81話 VS前田(1/3)
いよいよ前田との決闘当日。俺は久しぶりに王城の第一訓練所に来ていた。
「よお高島。逃げずに来たみてえだな」
そして向かい合うのは俺を見下すように笑う前田。俺に負けるとはみじんも思っていないようだ。
俺も前田も竹刀と革の防具で武装している。試合開始の合図を今か今かと待っている。というか、前田のやつ、太った?肥満というわけではないが、身体の線が丸くなった気がする。
「やっちゃってください!前田さん!」
「負けるな高島!」
ここにいるのは俺たちだけではない。伊東や三村といった前田の取り巻きや村上、柴田さん、水野といったクラスメイト、大友先生、そして結依。結依は今日前田に会うやいなやなめ回すように見つめられ大層気分を悪くしていた。俺が負ければ結依はもっとひどい目に遭うかもしれない・・・。そう思うと自然と拳に力が入る。
そして残念ながらロッシュさんたちはいない。王城には4人と一匹で来たのだが、門番に止められた。入場が許可されているのはタカシマ殿とイチジョウ殿のみです、と。なのでロッシュさんたちとは王城に入る前にお別れをした。
「ユウ、いつも通り戦えばよい。恐れる必要はない」
「そうです。そして無理をしてはいけませんよ」
「はい。ありがとうございます。頑張ります」
「わん!」
「おっ。リルもありがとな」
「わふぅ」
「ユイもあまり心配せんようにな。ユウなら大丈夫じゃ」
「はい・・・」
「じゃ、いってきます」
ロッシュさんは別れ際にこうやって励ましてくれた。お前なら大丈夫だ。それがとても心強い。前田と対峙している今も、恐怖を感じずに堂々としていられる。俺はあれだけ訓練したんだ。いかに俺のステータスが低くても。前回ボコボコにやられても。今回は大丈夫。そう思える。
そして村上たちも応援してくれた。今日会うやいなや、すぐにこう声を掛けてくれた。
「高島。がんばれよ」
「ああ」
「ま、負けてもうちらが骨は拾うからさ。ね、先生?」
「え?ええ・・・。おほん。高島くん。ごめんなさい。本当なら私が前田くんを止められたらよかったんだけど・・・」
「そんなことないよ。先生はよく頑張ってたよ。それはうちが保証する」
「み、水野さん・・・」
「「「「・・・」」」」
「・・・ま、とにかくここで負けてもトーナメントがあるわけだからさ。俺たちに任せるつもりで気楽にやってこいよ」
「村上・・・」
「一条さん。大丈夫ですか?」
「ええ。ありがとう。柴田さん。大丈夫よ」
途中水野と大友先生の美しい展開が入ったが・・・。応援してくれることがとてもうれしかった。というか、あの二人は結局どうなったんだろう。じっくり聞くタイミングがなかったから詳しくは分からないが・・・。付き合ってはいなさそうだし、かといって疎遠になっているわけでもない。
ま、それはあとだ。今は前田との戦いに集中しないと。俺は回想をやめて前田に向き合う。
「双方準備はよいか?降参か戦闘不能と判断した時点で負けとする。基準は身体の一部に攻撃が入る、竹刀が手か離れる、などである。よいな?」
「はい」
「うぃーす」
審判は前回に引き続きライオスだ。こいつはこいつで信用ならない。前回俺が負けているのにその判定をせず、俺がたこ殴りにされる原因を作ったからだ。今回もこいつが審判なら、前田びいきの判定をしてくる可能性もある。俺が前田の身体に竹刀を当てても、かすったという程度じゃ俺の勝ちは認められないかもしれない。なんてハンデだよ。
「ではーーーー、はじめっ!」
「おらああああ!ぶっ潰してやる!」
ライオスの合図と同時に激しく叫びながら前田が迫ってきた。やはり速い。そして、
「気合い切り!」
相変わらず技名を叫ぶのな。俺は予測しやすいから助かるが。気合い切りは確か大きく振りかぶって、振り下ろす攻撃。
「せああああ!」
前田の竹刀が勢いよく振ってくる。俺はそれを後ろに軽く下がって避ける。
ダーーン
目標を失った竹刀は激しく地面に打ち付けられた。土煙が舞う。相変わらずの馬鹿力。ステータスの為せる威力だ。
「これでも喰らえ!鮮烈突き!」
今度は竹刀をぐっと引き絞って、鋭い突きを繰り出してきた。俺はそれを身体をひねって躱す。
「へっ。相変わらず逃げるのだけは一人前だなっ!」
その後も前田を竹刀を振り回す。俺はそのことごとくを避ける。
なんだろう。前田の攻撃が・・・。
「でもいつまでもつかなぁっ!?」
簡単に見切れる。
「おらっ!縦連撃!」
「よっ!はっ」
確かに速い。パワーもある。
「横一文字っ!」
だが、それだけだ。
「気合い切り!」
動きが大げさで、直線的で、単調だ。フェイントもないから、次にどう動くか、どんな攻撃をしてくるか、技名を叫んでいなくても丸わかりだ。これなら、いかに前田のステータスが高くても避けるのは難しくない。
・・・いや、前回はこれでも苦戦していたんだっけ。そう思うと、俺が成長したのかもな。ロッシュさんはもっと変則的で予想だにしない動きをしてくる。カイさんはもっと鋭く予備動作がない攻撃をしてくる。リルの方がもっとすばしっこい。これまでの訓練は無駄じゃなかったってことだ。
「気合い切りっ!」
「はっ」
前田が大きく竹刀を振りかぶって、俺めがけてたたきつけた。俺はそっと後ろに飛んで躱す。
ダーンと竹刀が地面に打ち付けられ、砂埃が舞う。
「っ」
前田がその姿勢のまま、一瞬固まり、顔をしかめた。
「・・・?」
ああ、もしかして、手がしびれたのか?無理もない。あれだけの速度で地面を叩けば、手に加わる衝撃も相当強いだろう。となると・・・
「おらあああ!」
「っと」
すぐに立ち直った前田の攻撃を右、左、と避けながら考える。あの気合い切り。あれを避けて前田がしびれを感じている一瞬。それがやつの隙だ。そこを狙って攻撃を仕掛ける。
「へっ!どうした高島!避けてるだけじゃ勝てねえぞ!」
ブンブン。乱暴に振り回される竹刀を避ける。奴が隙を見せるまでは回避に徹する。攻撃するそぶりすら見せない。避けるのに精一杯だと、そう思わせて油断させるんだ。
「その勢いだっ!前田さん!」
「とってとくたばれ!高島ぁ!」
伊東と三村が外野からヤジを飛ばす。それに気をよくした前田がさらに竹刀を振るう。しかし、そんな力任せに振ったら、避けるのもたやすい。
「おらあああ!死ねぇぇぇぇ!」
後ろ!右!右!油断はするな。集中しろ。
体力はまだ大丈夫。これも訓練の成果だ。
「横一文字!」
後ろ。
「鮮烈突き!」
左。
「横一文字!」
後ろ。
「ちょこまかと逃げやがって!」
焦るな。
「気合い切りっ!」
来たっ!
「おらああああ!」
ブン
真上から振り下ろされた竹刀を、左に飛んで避ける。今まで俺は後ろに飛んで避けていた。変わった対応に、一瞬前田が目を見開いた。だが竹刀は止まらない。
ダーーン
空振りに終わった竹刀が激しい音を響かせる。
「っ」
そしてしびれが手に来るだろう。前田が一瞬硬直する。
今だ!
「はぁっっっ!」
全力で地面を蹴り、前田に接近する。
「っ!?」
俺が迫ってくるとは思わなかったのだろう。前田が目を丸くした。
「ふっっっ!」
身体の横に構えた竹刀を、思い切り振り切る。
ブン
俺の竹刀は風を切って前田の身体に迫る。
「っっ!?」
前田は急いで竹刀を掲げ、防ごうとする。
が
間に合わない。
「いっけぇぇぇぇ!」
バシイイイイ
竹刀と皮がぶつかり合い、乾いた音が響いた。
俺の竹刀が前田の腕の防具を捉えた。
明らかなクリーンヒット。
やった。
誰が見ても文句のつけようがないだろう。
俺の、勝ちだ。




