神でも貧乏神じゃ。今回は本当に申し訳ないことをした。」と謝罪の表明をしてきた。神が俺に謝る。そんな余程ありえないことで思い当たることといえば一つしかない、両親の死だ。俺の冷めていた血は再度急上昇した。右手を握りしめてその凶器といえるジュニアボクシング優勝の拳を目の前の貧乏神にめがけて放つ。俺は神様にはむかうのは無礼にもほどがあるが大切な両親をなくした重みに関しては俺にとって天秤をかけるまでもなかった。神、それは全知全能。人間などには到底およべない未知の領域の持ち主。そんな特異な存在がたかが小卒の子供のパンチを避けることなど児戯に等しい。しかし貧乏神はその怒りに満ちた拳をその顔でもって受け止めた。さらに繰り出されるもう一発、もう一発の拳も。やまぬラッシュに対しされるがままの貧乏神。少年の拳が真っ赤になり月光が一人の人間と貧乏神をとらえた時に少年の裁きと神のサンドバッグは終わった。荒い息をつくレンにたった今創造したペットボトルの水を差しだしながら神は「気が済んだかの?」と言う。少年は神の大人な包容力に対し大人な姿勢で応えようとし素直に水を受け取りながらうなずく。それから貧乏神が語りだすには自分が今までレンの背後にいた貧乏神であったこと、今回は両親の行く先に興味があり両親についていったこと、
たったいま両親たちを天国に送ったことという以上のことだった。レンも真面目に聞いていたので両親の行き先がパワースポット巡りだったため渋々ながら話の腰を折らず神の説明は終わった。それと神は付け足して天国に送った神に対し両親が頼むことにはレンのことだったのでこれから神はレンが死ぬまで付き添うこととレンの家に現世に肉体を持った状態で住むことにする旨を伝えた。レンは両親からの願いなので断ることもせず了承した。レンが了承した瞬間神は「神の能力は現世で一日一回までしか使えんのじゃが今回は特別じゃ。お主の体はもう眠れる状態になっておる。食事、風呂はすべてやっている状態にしておいた。さあ、ベッドの中にお入り。寝ている状態でしかできんしおぬしだけに特別両親に合わせてやろう。」と言った。それを聞いたレンは歓喜し神を家に招き入れ神をもてなそうとするも神の「わしのことは良いから、はやく寝なさい。」という言葉に甘えすぐさまベッドに飛び込んだ。神の行ったことは本当ですぐさまレンは眠りについた。そしてレンは夢の中のようで本当にある三途の川の手前の天の世界へつながる階段を夢という懸け橋でわたり両親との再会を果たした。朝起きた時には貧乏神が自分が貧乏神であることを利用し自分が普段する真逆な選択を選び株で大金を手に入れレンの通帳に入れていた。肉体化してるといっても食費いらず、物音も立てず静かな神との共同生活が俺の高校二年になった今でも続いている。また貧乏神の肉体化は俺にもう付きまとわないという意思表示でもあり純粋に今まで貧乏神である自分に付きまとわれてたのに死にもしなかった俺の本当は運の良さを体感してほしくそしてそれが罪滅ぼしでもあると神が言った。その本当の運の良さというものには現在進行形で実感している。一年の頃は仕事が忙しくあまり学校に出られなかったくるみちゃんというモデルが二年生になって学校に頻繁に登校してきていてあろうことか俺に積極的に話しかけてくれるのだ。透き通った長い黒髪に筋の通った鼻筋顔にはあどけない幼っぽさが残されつつしっかり童顔で美しくまた可愛い、そんな美少女に迫られることいや話しかけられたことすら今までに一度もない。これは本当に俺の運がいいのかもしれない、そのことを喜々として神に話すと「ふむ。カワイイ女子と話したかったのか…レンは。ならば今度その女子に引けを取らないような女に合わせてやろう。」ときたもんだ。ほんと俺の神様はサービスがいい。会える日はいつかと聞くと明日と帰ってきたもんだからこれはもう楽しみで仕方がなく早く明日になってほしかったため俺は眠りについた。
読んでいただき誠にありがとうございます。