73話 再会
お互いほんのり笑顔を浮かべながら王都を歩く。たまには贅沢もいいだろう。そう思いながら。
ところが。
「へっ。久しぶりだなぁ。高島」
あのにやついた、嫌らしい声が聞こえてきた。
「前田!?」
俺たちの目の前にいたのは前田。取り巻きの伊東と三村もいる。三人とも馬鹿にしたような笑みを浮かべ、俺を見下したような視線を送ってきている。それはまあいつものことだ。問題はなぜこいつらがここにいるのか。そして何の用なのか、だ。
「なんだ?」
睨みながら、身体を強張らせながら、警戒しながらそう問いただす。
「へっ。まあそう焦るなよ。今日はいい報せがあるんだ」
そう言って前田は不敵に唇をゆがめる。ふん。どうせろくなことじゃない。かなうなら今すぐダッシュで立ち去りたいぐらいだ。
「高島。一ヶ月後、勇者選抜トーナメントがあるんだ。そこで俺は優勝して勇者になる」
「あっそ」
勇者・・・。400年前に魔王を倒した青年の称号だったか。この世界の人にとってはさぞかし名誉なことなんだろう。尊敬もされるだろう。何かしらの特権だってもらえるかもしれない。ただ、俺は今更そんなものに興味は無い。前田が勇者になりたいんだったら好きにすればいい。
俺の興味なさそうな返答にも、しかし前田はニヤニヤ笑うだけ。まだ何かあるのか?俺を挑発するような得意げなことが。
その答えは、次の前田の言葉で明らかになった。
「俺が勇者になった暁には、一条を聖女とやらにしてもらう」
聖女!?
「な、なんだと!?」
「っ!?」
とっさに叫ぶ俺と息を呑む結依。
聖女と言えば勇者と固い絆で結ばれたパートナーだったはず。つまり、勇者と聖女はそういう関係だと見られてもおかしくないわけで・・・。
「おまえっ!」
力尽くで結依を自分のものにしようとしてるな!?こいつは俺の女だと!見せつけようと!そんなこと許さねえ!
ぐっと拳を握る。しかしそんな俺を見て前田は目を細めて舌なめずり。
「諦めな。貴族から命令を出してもらうからよ。これで一条は晴れて俺のもんだ」
「最低っ!」
俺の叫びも結依の悲鳴も無視して前田は笑う。しかし、俺はただ前田をにらみつけるしか出来ない。貴族まで出されたらっっ。くそっ。どうすればいいっ!?どうすれば結依を守れる!?
「はっはっは。一条。お前にふさわしいのは俺だ。お前にはまだそれが分からねぇらしいな」
ずいっと顔を近づけてにやける前田。それに顔をしかめながら後ずさる結依。それをにらみつけるしかできない俺。いや、いっそ、今こいつをぶっ飛ばせば・・・。
そんな考えがよぎった瞬間、前田が俺の方を向いて言った。
「しっかし、俺様は優しい。高島。特別にチャンスをやろう」
「あぁ?チャンスだと?」
そのトーナメント、俺も参加出来るってか?俺が前田に勝てばいい・・・と?期間は一ヶ月。短いが、やるしかない。いっそ全員ぶっ潰して俺が勇者にでもなってやる。そう思って拳を握った。
ところが、
「トーナメント前にお前と戦ってやる。そうだな・・・。かわいそうだし、10日の猶予をやる。10日後、城に来い」
「はぁ!?」
10日後!?早すぎる!俺に特訓の時間を与えないってか!?自分の強さを誇る割にやることがせこすぎる!せめてトーナメントはに出せよ!?
そんな俺の思いが顔に出ていたのか、伊東と三村があざ笑うように言う。
「城を出たお前がトーナメントに出れるわけねえだろ!」
「戦ってやるのも前田さんの温情だ!」
「くっくっく。その通りだ。ちなみにお前に拒否権はねぇ。万が一、お前が勝てたら、一条にはもう関わらねぇ。約束してやってもいいぞ。もっとも、無能のお前が勝てるわけねぇけどな!!」
「ぎゃははははっ!」
「前田さん!そりゃひでぇっすよ!無理なもんは無理っす!」
「そうだな!はっはっはっ!」
「ちっ・・・」
歯を食いしばる俺を見て、奴らはさらに笑った。こいつら、また公開処刑をやるつもりかっ。
ひとしきり笑った後、最後に俺を見下し、
「じゃあな、高島。せいぜい頑張れよ。一条。お前は俺のもんだ。楽しみにしてるぜ?」
そう言い残して、前田たちは去って行った。取り巻きと大笑いしながら。そしてその姿はすぐに人混みに紛れて消えていった。
「くそっ・・・」
姿を消してからもあの高笑いが耳に残る。なんて自分勝手なんだ。貴族の威を借りて結依を囲おうとするなんてっ!
「悠・・・」
結依の声は震えていた。
10日後。俺は前田と戦う。俺が負ければ。そして1ヶ月後、前田が勇者になれば。結依が聖女にされてしまう・・・。それもただの聖女じゃない。前田の女という意味を含んだ聖女だ。
さぞかし不安だろう。前田が勇者、結依が聖女になれば、二人はそういう関係だと周りから見られるかもしれないのだ。当代の勇者は自分の惚れた女性を聖女にした!なんて素敵なラブロマンスだっ!ってな。
400年前の勇者と聖女は、今でも理想のカップルとして劇でも本でも大人気だ。勇者と聖女は恋人の代名詞だ。それを利用された。
これはもう、お前は俺の女だ、と外堀を埋めるのが目的だろう。
そんなこと、絶対許さん。前田の奴めっ。クリスの爪の垢を喉に突っ込んでやりたいぐらいだ。
・・・いや。俺が勝てば結依から手を引くって言ったんだ。
ああ。やってやるさ。
「大丈夫。絶対勝ってやる」
前田。首を洗って待ってろ。




