84話 帰宅
前田との戦い、魔族との邂逅が終わった。村上たちと別れを告げ、俺と結依はベイル邸へ帰る。帰るのはいいんだが・・・。
「・・・」
「・・・」
会話が弾まない。というか、結依がそっぽを向いているから会話しづらい。何故だろう。機嫌が悪いという感じでもないが。もしかして結依は俺の背中にへばりついていたのを恥ずかしがっているのかももしれない。
そんな感じでほとんど会話できないままベイル邸に到着した。
「ただいま帰りましたー」
「・・・ただいまかえりました」
扉を開けてそう声を賭けた。すると、
「おお、おかえり!」
「おかえりさない!」
「わん!」
奥からすぐにロッシュさん、メイさん、リルがやってきてくれた。その顔を見るとほっとする。そして思う。ああ。帰ってきたんだな、と。この家はもうこの世界での俺の家、と呼べるぐらい居心地のいい場所なんだ。改めてそう感じた。それはとても幸せなことだとそう思った。
「ど、どうじゃった?」
そして心配そうな顔でロッシュさんが尋ねる。俺たちのことをこんなにも心配してくれている。それがうれしくてほんのり口の端が上がるのを自覚しながら言う。
「少なくとも、負けませんでした」
「・・・む?」
曖昧な俺の良い方にロッシュさんは首をかしげる。
「少し長くなるのですが・・・」
「まあ。ではお茶を入れますね」
そうメイさんが言ってくれて、俺たちはとりあえずリビングに入った。そしてメイさんが入れてくれたお茶をのみ、一息つく。疲れた身体に温かさが染み渡る。
俺たちが落ち着いたのを見て、改めてロッシュさんが聞いてきた。
「で、なにがあったんじゃ?」
「実は・・・」
俺は今日あったことを二人に話し始めた。実力的には勝っていたこと。しかし審判であるライオスがそれを認めようとしなかったと。そして何故か急に魔族が現れたこと。そしてそのどさくさで決闘は俺の勝ちではなく中止という結論になったこと。
ロッシュさんもメイさんも、俺が勝っていたところまでは顔がほころんでいたが、ライオスのことになると思いっきり渋い顔をしていた。そして魔族の話は予想外だったようで、目を見開いて驚いていた。これから本気を出す、というジャックの言葉を伝えると、さすがに深刻そうな顔をしていた。そしてその騒動を口実にライオスが決闘を中止扱いにしたことには怒りの表情を浮かべていた。
「そうか、そんなことが・・・」
「大変でしたね・・・」
「わん!」
ロッシュさんもメイさんもそう言っていたわってくれた。リルも俺の膝に乗り、ペロペロと顔をなめてくれた。その身体をわしゃわしゃとなでる。疲れた身体にこのもふもふが染み渡る。
「ともかく、よくやった。強くなったの」
「ロッシュさん・・・」
そのひと言がうれしかった。ロシュさんはずっと俺を鍛えてくれた。そんなロッシュさんの期待に応えられた気がした。
「そうですよ。よく頑張ってましたものね。ね、ユイさん?」
「え、ええ。ま、悠。がんばったんじゃない?」
ぷいと横を向きながら結依がそう言った。表情は隠れているがその耳は真っ赤に染まっていた。どうやら照れているようだ。その姿を見ているとなんだか俺もほんのり顔が熱くなってきて・・・。
「ふふっ」
正面に座るメイさんが柔らかく微笑んだ。その生暖かい視線に抗議するようにメイさんを見つめると、メイさんはより一層深く微笑んだ。・・・なんだか負けた気がして、俺もふいと目をそらした。
そんな俺たちを見つつ、ロッシュさんは表情を真剣にしてつぶやいた。
「あとはマエダがなにか報復をしてくるかもしれんが・・・」
そしてメイさんも真面目に言う。
「ユイさんとユウさんはしばらく一人で出歩かない方がいいかもしれませんね」
あの前田の目。ぐつぐつと悪意が凝縮された目だった。あいつは絶対負けを認めてはいないし、結依を諦めたわけでもない。絶対俺たちに何かしてくる。考えられるのは、街で絡んでくるか、人目につかないところで不意打ちするか。それぐらいはやってきそうだ。だからロッシュさんの言うとおり、一人で街に出るのはやめておいた方がいいかもしれない。
「「はい」」
ともかく、こうして激動の一日は終わった。なにはともあれ、結依を守れてよかった。あとは、前田がどういう行動に出るか・・・。ま、今考えても仕方ないか。とりあえず今日のところはゆっくり眠ろう。
ーーーところが、その報復は俺たちの予想を遙かに上回るモノだった。




