95話 船(1/2)
ザーと波をかき分けて船が進んでいく。俺と結依とリルはアルス王国ケーニンからヴァーナ王国ヴェラまで向かう船に乗っている。2~300人は乗れそうな大きな船だ。今も甲板には数十人が出て思い思いにくつろいでいる。
「ふふっ。いい子ね、リル」
「わふぅっ!」
そして結依とリルが甲板で戯れている。俺はそれをベンチに座りながら眺める。俺の国外追放に付いてきてくれた二人だ。この世界での旅は日本での旅行とは違う。様々な危険がある。だから今でも止めたい気持ちはある。だが、それと同時に、
「ん?悠、どうしたの?」
「・・・いや、なんでもない」
心のどこかでうれしさも感じてしまっている。知らない街、知らない国、知らない世界を一人で旅するよりは、心強さを覚える。まあ本人たちには恥ずかしくて言えないけど。
「わんっ!わん!わん!」
「お?どうした、リル?」
急に駆け寄ってきたリルお抱き上げる。じゃれているのか、と思ったがどうにも様子がおかしい。今までに無いぐらい激しい吠え方をしている。
「わん!わんわんっ!わん!」
「どうしたのかしら?リル」
結依も寄ってきて心配そうにリルをのぞき込む。そのリルはどこか遠くの空を見つめてわんわん!と吠え続けている。
「ん?」
リルがじっと見つめる先。水平線の空にいくつか小さな影が浮かんでいるのが見える。なんだろう、と思って立ち上がる。壁際まで歩き、手すりから身を乗り出す。あれは・・・鳥だろうか。しかし、単に鳥が飛んでいるだけでリルがこんなに吠えるだろうか。それによく考えると鳥にしては大きすぎる気がする。
「わんっ!わん!」
「ねえ、悠。あれ・・・」
「ああ・・・」
結依も気付いたようだ。あの黒い影に。そしてその影はどんどん俺たちの船に近づいてきている。近づくにつれ、その異様さが分かる。やはり大きすぎるのだ。鳥というより飛行機に近い。そんな巨体がいくつも迫ってくる。
「なんだ!?あれは!?」
「こっちに来てるわ!」
ざわざわと他の乗客もざわめきだした。あの飛行物体に気付きはじめたようだ。すると、
カンカンカン
鐘が打ち鳴らされた。異常が起きたことを知らせるサイン。その音をきっかけに、甲板は一気にパニックになった。
「逃げろ!」
「何が起こったの!?」
「部屋に戻るんだ!」
「きゃっ!押さないでっ!」
悲鳴すら上がる状態。そして乗客が一気に船室へ通じる扉に群がり、押し合いへし合いの大混乱。
「悠。私たちも逃げましょう」
「ああっ。でもっ・・・」
逃げようにも甲板は混迷を極めている。船室へ通じる扉は人であふれかえり、とてもじゃないが逃げられる様子ではない。
くそっ。どうする1?船室には逃げられない。かといってこのまま甲板にとどまるのも危険だ。
もう一度空を見上げる。あの飛行物体の群れがかなり近づいていた。その正体が視認できるほどに。
一つ一つは翼を広げた黒鱗の生物だった。まるで翼竜のような、四本の手足と尻尾、そして翼を持った生き物。いや、このファンタジー世界ではこう表現した方がいいかもしれない。ドラゴン、と。
「あれは!?」
「ブラックドラゴンだ!」
「なんでこんなところに!」
「いやぁ!」
乗客の誰かが叫んだ。それをきっかけにさらに混乱は広がっていく。
「悠!どうする!?」
「・・・くそっ」
戦場は大パニック。それを突っ切って船内に避難することはもはや出来ない。どうする!?
ああ。やっぱり旅は危険だ。俺は心のどこかでなめていたのかもしれない。なんとかなる。どうせなにも起こらないって。
ちら、と結依の顔を見る。いや、反省も後悔もしてる場合じゃない!最低限、こいつらだけでも守らないと。それが俺の責任だろ!
「グルルルル」
その声に顔を上げれば、ドラゴンの群れは船のすぐ上まで来ていた。しかも通り過ぎることなく、完全に船上でホバリングしている。ちっ。完全に狙いはこの船か。
総勢10頭のドラゴン。体長は10メートルにも20メートルにもなるだろうか。うなり声を上げてたたずむその姿は空の王者と思わせる。心臓を握りつぶされるようなプレッシャーと、息が出来ないほどの恐怖感が俺の身体を襲う。人間なんて所詮その爪の一掻きで粉々に出来るだろう。
どうする?どうする?どうする?逃げられるのか?そもそもどこ逃げるんだ?どうする?どうすればいい???
「わん!」
「・・・っ!?しっ!静かに、リル!」
リルの声にはっ、と我に返る。リルと結依。俺に付いてきてくれたこの二人だけでも逃がさないと。
とはいえ船室は無理だ。辺りを見渡す。と、あるものが目に飛び込んできた。
「結依っ!こっち!」
「あ、ちょ・・・」
結依の腕を引っ張り、身体を引き寄せる。そのまま引っ張って行き、
「ここに隠れろ!」
それは先ほどまで座っていたベンチの下だ。無理矢理結依の身体を押し込み、さらにリルを結依に渡す。
「わふ」
「そこでじっとしてろ」
「ちょ、ちょっと!悠はどうするのよ!」
「俺は大丈夫だから」
このベンチには一人分しか隠れるスペースはない。結依で定員オーバーなのだ。だから結依も焦ったような声で俺はどうするのかと聞いてきたのだ。
・・・いや、俺はそもそも隠れるつもりはない。ここで、盾にでもなってやる。もしドラゴンが襲ってきても、少しでも結依たちを守れるように。あいにく今は武器も防具もない。でも、壁。囮。時間稼ぎ。なんでもいい。結依とリルを守る責任が俺にはあるっ。
「悠っ!」
「グルルルル」
上空にたたずむドラゴンと目が合った、気がした。鋭い牙をのぞかせ、鋭い眼光で見下ろすドラゴンに身がすくみそうになる。
だが、と。気合いを入れ直す。ぐっと脚に力を入れ、震えを止める。そしてきっ、とにらみ返す。
「グルルル」
「グル」
そのドラゴンは俺から目をそらし、仲間のドラゴンを見て会話をし出した。
「グルル」
「グルルルル」
「ぴぃ」
「グルルル」
ん?今鳥の鳴き声が聞こえた?よく見るとブラックドラゴンの群れにぽつんと一匹、赤い小鳥が混じっていた。なんだ?あれは・・・。いや、そんなことはどうでもいい。
ドラゴンめっ。何をしているんだ?偵察?作戦会議?そもそもこんな船に何の用だ!?
「グルルル」
「グルルルル」
「グルッ」
「ぴぃぃぃ」
また鳥の鳴き声が聞こえた。と思ったら、
「「「グルルルルッッ」」」
ドラゴンが一斉に吠えた。耳をつんざぐような方向。肌を刺すような威圧感をまき散らす。
来るのか!?いよいよっ!襲ってくるのか!?
冷や汗が出る。心臓がうるさいぐらいに跳ねる。
・・・もしかしたら。俺は、ここまでかもしれない。
だが。それでも。
こいつらだけは守ってみせる!
「悠っ!」
バサ バサ
ドラゴンたちは翼をはためかせる。
俺は歯を食いしばる。ぐっと身体に力が入る。
「「「グルッ」」」
そしてドラゴンたちはーー




