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82話 VS前田(2/3)

「いっけぇぇぇぇ!」


 バシイイイイ


 竹刀と皮がぶつかり合い、乾いた音が響いた。


 俺の竹刀が前田の腕の防具を捉えた。


 やった。


 俺の、勝ちだ。


「「「「・・・」」」」


 一人ぐっと拳を握る。


 しーんと静まった訓練所。


 驚いているのか。あっけにとられているのか。誰も何も発しない。しかし俺が勝ったことは明らかだ。あの無能の高島が。最強のステータスを持つ前田に。

 応援してくれていた,村上でさえ目を見開いている。これならライオスだって文句のつけようがないはずだ。


 しかし。


 いつまで経っても判定の声は響かない。


「・・・?」


 まさか、と思い、審判のライオスを見る。するとライオスは完全に明後日の方向を見ていた。まるで我関せずとでも言うように。


「っっ!?」


 くそっっ!こいつ、それでも俺の勝ちを認めないつもりか!!!


「おい審判!今ので高島の勝ちだろ!」


「ん?今なにかあったかね?私は運悪く見ていなかった。・・・それと君、口の利き方には気をつけなさい。私は貴族だぞ?」


「~~っ!!」


 そう嘲るように言われ、村上は悔しそうに歯を食いしばった。かくいう俺も悔しい。見ていない?そんなわけないだろ!

 しかし、そんなあからさまな贔屓判定をするなんて・・・。これじゃ、俺はどうやって勝てばいいんだ?


「へっ。高島。残念だったな。まだ勝負は終わっちゃいねぇ」


「まぐれが起きたぐらいでいい気になるなよ!」


 伊東と三村が外野から叫ぶ。俺を見下すようにニヤニヤ笑っている。そして前田は、


「たかしまぁぁ」


 うなるように俺の名をつぶやいた。うなりながら、ゆっくりとうつむいていた顔を上げる。それは憤怒の表情に染まっていた。と思ったら、


「しねぇぇぇぇっ!」


 猛然と駆け出してきた。


「おらあああああ!」


 前にも増してがむしゃらに竹刀を振ります。さすがのステータス。その速度は尋常じゃない。


 ブンッ


 ブンッ


 ブンッ


 次々と繰り出される攻撃を避ける。剣で受け止めようとしたら剣ごと持っていかれる。怒りを力に変えた前田の攻撃はそう思うぐらいのパワーだった。


「ふぅぅ」


 俺は一つ大きく息を吐いた。体力勝負だとさすがに俺は分が悪い。しかし前田の攻撃は止むことはない。どうするか。


「しねぇぇぇぇぇっっっっっ!」


 血走った目でひたすら俺に向かって剣を振るう。俺に攻撃を当てられたことがよっぽど気に入らないみたいだ。


「はっ」


 避ける。避ける。


「おらああああ!」


「はっっっ」


 気合い切りを、一度大きく後ろに飛んでその射程から外れる。そのまま二歩三歩と下がって距離を取る。

 俺と前田の間が大きく空いた。これで一旦間を取れる。


「ふぅ」

 

 大きく息を吐いて呼吸を整える。ここに来てステータス差がモノをいうか。俺は息が荒くなってきた。まずいな。このままではじり貧だ。

 対して前田はまだーーいや、やつも息が切れ始めた?


「おらああああ!」


 しかしそれでも前田は俺に向かって突っ込んでくる。仕方なく俺も剣を構え、軽く身体を前に動かし、前田を迎え撃つ準備をする。

 奴も疲れ始めているなら、ここが踏ん張りどころ。そう思って前方をぐっと睨む。


 ところが。


 ガン


「うっ」


 悲鳴が漏れたのは俺の口からだった。背中に痛みが走ったのだ。前田はまだ俺の前の方にいるのに。

 一体何が?


「悠っ!」


 結依の叫びではっと我に返る。


「おらあああっっ!」


「うわっ」


 一瞬、気が逸れたせいで、前田の竹刀が目の前に迫っていた。慌てて身体を翻し、間一髪躱す。そんな俺の足下で、拳ほどの大きさの石がころ、と転がった。石?なぜこんなところに?いや、まさか、これを俺の背中に当てたのか!?


「伊東っ!お前、やりやがったなっ!?」


 背後で村上の怒鳴り声が聞こえた。


「伊東っ!」


「伊東くん!」


「伊東くんっ!」


 村上だけじゃない。水野も柴田さんも大友先生も怒っている。


「う、うるせっーーうわっ。離せっ!」


「黙れ卑怯者っ!」


「そうだそうだ!」


 背後で激しい怒号ともみ合う音が聞こえる。気になるが、前田から視線を外すわけに引かない。やがて、


「高島!こいつは俺たちが押さえておく!お前は前田に集中しろっ!」


 そんな村上の声が聞こえた。そうか。村上がなんとかしてくれるのか。じゃあ俺は前田に集中できる。


「ちっ。伊東の奴・・・。しくじりやがって」


 伊東が俺の背中に石を当てたのか。どこまで卑怯なんだっ!

 だが、そんな妨害にひるむ俺じゃないっ!


「いくぞっっ」


 初めて俺から駆け出した。もういいっ。


 これで決着をつけてやるっ!


「なめやがってぇぇぇぇ!」


 前田も負けじと俺に向かって走る。やはり速い。彼我の距離はあっという間になくなった。


「おらああああああ!」


 前田が大き竹刀を振りかぶって、


「気合い切りっ!」


 真下に振り下ろす。下手したら俺を殺すような。そんな勢いのある攻撃だ。


 だが。


 その程度の殺気。


「おらああああああ!」


 オークの足下にも及ばない。


 集中しろ。


 ギリギリまで引きつけて。


「しねええええええ!」


 引きつけて。


「はっ」


 今っ!


 すっと身体を横に滑らせる。


「っ!?」


 前田はバランスを崩し、身体が前に倒れる。


「はぁっ」


 その足下。俺は身を翻しながら自分の脚を出す。


 がっ


 俺の脚に、前田の脚がぶつかる。


「ぬわっっっ」


 脚への衝撃と共に、前田の驚いた声が響く。俺の脚に引っかかり、前田の身体はさらに前につんのめる。

 

 素早く足を引いて、背後に回る。


 今にも転びそうな前田の身体。背中は特に無防備だ。


「はああああああああ!」


 思いっきり力をためて。


 剣を振りかぶって。


「せぁあああああああっっっっ!」


 しねぇぇぇぇぇ!


 本物の殺意を込めて。


 剣をその背中に振り下ろす。


 バシイイイイイイイイイイイ


 乾いた音と気持ちのいい手応え。


「ぐあああああああ」


 前田が苦悶の声を上げながら地面に崩れ落ちた。この防具は背中は薄い。さぞ痛いだろ。


 これで俺の勝ちだ。


 そう思ってライオスを見る。


「・・・」


 だが、ライオスはまだ何も言わない。


 そうか。


 なら仕方ない。


 まだ俺の勝ちじゃないなら。


 もっと攻撃しないと。


「おらあああっ!」


 バシイイイイ


「ぐあああ」


「せぁああ!」


 バシィィ


「ぐあっ」


「おらっ!」


 バシッ


「ぐぅ」


 バシィ、バシィ。


 バシィッ。


 バシィッ。


 うずくまる背中に向かって何度も何度も。


 前田はただ歯を食いしばって耐える。逃れようにも痛みのせいで動けまい。

 

 バシィ。バシィ。


 誰も声を発しない。誰も止めない。


 しんと静まりかえった訓練所に、俺が竹刀を打ち付ける音だけが響く。


 バシィィ、バシィィ


 今までの恨みを晴らすように。


 よくも俺を馬鹿にしたな。


 よくも好き勝手やってくれたな!


 よくも。


 よくも!


 よくも結依をーーー!


 バシィィィィィ






 いや。


 一人だけ。


 声を発するものがいた。


「やっっほーーーーーーーー!!!!」


 それは場違いに明るい声だった。


 それも俺たちの周りから発せられたのではない。


 見上げる。


 上空にふわふわ浮かぶ物体。


 声の主はおそらく、空に浮かぶあれ。


 それはゆっくりと高度を下げ。


 俺たちの前に降り立った。

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