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94話 王都

 ユウとユイが勝手に家を飛び出していった。そこからカズヒサたちが訊ねて来た。彼らが帰った後は各所へ挨拶回りだ。お別れの挨拶を押しつけていきよったからな。

 カーネリア孤児院とギルド、それから近衛隊のカイたちに挨拶するついでに聞き込みをしたが、皆驚いていた。特に孤児院の子供たちはユウとユイが旅に行ったと知ってすごく悲しんでいたな。慕われているんだなとうれしくなった。しかし行き先については誰も心当たりがないらしい。で、並行してわしらの旅の準備もしているともう夕方ごろになった。


「どうじゃ、メイ?」


「必要なものはあらかた買いそろえました。ただ、やはりどこに行ったか分からない限りは・・・」


 ユイとユウがどこに行ったか。旅の準備が出来てもそれが分からなければ出発できない。二人は本当に誰にも行き先を告げていないらしく、未だ手がかりがない。

 誰か一人ぐらいは心当たりがあると思ったんじゃが・・・。荷物を抱えながらメイと大通りを歩く。すると、馬車乗り合い所の前を通った。そしてふと思う。もしかしたらここの人達はユウとユイを見ているんじゃないだろうか、と。メイにもそう説明すると、いいと思います、と頷いてくれた。

 とりあえずわしは乗り合い所に行き、手近な職員を捕まえて聞いた。


「今朝ヴァーナ王国かフェート王国のどちらかに若い男女が乗っていかんかったかの?」


「うーん。どうでしょう。あ、フィガロさん。フィガロさんは今日ケーニン方面の担当でしたよね?」


 相手は若い男性だった。しかし思い当たる節はないらしく、わしの言葉に首をかしげた。と、彼はちょうどそこに通りがかった中年の男性に話しかけた。フィガロという名前らしいその男は若い御者の言葉に頷き、足を止めた。


「おう、レイト。途中のリントンまで行って折り返してきたぜ。それがどうした?」


「いやね、こちらのお客さんが今朝若い男女を乗せなかったっかって」


 そう言ってレイトはわしらを紹介する。フィガロはわしらの方を向き、顔に手を当てて考えるようなそぶりをした後、こう答えた。


「若い男女?ああ。それなら二組ほどいたな」


 フィガロの答えは若い男女は二組いたという。そのどちらかがユウとユイであればよいのじゃが。わしはフィガロにさらに問いかける。


「10代の若い男女じゃ」


「どちらも黒髪で、女の子の方は長髪だったと思うんです」


 わしとメイの説明を聞き、フィガロはぽんと手をたたき、言う。


「ああ!それならケーニン行の馬車に乗ったぜ」


 それを聞き、わしは思わず叫んだ。


「本当か!?」


「お、おう。なんてったって俺が途中のリントンまで乗せてったからな。あれだろ?白い犬っころを連れた若いカップルだろ?」


「そう!それじゃ!」


 白い犬っころ、というのはリルじゃな!?リルも家からいなくなっておった。もしリルもついて行ったとすれば、その一行は間違いなくユウとユイじゃ。ようやく手がかりを見つけることができた。


「見つかってよかったですね」


 メイの言葉に首肯しつつ、さっそくフィガロに言う。


「そうじゃの。よし。わしらもケーニンまで行きたいんじゃが」


「ああ。だが今日の便はもうない。一番早くて明日の朝だな」


「・・・分かった」


 どうやらすぐには出発できないらしい。仕方ない。明日の朝まで待つか。そう思ったとき、遠くから声が聞こえてきた。


「おーい。フィガロさーん!」


「なんだ?」


 と、わしらの元にもう一人別の若い御者が駆けてきた。目当てはフィガロらしい。彼はわしらに軽く目礼するとフィガロの方に身体を向けた。


「フィガロさんは明日もリントンへの往復ですよね」


「そうだが。それがどうした?」


「実はリントンの手前でゴブリンが大量発生していて、道路が通行止めになっているそうです。従って明日のリントン方面の馬車は運行中止。幸いリントンの騎士団が対処するようで明後日には再開できるそうなんですが・・・」


「おう。分かった」


 漏れ聞こえてきたのは悪い報せだった。フィガロも申し訳なさそうな顔でわしらの方を向き、


「お客さん。聞いてのとおりだ、すまんがケーニン行の馬車は一番早いので明後日の朝の便らしい」


「・・・分かった」


 ゴブリンの大量発生か。このタイミングで発生するとはなんとも不運なものじゃ。ユウやユイが巻き込まれていなければよいが。


 しかし行き先は分かった。待ってなさい。ユウ。ユイ。勝手に家出しおって。見つけたらお説教じゃ。




☆☆☆




 ロッシュさんの家から戻ってきた俺、美穂、大友先生は水野、山本を加えて五人で話し合っていた。食堂の一角。今日は訓練がないのでゆっくりと時間が取れるわけだが・・・。明るい雰囲気ではない。

 話題はもちろん高島と一条さんのこと。高島が国外追放になったことは昨日の夜発表された。ただ昨日は夜遅かったこともあってロッシュさんの家には行かなかった。そして今朝朝イチで行ったのだが、時既にもう遅し。すでに高島と一条さんは出発した後だった。


「高島くん・・・。一条さんも」


「そうか・・・。もう行っちゃったんだ」


 山本も水野も驚いている。まさかこんなに早く出発するとは。しかも二人だけで。なんとロッシュさんとメイさんという保護者にも相談せずこっそり行ったのだからなおさら驚きだ。


「高島くん・・・。私のせいで・・・」


 そして人一倍責任を感じているのが大友先生だ。うなだれて、膝の上に置いた拳は血が出そうなほど強く握りしめている。

 大友先生は責任感が強い人だ。高島が追放されたことに対して、どうして止められなかったのか、昨日のうちに会っていれば、相談にのってあげられたら、と後悔しているらしい。

 俺も同じ気持ちだ。昨日のうちに高島に会っていれば・・・。なにかアドバイスしてあげられたかもしれない。前田にも貴族にも訴えて処分を撤回できたかもしれない。


「大丈夫。先生のせいじゃないよ」


 すると、水野の優しげな声が聞こえた。そのまま水野は大友先生の手を握る。


「水野さん・・・」


「悪いのは前田と貴族だよ。だからそんなに自分を責めないで。ね?」


「でも、高島くんは・・・」


「高島も高島だよ。うちらになんの相談もなく出て行くなんて。再会したらガツンと言ってやらないと!」


 そう言って水野はわざとらしく怒って見せた。それに大友先生は苦笑する。しかし、俺もそう思う部分はある。高島の奴。ひと言ぐらい俺に相談してくれてもよかったのに。俺ってそんなに頼りないか?俺はお前のことを親友だと思っていたのに・・・。


「はぁっっ!?」


 すろと突然、背後から前田の怒鳴り声が聞こえてきた。驚いて振り返ると、鬼の形相をした前田が食堂の入り口にいた。そして取り巻きの伊東と三村、そしてライオスも一緒だ。


「一条が高島に着いていっただと!?」


 かなりショックを受けているような声だ。どうも一条さんが高島に着いていったのが前田の耳に入ったようで、それに驚いているようだ。


「くそっ。連れ戻せ!」


 前田は一条さんが高島に着いていくとは思わなかったようだ。で、高島という邪魔者が消えたら一条さんは自分のものになるとでも思っていたのだろうか。

 はっ。甘すぎる。そんなわけないだろ。一条さんは高島にベタ惚れなんだ。高島がちょっといなくなった程度でお前なんかになびくかよ。自惚れもいいところだ。


「なに。勇者として実績を残せば向こうからすり寄ってくるだろう」


「そうっすよ。前田さん。前田さんはどんと構えていればいいんです」


 しかしライオスや取り巻きはそう前田をなだめる。端から聞いていると馬鹿馬鹿しいにも程があるが、よいしょされて徐々に機嫌がよくなったのか、前田は徐々に落ち着いてきた。そしてさらにライオスが言う。


「ああ、そう言えばマエダ殿。フィンク子爵からパーティーの誘いが来ているが」


 貴族からの招待。それに気をよくしたのか、ようやく前田は笑みを浮かべた。


「ふっ。しゃーねーな。今夜顔を出すから美味いもんでも用意しろって言っとけ」


「さすが前田さん。人気者っすね」


 そんなやりとりをしながら前田一行は食堂から出て行った。

 その後ろ姿にムクムクと怒りが湧いてくる。どれだけ自分勝手なんだ。どれだけ傲慢なんだ。どれだけ他人にーー一条さんと高島に迷惑を掛ければ気が済むんだ。そして、それを止められない俺自身にも。


「俺が勇者になってやる」


 気付けばそう口に出していた。


「和久くん?」


「これ以上前田の好き勝手にさせてたまるか」


 あいつにもう大きい顔をされるのはもう飽き飽きだ。来る勇者選抜トーナメント。俺がお前を叩き潰してやる。そうぐっと拳を握る。と、


「いいねえ。うちも頑張ろうかな」


 口元に笑みを浮かべながら水野がつぶやいた。


「み、水野さんも?」


「いいかげん、あいつの伸びきった鼻をポッキリ折ってやらないと気が済まないんだよね」


 水野とにやっと笑い合う。ああ。あいつにはもううんざりだ。


「み、水野さん・・・。じゃ、じゃあ僕も」


 次いで山本もそう言った。ここにいる剣士組の三人。全員が妥当前田を宣言したことになる。いままでにない強い決意を持って。


 俺たちはうなずき合う。見てよろよ前田。俺たちに対しても傍若無人に振る舞う王様気取りのあいつに、吠え面をかかせてやる。

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