表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/130

8話 ステータス測定(1/2)

 俺たち4人が謁見の間に入ると、既に大勢の生徒が集まっていた。その中にいた大友先生は俺たちに気づくと、歩いてきて出迎えてくれた。


「おはようございます。高島くん。村上くん。柴田さん。一条さん」


「「「「おはようございます」」」」


「体調はどうですか?」


「元気です」


「俺もです」


「私も元気です」


「問題ありません」


 大友先生はよかった、と微笑んだ。


「何かあったらいつでも相談して下さいね」


「はい」


 そう言うと、先生はある騎士のところへ歩いて行った。何かひと言ふた言告げると、今度はその騎士が部屋を出て行った。

 

 数分後、扉からカーン公爵はじめ十数人の貴族が入室してきた。貴族の後ろには、なにやら占いで使いそうな掌サイズの水晶と、その台座らしき木の箱を抱えた騎士たち。公爵は俺たちの前に立ち、貴族は壁際に俺たちを挟むようにずらっと並ぶ。騎士達が公爵の横に木の台座と水晶を設置し、それが終わるとパンパンと手を叩いて注目を集めた。


「さて、皆様揃われたようですね」


 ぐるっと俺たちを見回して言った。


「皆様にお集まりいただいたのは他でもありません。皆様の能力を調べる為でございます。こちらをご覧下さい」


 そう言って公爵は水晶を手で示した。


「この水晶は、皆様の能力、いわゆるステータスを可視化することができる道具でございます。ステータスは全部で4項目。筋力、体力、敏捷、魔力量でございます」


 いよいよ、本格的に異世界という感じがしてきた。ステータス鑑定だ。筋力、敏捷、体力、魔力量の4項目ってことは、主に身体能力のようなものがわかるらしい。果たして自分にはどんな能力なのだろう。不謹慎ながらも、どこかワクワクしている自分がいた。

 しかし一方で、結依や大友先生など理解していない者もいるようだ。


「簡単に言えば、皆様の今の能力を数値化する道具でございます」


 それを察してか、公爵が言葉短く説明した。それでも首をかしげている者がいたので、公爵は諦めたように首を振った。


「・・・実際やっていただくのが分かりやすいでしょう。どなたか、測定されませんか?」


「・・・私からいきます」


 手を挙げたのはやはり大友先生だ。つかつかと水晶の方へ歩み寄る。

 よく分かっていないだろうに、手を挙げる勇気。とても真似はできない。


「水晶に軽く手を触れて下さい」


 公爵に言われて、大友先生は手を伸ばす。そして手が触れた瞬間、ピカッと水晶が光った。


「きゃっ」


 かわいらしい悲鳴をあげた。しかし、注目すべきはそこではなかった。水晶の上に、ホログラムのように文字が現れたのだ。



ユリコ=オオトモ 女 異世界からの来訪者

筋力 32

体力 41

敏捷 52

魔力 80



「こ、これはっ・・・」


 公爵が声を上げた。周りの貴族、騎士も同様ざわついている。皆が驚きの声を上げ、ステータスに見入っている。


「えっ?えっ?」


 周囲の反応に、不安そうな声を上げる大友先生。何かまずいことでも、と戸惑っているようだ。


「ご、ごほん。失礼。結構です。手を離して下さい」


 先生が手を離すと、画面も消えた。


「えっと・・・。何かよくなかったのですか・・・?」


 恐る恐る、大友先生が聞いた。それを受けて、公爵はぶんぶんと大げさに頭を振って否定した。


「いやいや、とんでもない!心配なさる必要はありません。とてもすばらしい値です!」


 一転してニコニコと笑う公爵。


「皆様が元いた世界は、エリュシオンよりも上位の世界になります。上位世界の者が下位世界へ渡ったとき、能力が跳ね上がるのです。ですが、これほど素晴らしい能力をお持ちだとは・・・。やはり、私の判断に狂いはなかった・・・」


「はぁ・・・」


 公爵のテンションについて行けない先生は困惑した声を出した。同時に、悪くない結果だと分かって、少し安堵の表情も混じっているように見える。


「オオトモ様!」


「はっ、はい!」


「これは素晴らしい値です!総合値が200超え!もしや、あなたは元の世界で凄腕の戦士でしたか!?」


「い、いえ。戦いなんてまったく・・・。ただの教員です・・・」


「なんと!それでこの値!さすが救世主様です!」


「えっと・・・。そんなにすごいんですか?」


 大友先生は公爵の興奮ぶりに戸惑いながらも、質問した。問われた公爵はもちろんです、と勢いよく答えたあと、言葉を続けた。


「まず、この世界の一般的な男性は各項目の平均が20、4項目全ての値を足し合わせた総合値が80ほどです。兵士の訓練を受けると総合値は140ほどになります。熟練兵になると170ほどにまで成長し、190を越えてくるとエリート、一騎当千の強者と呼ばれるようになります。そんな中、戦いの経験が全くないにもかかわらず、総合値が200を超えるなど・・・!どうです?ご自身の強さがおわかりになりましたか!?」


「は、はい・・・」


 公爵の熱に、大友先生がちょっと引いている。

 しかし、俺は公爵が興奮するのも分かる気がした。ずぶの素人がエリートを超える能力をたたき出したんだから。それにこの値は訓練などで成長するようだから、さらに上昇する可能性もある。だからこその公爵の喜びようなのだろう。


「ほえー。先生って強いんだな」


「そうだな」


 横の村上のつぶやきに、相づちを打つ。もちろん実際の戦いではこういった数値だけでなく、技術や経験も必要だろうが、単純に身体能力が高いというのはそれだけで大きなアドバンテージだ。


「ありがとうございます。オオトモ様。では、次の方、参りましょう」


 興奮冷めやらぬ公爵が、そう言った。大友先生に変わって、前の方に陣取る生徒から次々に測定をしていく。

 そして驚くべきことに、そのどれもが高い値をたたき出していた。多いのは180台。たまに下振れして170台や、上振れして190台がいる印象。


「素晴らしい!皆様とても高い数値をお持ちでいらっしゃる!では、次の方!」


 いずれにしても、異常に高い値ばかり。公爵も機嫌が良さそうだ。


「じゃ、次はあたしね」


 元気よく宣言したのは水野だ。踊るように水晶へ歩み寄り、手を触れる。




アイリ=ミズノ 女 異世界からの来訪者

筋力 26

体力 39

敏捷 75

魔力 55



「おおっ!」


 水野の数値もなかなか高かった。大友先生には及ばないが、今まで測定した生徒の中では一番高い総合値195。


「へぇ。これがうちの能力か。よかった。先生と一緒に戦っても足手まといにならないね」


「み、水野さん?」


「えへへ。先生ってば、うちらを守るために無理しそうだからさ。先生のことはうちが守ってあげる」


「水野さん・・・」


 照れたように笑う水野と、困ったような、それでもどこかうれしさをにじませたような大友先生。その光景はとても美しかった。


「へっ。しょうもない茶番だぜ。どけ。今度は俺がやってやる」


 その光景をぶち壊したのは、前田だ。水野を押しのけ、水晶の元へ歩く。伊東と三村も一緒だ。


「前田さん、まず俺がやっていいっすか?」


「あ?なぜだ?」


「前田さんの後じゃ霞んじゃいますって」


「ふっ。確かに。さっさとやれ」


「よっしゃ」


 まずは三村が測定するようだ。



マコト=ミムラ 男 異世界からの来訪者

筋力 47

体力 70 

敏捷 54

魔力 20



 総合値191。大友先生や水野には及ばないが、クラスでも上位に入る優秀さだ。


「おおっ。これも素晴らしい値ですな!」


「どうっすか前田さん!」


 190を越えていた三村は、得意げに前田にじゃれついた。


「やるじゃねえか」


「今度は俺が」


 三村のあとを受けて、伊東が挑戦した。



ケイタ=イトウ 男 異世界からの来訪者

筋力 46

体力 54 

敏捷 21

魔力 70



「よっしゃ!」


「上出来だ」


 同じく191だった伊東も、ガッツポーヅ。子分のできの良さに、満足げな前田。


「じゃ、今度は俺がやってやるか」


 真打ち登場、とばかりにゆっくりと水晶へ手を伸ばす。自分が優秀な値をたたき出すことをみじんも疑っていない様子だ。



ヨウジ=マエダ 男 異世界からの来訪者

筋力 85

体力 66 

敏捷 45

魔力 22



「おおおおっ」


「なんとっ」


「素晴らしい!総合値218とは!」


 公爵、そして周りの貴族達が一斉に騒ぎ出した。前田のステータスは総合値218。大友先生をもしのぐ高ステータスだ。そういえば、召喚された直後、力がみなぎるとか言ってたな。このステータスの高さをなんとなく感じていたのか。


「さすがっす!前田さん!」


「最強っすね!」


「はっ!当然だ。こんなことでいちいち騒ぐんじゃねえ」


 伊東と三村のヨイショをいさめつつも、まんざらではない様子。だってニヤニヤが隠せていないし。


「これなら魔王とやらもイチコロっすね!」


「ったりめーだろ」


 がははと完全に調子に乗った笑い声を上げる前田。


「素晴らしいですよマエダ様!これほど素晴らしいステータスは見たことがありません!」


 公爵の賞賛も相まって、前田は有頂天だ。と、不意に俺と目が合った。にやっと一層笑みを深くすると、俺の方へと歩いてきた。嫌な予感。


「なあ高島。お前もやってみろよ。もっとも、俺より高いってことはないだろうがな」


「そうだぜ高島。どうせお前らしか残ってないんだ」


「前田さんのあとで恥かかなきゃいいけどな」


 ぎゃははと下品に笑う三人組。その顔が憎たらしい。ちょっと数値が高いからって調子に乗りやがって。


「悠、あんな挑発に乗る必要はないわ」


「そうですよ高島くん」


「いや、大丈夫。行ってくるよ」


 どうせ残っているのは俺たち4人だ。行くしかない。


「待て、高島。俺が先に行く」


「村上・・・」


 俺が歩き出そうとしたのを、なんと村上が制した。


「おい待て村上。俺は高島に言ってんだ」


「良いだろ別に」


 前田が凄むのを無視し、村上が水晶に歩いて行った。どうやら俺をかばってくれたらしい。ありがとう、と心の中で言って村上の背中を見守る。



カズヒサ=ムラカミ 男 異世界からの来訪者

筋力 42

体力 68

敏捷 40

魔力 68



「へっ。出しゃばったくせに総合値たったの182かよ」


 これでも十分素晴らしい数値に違いない。クラスの大部分が180台だったし、取り立てて低いということは決してない。しかし、前田たちからすれば自分たちより低い値。マウントを取ってニヤニヤにしている。


「つ、次は私が」


 彼氏が馬鹿にされたことにむっとした柴田さんが、名乗り出た。普段は気弱だが、こういう強い一面もあるらしい。



ミホ=シバタ 女 異世界からの来訪者

筋力 37

体力 27

敏捷 45

魔力 68



「総合値177!へぼカップルだな!」


「てめえ!」


 柴田さんともども馬鹿にされた村上が、怒った。前田につかみかからんばかりの勢い。

 

「和久くん!落ち着いて」


「美穂・・・」


 自分も馬鹿にされたのに、柴田さんが村上をなだめる。それを見て、村上が少し冷静になった。一瞬前田をにらむだけにとどめ、俺たちの元へ返ってきた。


「大丈夫か、村上?柴田さん?」


「ああ。でも腹立つぜ。自分がちょっとステータス高いからって」


「そうね。品がないわ」


 俺と結依が村上と柴田さんを励ます。前田にはああ言われたが、二人のステータスは悪くないんだ。


「前田くん!いいかげんにしなさい!」


「へんっ。まあいい。メインディッシュは高島だ。おい高島。もう逃げられねえぞ?さっさとやれ」


 大友先生がとがめるが、どこ吹く風。ヘラヘラ笑いながら俺に向かって顎をしゃくる。


 いよいよやるしかない。でも、ここで高い値を出せば前田を見返せる。そう気合いを入れて水晶へ歩を進める。


「では、こちらに手を」


 間近で見る公爵は第一印象通りだった。口元には笑みを浮かべていても、目の奥が笑っていない。今も俺に微笑みを剥けているように一見見えるが、形だけの笑みに思われた。俺たちを道具としか思っていなさそうな、傲慢な目。


「はい」


 とはいえ、嫌悪感を出すわけにもいかない。おとなしく水晶に手をのせる。



ユウ=タカシマ 男

筋力 17

体力 17 

敏捷 26

魔力 12



 一瞬静まりかえる謁見の間。そして


「「「ぎゃはははははっ」」」


 前田とその取り巻きの笑い下が響いた。紛れもなく嘲笑。俺の数値を馬鹿にした笑い。


「これは・・・」


「なんと・・・」


 貴族達も驚くほどの低さだった。俺の総合値は72。一般男性でも80だから、それよりも低い。言うなれば年齢通りの平々凡々なステータス、ということになろうか。それでもクラスメイトと比べたら、ダントツの低さ。

 恥ずかしさで顔がカッと赤くなるのを自覚しつつ、水晶から下がる。どうしてこんなに低いんだ、と思いながら。前田に挑発されて測ってみたが、足下にも及ばなかった。それどころか、他の生徒達の半分にも満たない低さだ。

クスクスと笑い声が聞こえる。俺を快く思わない生徒か、見物している貴族か。分からないが、その対象が俺だってことは分かる。一人だけ際だって低いステータス。嘲るには格好の的だろう。


「あいつ、低すぎだろ・・・」


「やっば」


「出来損ないじゃん」


 嘲りの視線と笑い声が俺に注がれる。それはトゲのように胸に突き刺さる。心臓が脈打つ度、トゲが深く刺さっていくような気がして、どんどん苦しくなる。


「高島くん」


 心配そうな顔で大友先生が名前を呼んでくれた。だが、それを押しのけるように前田が寄ってきた。


「高島ぁ。やっぱお前は雑魚なんだよ。雑魚。なあ。恥ずかしいか?情けないか?なあ。教えてくれよ。今どんな気持ちだ?なあ?なあ?」


「くくくっ。俺だったら恥ずかしくて死んでるぜ」


「ふっ。やめろよ三村。雑魚には雑魚なりの役割があるだろ。俺たちの盾とかさ」

 

 雑魚。盾。散々な言われようだ。数値が低いだけでこうも言われるのか。


「あなたたちっ!何ですかその言い方はっ!」


「うるせえよ大友。黙ってろ」


「なっ」


「高島。これではっきりしただろ?お前は一条の隣にいる資格がねえって。雑魚と一流は住む世界が違うんだ。雑魚は雑魚らしくその辺で這いつくばってろ。ゴミが」


 ドスのきいた声で脅される。ささやくような声だが、この場にいる全員に聞こえただろう。お前には結依の隣はふさわしくないと。

 結依は紛れもなく美少女。成績もいい。運動もできる。そんな人が、何故お前なんかと一緒にいる。そう思う男は、前田だけではない。声には出さないが、そう思ってる男もクラスにはいるはずだ。


 ・・・ああ。分かってるよ。俺が平凡な男だってことは。結依の隣にふさわしくないって。何度も言われた。前田だけじゃない。小学校のガキ大将小田や、中学校の不良大内・・・。どいつもこいつも結依に一目惚れしたとかぬかして、邪魔な俺を脅したり時には直接的に暴力を振るってきた。こいつらだけじゃない。陰で悪口を言われたことだって何度もある。

 雑魚。ゴミ。キモい。陰キャ。平凡。結依の隣にいる資格がない。たまたま幼なじみだっただけ。寄生虫。そういった、今まで言われた悪口がぐるぐると頭を駆け巡る。馬鹿。ゴミ。根暗・・・。もよもやと暗い雲が胸の中に広がっていき、じくじくと焼いていく。

 くそっ。なんで俺はこんなにステータスが低いんだ。なんでもっとイケメンじゃないんだ。なんでもっと勉強ができないんだ。なんでもっと・・・


「なあ、一条もそう思うだろ?・・・一条?」


 声をかけた前田が少し戸惑った。顔を上げてみると、俺も驚いた。いつの間にか結依が水晶のところへ来ていたからだ。何をしているんだろう。そのまま結依は手を伸ばして水晶に触れた。


 ピカッと光り、結依のステータスが表示される。前田と俺に注目していた視線が、結依のステータスに集まる。


「な、なんと・・・」


その数値を見た全員が、驚きで固まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ