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91話 馬車での出会い

「きゃっ!くすぐったいよぉ」


「わふぅ!」


 向かいに座る小さい女の子とリルが戯れている。俺と結依、そして女の子の両親はそれを微笑ましく見ている。


 この両親とはリルのことでうるさくしてごめんなさい、と挨拶したことから少し話すようになった。そして女の子が起きてリルを目にすると、勢いよく食いついたのだ。そのまま二人は仲良く遊び、俺たちはそれを見守っている、という訳だ。

 父親の名前はルイス、母親はマーナ、女の子はシャルティ。20代ぐらいの夫婦と5~6歳ぐらいの子供の家族だ。この一家はケーニンに住むルイスの両親の見舞いに行くところだという。どうもルイスの父が寝たきりになっているらしい。


「そうだんだ。シャルティちゃんはおじいちゃんのお見舞いに行くのね。偉いわね」


「うん!シャルティが行ったら、きっとおじいちゃんは元気になるの!」


 そう笑顔で言うシャルティちゃん。間違いない。この笑顔は万病に効くに違いない。とても可愛らしい。

 そんな感じでルイスさん一家とは仲良くすることが出来きた。

 乗客は他に若い男性。彼にも挨拶したが、


「俺は雇われた護衛だ。気遣いはいらん」


と素っ気なく言われた。そういえばやけに武装しているな、と思っていたが、マジの護衛だったんだ。頼もしく感じると共に、護衛を雇うってことはそれなりに危険もあるってことだよな・・・と身の引き締まる思いだった。


 さて、馬車は賑やかな雰囲気で進んでいく。主にシャルティちゃんとリルが戯れているおかげだ。それでも馬車が走り出して4~5時間ほどすると、シャルティちゃんの元気がなくなってきた。どうしたのか、と心配していると、


「パパ~。おなかすいたー」


そうつぶやいた。時刻はお昼前。そう言われれば俺もおなかがすいてきた。


「もうちょっと待ってね。もうすぐ街に着くから」


「わん!」


 ルイスがそう言ってシャルティを慰める。同時にリルもシャルティの頬をなめ、彼女はくすぐったいよぉ、と笑顔になる。


「でもリルちゃんがいて助かったわ。いつもだったらシャルティはお腹がすくと機嫌が悪くなるの」


「いえ、こちらこそシャルテイちゃんと一緒で楽しいです」


 マールさんにお礼を言われたが、お礼を言いたいのはこちらだ。そう思っていると、突然護衛のお兄さんが叫んだ。


「フィガロ!馬車を止めてくれ!」


「あいよ、ヴァン!」


 その叫びに応え、フィガロという名前らしい御者のおっちゃんは馬車を停車させた。ヴァンという名前らしい護衛は素早く馬車を降りると地面にしゃがみ込み、じっと見つめていた。


「どうしたんだろ?」


 俺が疑問に思ってつぶやいた。それに答えてくれたのはルイスさんだ。


「なにかの痕跡を見つけたのかもしれないね」


 なにかってなんだろう。あまり重大なことじゃなければいいが。少し不安になりながらヴァンさんが戻るのを待つ。


「待たせたな」


 五分ぐらいだろうか。そう言って彼は馬車に戻ってきた。そのままフィガロさんとしゃべり出した。


「ゴブリンの足跡があった。どうもこの付近にたむろしているらしい」


「む。そうか。規模は?」


「20体ほどだろう。鈴を出すぞ」


「ああ。頼む」


 そんな会話をして、ヴァンさんは座席に戻り、自分のバッグをゴソゴソ探り出した。


「大丈夫なんですか?」


 ゴブリンという単語が気になったらしい結依が問いかけると、ヴァンさんはバッグから掌サイズの鈴を取り出しながら応えた。


「ゴブリン避けに鈴を鳴らしながら進む」


 そう言って彼は、チリンチリンと鳴らし始めた。これでゴブリンは俺たちを避けるようになるらしい。熊よけの鈴みたいな感じだろう。


「ありがとございます」


「礼はいらん。これが仕事だからな」


 やはり一筋縄ではいかないのがこの世界の旅らしい。鈴の音を馬車は走り出していった。


 



 その後は特にトラブルも無く、馬車はリントンという都市についた。


「馬車は一時間後に出発だ。昼飯を食べるなりなんなりしてくれ。おっと。で、ここからケーニンまでは御者が代わる。俺はここまでだ。この先も気をつけて行ってくれ!」


 そしてフィガロさんはここでお別れらしい。丁寧にお礼を言ってお昼休憩に向かうことにする。

 さて、このリントンには初めて来た。王都ほどではないが栄えていそうだ。そりゃ、馬車の中継地になるから、当然っちゃー当然か。


「結依?どうする?」


「そうねぇ」


 何を食べようか結依と二人で悩む。と、


「どうだい?一緒にご飯を食べないかい?」


 ルイスさんがそう声を掛けてくれた。それに追随するようにマーナさんも微笑み、賛同した。


「あら、いいわね。シャルティの面倒をみてもらったお礼に、なにかごちそうするわ」


「は、はい。是非。でもごちそうになるのは悪いですよ」


「そうです。自分たちの分は自分で出します」


 一緒にお昼ご飯を食べるのはいい。でもごちそうになるのは申し訳ない。そう思って自分で出すと言ったのだが、二人は引かなかった。


「遠慮しないで。リルちゃんも一緒には入れるお店にするから。シャルティもお兄ちゃんお姉ちゃんと一緒がいいわよね?」


「うん!おにいちゃん、おねえちゃん、いっしょにたべよ!」


「きゃ」


 と言いながらシャルティは結依に抱きついた。そのまま結依の手を引いてぐいぐい引っ張って行く。それを困ったような笑ったような顔で見つめながらマーナさんとリルが追いかけていく。

 女性陣とリルは和気藹々としている中、俺とルイスさんだけ取り残された。顔を見合わせて苦笑する。ルイスさんも普段苦労しているんだろうな、となんとなく伝わってきた。


「じゃ、僕たちも行こうか、ユウくん」


「はい」


 きゃっきゃとはしゃぐ女の子たちを見ながら俺たちも歩き出した。


「そう言えばユウくん」


「なんですか?」


 ルイスさんと二人で歩いていると、不意に話しかけてきた。なんだろうと思って続きを促すと、とんでもないことを言ってきた。


「ユイさんとは恋人なんだよね?」


「ぶっ」


 思わず吹きだした。慌てて否定する。


「違いますよ!ただの幼馴染です!」


「そうなの?」


「そうです!さっきも見たでしょ?結依にもたれては怒られ、リルを連れてきては怒られ・・・。恋人だったらもっと優しくされてますよ」


「うーん。それは恋人というよりはむしろふう・・・。いや、なんでもない」 


 ルイスさんが何か言いかけて、やめた。しかし俺が恋人というのを否定してもルイスさんは微妙に納得していないような表情だ。


「ああ、ここだけの話だけどね」


 ルイスさんは声を潜め、


「あの子、君がもたれて眠っている間、全然嫌な顔はしてなかったよ。というか、あの子も君にもたれて少し眠っていたしね」


「・・・」




 お昼ご飯は近くの定食屋だった。パンと魚の定食を注文。王都と違って薄めの味付けだったが、とても美味しかった。


「やっぱり自分で出します!」


「いいのよ。若いんだから遠慮しないで」


「そうそう。ここは僕たちに格好つけさせてくれ」


 というやりとりがあって、結局お昼はルイスさんたちにごちそうになった。丁重にお礼を言って馬車に戻る。

 馬車にはヴァンさんと、新しい御者の人が待っていた。


「どうも!ここから御者を務めるヘンス=ミード=アリスティといいます!よろしくどうぞ!」


 今度の御者は三十代くらいの若い男性だった。俺たちも挨拶を返し、荷台に乗り込む。俺と結依、ルイスさん一家にヴァンさん。このリントンから新しく乗る乗客はいないらしい。

 

「・・・」


「・・・なによ」


「いや、なんでもない」


「ふーん」


 お前、俺が寝ているときに俺にもたれかかって寝ていたらしいな。そういじり返そうとしたが、なんだが上手く言葉にならなかった。ふいと顔をそらすと、結依も興味を失ったようにシャルティちゃんと話し出した。

 するとまもなく、


「ケーニンには夕方か夜に到着予定です!じゃ、出発しますね」


ヘンスさんがそう告げ、馬車はケーニンに向けて走り出した。

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