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93話 港町ケーニン

「じゃ、ありがとう」


「こちらこそ」


 ケーニンに着いたのは夕方が過ぎ、空が暗くなっていく時間だった。そろそろ夕食時という頃合い。街には飲食店の香りが漂い、長旅で空っぽになった胃袋を刺激する。


「リルちゃん・・・」


「わん!」


 ルイスさんたちともお別れだ。彼らはこのケーニンにあるルイスさんの実家に行き、父親の看病をする。一方俺たちは船に乗ってヴァーナ王国まで行かねばならない。

 ただ、シャルティちゃんが涙目だ。リルとの別れが寂しいらしい。馬車ではずっとリルにべったりだったから。


「ほらシャルティ。ばいばいしなさい」


 母親のマーナさんに促され、その脚にすがりついていたシャルティちゃんはようやく顔を上げた。


「うん・・・。リル。ばいばい・・・」


「わふ!」


 シャルティちゃんは泣きそうな声でそう言った。するとリルは彼女の顔をなめ、こぼれ落ちそうな涙を拭う。


「わっ」


 くすぐったいのか、シャルティちゃんが顔をほころばせる。ようやうシャルティちゃんが笑顔になった。その様子に俺たちもほっと安心した。


「ふふっ。じゃあユウくんもユイさんもさようなら。ありがとうね」


「いえ。こちらこそ。楽しかったです」


「お昼ご飯ごちそうさまでした」


「いえいえ。じゃあ気をつけてね」


「おにいちゃん!おねえちゃん!ばいばい!」


「シャルティちゃん。ばいばい!」


「元気でね」


 名残惜しいが、ルイスさん一家とはお別れだ。お互い姿が見えなくなるまで手を振り、別れを惜しんだ。一期一会の出会い。旅の醍醐味かもしれないが、さみしさも感じる。


「・・・行きましょうか」


「そうだな」


 さて、ルイスさんたちと別れて、俺たちは船着き場と宿に向かうわなければならない。明日のヴァーナ王国行のチケットと今夜の宿を取るためだ。

 幸いどちらもすぐに取れた、船中で一泊するため個室か男女別の雑魚寝部屋のどちらかを選ぶ必要があったが、お金を節約するために雑魚寝部屋にした。明日の朝出発で、明後日の夕方頃にヴァーナ王国の港町ベラに着く予定だという。

 宿はルイスさんおすすめの宿だ。こぎれいな宿で、値段も良心的だ。女将にお願いし、俺と結依それぞれの個室二部屋分をとった。女将に一緒の部屋じゃなくていいのかとからかわれたが、ムキになって同部屋にするというイベントも起こらず、普通に二部屋を取って終わりだった。ただ、リルの分の追加料金はかかったが。

 そして今は宿で夕食だ。一階に併設された食堂に座っている。


「はいよ。おまたせ」


 宿の女将が夕食を運んできてくれた。魚の煮付けのような料理と、パンとサラダの定食だ。


「わんちゃんは生肉でよかったかい?」


「わん!」


「ああ、ありがとうございます」


「いいよいいよ。その分お金ももらってるんだからね。で、お客さんたちは王都から来たのかい?」


「ええ」


「ケーニンは港町だからね。魚は王都より美味いと保証するよ。じゃ、ごゆっくり」


 そういって女将は去って行った。どれ。そこまで言うなら食べてみよう。


「いただきます」


 ナイフで魚を切り分け、フォークで口に運ぶ。


「んっ」


 口に入れた途端、身がほろほろと崩れる。そしてうまみが口のなかにじゅわっと広がる。


「おいしい」


 同じく魚を食べていた結依がそうつぶやいた。確かに王都の魚料理より美味しい。魚が新鮮だからだろう。そして女将の味付けも絶妙だ。そのあたりの技法も港町だけあって発展しているのかもしれない。

 そのまま黙々と食べ続ける。夢中になっていたという表現が正しいかもしれない。と、結依がつぶやいた。


「明日にはこの国ともお別れね」


「そうだな」


 そのひと言にこれまでの思い出がよみがえる。召喚されて大体3ヶ月ぐらいか。そのうち一ヶ月は城で過ごし、二ヶ月はロッシュさんにお世話になった。


「いろいろあったな」


 無能と罵られたり、前田にボコボコにされたり、ロッシュさんたちに拾われたり、冒険者として活動したり。とにかく濃い三ヶ月だった。

 でも、隣にはいつもこいつがいたんだよな。いや、別に変な意味じゃなくて。ただ物理的に一緒だったな、っていう・・・。


「ロッシュさんたち、怒ってるかな?」


「そりゃ怒ってるだろ。黙って出ていったんだから」


「そうね」


 俺たちが出て行ったのに朝気付いたとして、半日が過ぎた。ロッシュさんはどうしているだろう。俺たちがいないことに怒って・・・。村上たちに手紙を届けてくれたかな?腹いせに破り捨てた、とか?いや、ロッシュさんに限ってそれはないか。

 それとも呆れただろうか。勝手に出て行く奴なんて知らん!好きにしろ!って。それはそれで寂しいが、しかし俺たちが悪いんだからそうなっても文句は言えない。


「ロッシュさんたちだけじゃなくて、村上たちもカンカンだと思うぜ」


「じゃあ謝りに行かないとね」


「そうだな」


 村上たちも事前に相談したら勝手に出て行くな!って怒ってくれそうだ。そして貴族たちに国外追放の撤回を訴えるぐらいはしてくれそうだ。でも、そんなことをしたら今度は村上たちが目をつけられるだけ。

 さて、あいつらともう一回会えるのはいつになるか・・・。魔王を倒せば、さすがに会わせてくれるだろう。


「とにかくヴァーナ王国でもがんばろうな」


「そうね。冒険者として活動してお金を稼いで、強くなって・・・」


「ゆくゆくは魔王を倒して、日本へ帰ろう」


 そしてその前にロッシュさんメイさん、村上たち、あとは孤児院のセリアさんと子供たち・・・。いろんな人に会って謝らなければ。勝手にいなくなってごめんさないって。いっぱい怒られるだろうな。でもまあ、怒ってくれたら幸せだ。見捨てられてないってことだから。


「ええ。二人でーー」


「わん!」


「ふふっ。ごめんなさい。三人ね」


「わふぅ!」


 俺も忘れるな、とばかりにリルが吠えた。すねているのか肉を詰め込んでいるのか頬がパンパンだ。そうだ。三人で頑張ろう。

 そうやって俺たちは決意新たに微笑みあった。

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