74話 訓練
「ほれっ!ユウ!いくぞっ!」
「はいっ!!」
俺は今草原でロッシュさんと対峙している。お互いに防具を着て、木刀を持って。そう。模擬戦だ。昨日の一件を受けて、俺がロッシュさんにお願いしたんだ。
昨日は色々あった。建国祭のパレードがあり、結依とクリスの告白イベントがあり、そして前田との遭遇イベントがあり・・・。結局結依はクリスの告白を断った。それはいいとして・・・。問題は前田だ。なんと一ヶ月後勇者選抜トーナメントがあるようで、前田はそれに勝って勇者の座を狙っているという。というのも、勇者になって、その相棒である聖女に結依を指名するというのだ。明らかに外堀を埋めるようという行為だ。そしてそれが嫌なら10日後に戦ってやるから俺に勝て(勝てるもんならな笑)、と一方的に告げられた。
だったら勝ってやる。目にもの見せてやる。そうメラメラと燃える心のままに、ロッシュさんにお願いしたんだ。こういう理由で強くなりたいから、稽古をつけてください、と。ロッシュさんは前田の言葉に憤慨しながら、わかった、と了承してくれた。そしてひと言。厳しく行くぞ、と。俺は望むところです、と返した。しかし、ちょっと後悔しつつある。
「はぁぁぁぁっっ」
雄叫びを上げながらロシュさんが迫ってくる。その速度は常人のそれを超えている。
「くっっ」
身体をひねり、間一髪で木刀を避ける。それもそのはず、ロッシュさんはメイさんに身体強化魔法ををかけてもらっているからだ。
「はっ」
今度は俺がロッシュさんの攻撃後の隙を狙い、突きを仕掛ける。
「ほいっ」
しかしロッシュさんは俺の攻撃をいとも簡単に躱した。これも道理だ。だって俺は強化魔法を使っていない、生身で戦っているからだ。
「ほれほれっ!もっとこんかっ!」
「はいっ!」
ロッシュさんは強化魔法を使っていて、俺は使っていない。これがちょっと後悔している理由。ロッシュさんが強すぎる。まったく歯が立たない。躱すことが精一杯で、ロッシュさんに攻撃を当てる未来が見えない。いや、最初はロッシュさんも強化魔法を使っていなかったんだ。その状態で俺が予想外に善戦した。もう少しでロッシュさんに勝つ、というところまでいった。
それを受けてロッシュさんだけ強化魔法を使うという流れになったんだ。もっとも、前田とのステータス差は絶大で、それを再現するためにロッシュさんだけ強化魔法を使っている。そう考えれば合理的な訓練ではある。しかし、ロッシュさんともただでさえステータス差があるのに、このことによってさらに広がっている。おかげでまったく歯が立たない。心が折れそう・・・。いや。そんなこと言ってる場合じゃない。前田に勝つにはこれを乗り越えなきゃいけないんだっ!
「それっ」
「うっ」
しかしロッシュさんが本当にすごいのはステータスだけでなく、その技術だ。今も俺の意識の隙間を縫うようにして剣を差し込んできた。俺は態勢を崩しながらなとか避けるので精一杯。
「ふっ」
目の前にロッシュさんの木刀が迫る。それがやけにゆっくりと見える。しかし重心が後ろに流れた状態では避けらない。
「くそっ」
バシィッ
強烈な音を響かせてロッシュさんの木刀が腹に当たった。
「いっつ・・・」
防具の上とはいえ、痛くないわけじゃない。じんじんとした痛みが腹に響く。
「悠っ!」
遠くから結依の叫びが聞こえた。情けないわね!もっと頑張りなさい!そういう意味だろうか。ま、そうだろうな。結依の身がかかってるもんな。普段はケンカばかりの幼なじみだけど、さすがにこれは結依のために頑張らないと。
「大丈夫かの、ユウ?」
「はい。もう一度お願いしますっ」
「・・・よしっ。ではいくぞっ」
「はいっ!」
ロッシュさんの問いかけに力強く答えて、木刀を構える。
そんな調子でしばし打ち合った後。
「よし。今日はこれくらいにしようかの」
「はいっ。はぁっ。はぁっ。ありがとう・・ございました・・・」
「うむ。よくやったぞ」
「はぁっ。はぁっ」
俺は息を切らせながらあざだらけの身体を草原に横たえた。もう体力が残っていなかった。
「・・・大丈夫?悠?」
心配そうに眉を曲げた結依の顔が映り込んだ。不甲斐ない俺の姿を見て、こいつは前田に勝てるのか。そう不安に思ったんだろう。
「ああ。絶対勝ってやるから。心配するな」
「・・・」
そうは言ったものの、結依の顔は晴れない。それもそうだろう。結局ロッシュさんにボコボコにされただけだった。こんなんで前田に勝てるのか・・・。俺でさえ自分でそう思っているんだから。結局この言葉も気休めでしかない。それは俺が一番分かっている。
でも、やるしかない。残り9日。死ぬ気で鍛えてやる。そして前田に食らいついてやる。




